炸裂する物欲

キヤノンのEOS 20Dを買ってしまった。衝動買いである。
 別にKiss Digital(以下KissD)に決定的な不満があったわけではない。少なくとも画質に関しては、もうこれ以上は望むべくもないほど良いと満足していた。
 のであるが、「カメラ」としての機能には、やっぱり使い込んでいくといろいろ不満も出てきたのだった。
 まず最大の不満点がフォーカスモードを任意に切り替えることができないこと。
 つまり、ワンショットとコンティニュアスの切り替えが任意でできないのである。唯一、コンテを「選択」する方法は、撮影モードをスポーツにすることだが、そうするとISOは400に固定されてしまうしホワイトバランスの設定や露出補正すらできない。
 プログラムオートとか絞り優先といった応用撮影モードでは、AIフォーカスAFといってワンショットとコンテが自動で切り替わるのだが、これがまたなかなか思うように切り替わってくれない。結局動きモノを撮るときは、シャッターボタンを小刻みに半押しをして「人間コンティニュアス」でピントを合わせ続けるしかないのであった。

 このAFモードの選択方法が最も気にくわない点だったのだが、他にも測光方式の選択ができないとか露出補正の操作が2アクションになるとか、まあ細かいところはいろいろあったわけである。
 が、このクラスのモデルとしてそういう設定になっているということは理解できたし、それが気に入らなければ上のクラスを買え、というメーカーの思惑も読みとれた。だからといって画質的にはほぼ同じパーツを使いながらソフトウエア的に古い10Dに行く気はしなかった。
 つまり、この10Dがモデルチェンジするときがひとつのタイミング、ということは予感していたのだが・・・

 10Dがモデルチェンジして20Dになったとき、雑誌などで記事を読んだのだが、スペック的には予想以上だった。
 画質的にはもうなんの不満もなかったので、600万画素のままでも私的にはまったく価値は減じなかったのだが、20Dは800万である。
 「ここまで必要なのか?」という疑問はもう100万画素から200万画素、200万画素から300万画素、と画素数が増えるたびに感じてきていたし、それでも結局画素数が多いカメラで写真を撮ってしまうと少ないカメラには戻れない、ということもその度に経験しているので、もう今さらそんな疑問は感じない。ま、画素サイズの問題もあるのでそんなに単純でもないのだが。
 20Dの新機能であるホワイトバランスの微調整機能とかは、すごいと思ったが使いこなせまい。
 が、秒間5コマ、連続23コマの連写機能はグラッときた。KissDの連写機能は「ないよりゃマシ」という程度だったからなぁ。
 AF関連もまったくの新規開発でかなり良さそうである。 

 「うわ、欲しい」とは思ったのだが、安いモノではないし、これはまだちと買えまい・・・と指をくわえていたわけであるが・・・

 話は変わるが、私の職場にもう1人、KissDのユーザーがいる。仮にH氏としておこう。
 この人、私がKissDを買って見せびらかしていたら買ってしまった人である。ちなみにカメラ経験はそれまでほとんどなく、KissDがデジタル銀塩問わず、初めての一眼レフな人である。
 が、H氏の凝り性もかなりのもので、私がKissDを買って1年2ヶ月ほどの間に撮影した枚数が4000枚ほどなのに、彼は1年1ヶ月で12000枚を突破してしまっている。また、本体を買ってから憑かれたようにレンズやらストロボ、三脚にカメラザック、バッテリーグリップ等の周辺機器を買いまくっているのである。レンズはLレンズも含めて10本近く持っているのではなかろうか。

 このH氏が、20Dが発売されてからというもの、うるさいんである。
 私は欲しくなってしまったら不幸なので、20Dの発売以降、カメラ雑誌も読まなくなったしカメラ屋にも行っていないというのに、毎週月曜日になると、「キタムラでこれだけの値段だったよ」とか「電源周りでトラブルが出てるらしいね」とか情報をきっちり耳に入れてくれるのである。
 で、「買おうかなぁ、どうしようかなぁ」というセリフを飽きるほど聞いたある日、H氏が「キタムラの掛尾店で16万円だったよ」と教えてくれちゃったわけである。
 「げげ、安い」と思ってしまったのである・・・・
 慌ててガガッと計算してみたらば、KissDを売ればなんとかいけてしまいそうなんである・・・
 「ん〜、いくか?」と思い始めてしまったのである・・・

 いくとなれば、H氏に先を越されるのだけは嫌である。悔しいんである。
 さて、どうしたものかと帰宅してカミさんに「どうしよっかな」なんて言っていたら、カミさんが言うのである。
 「あんたがそんなことを言いだしていかなかったことが過去にあったか?いや、ない(反語の用例)」

 そうか、ここでいかなかったら俺らしくないのか、などと妙な納得の仕方をして、いくことに決めてしまったのであった。
 「買えるかも」と思い出してからここまで、わずか3時間であった。
 翌日、仕事の帰りに速攻で買ってきてしまったのであった。「買えるかも」と思い出してからわずか25時間であった。
 20Dを買ってからKissDをヤフオクに出したのであった。これを売らないと資金回収ができないのだが、ちゃ〜んとヤフオクでの価格動向は掴んでいたので、絶対大丈夫という自信はあったのだ。
 これを書いている現在、まだオークションは終了していないが、ちゃんと入札は入っているので回収決定、である。

 翌日、当然の事ながら職場に持っていってH氏に、「ほれほれええやろ」と見せびらかしてやったのであった。
 最初は、「見たら欲しくなるぅ」と見るのを嫌がっていたH氏も(な〜にを今さら)、夕方には遂に触ってしまい、連写モードでばしゃばしゃシャッターを切って「ぐぉぉぉぉ」などと吠えていたのだが、その翌日、H氏もしっかり20Dを持って出勤してきた

EOS 20D

EOS 20D

EOS 20D

EOS 20D (背面)

 この右の写真がKissDの最後の仕事である。


 このカメラ、画質もさらに向上しているしカメラとしての機能はKissDとは比べモノにならず、と〜っても物欲を満たしてくれる品物なのだが、何が良いと言ってAFフレームの選択方法である。
 カスタムファンクションでこれを「マルチコントローラーダイレクト」に設定しているのだが、マルチコントローラーとは丸いダイヤルの上に見える小さなポチである。小型のジョイスティックの様なものである。
 20DのAFフレームは、十字型に5点が並んでいるところまでは従来と同じなのだが、斜めにもさらに4点並んでいて全部で9点ある。
 その9点のフレームを、このジョイスティックに親指を当ててクイッとワンプッシュするだけで、任意に選択できるのである。中央の選択はスティックを倒さずにプッシュするだけである。
 このマルチコントローラー、位置が絶妙なので完全にファインダーを覗いたまま、ブラインドタッチでしかも瞬時に好きなフレームを選択できてしまう。9点自動選択にする際は右上端のAFフレーム選択ボタンを押すのだが、この時だけは親指がホームポジションから離れる。しかし1〜2回やってみれば後はこれもブラインドタッチでできてしまう。
 この操作性はマジで感涙モノである。
 露出補正もデカいサブコマンドダイヤルでダイレクトだし、操作性に関しては本当に完璧である。

 ただ、KissDの時は常時連写モードにしていたのだが、20Dは秒間5コマも切れてしまうので、油断するとバシャバシャと連写になってしまう。
 ので、今のところ通常はシングルモードにしている。

 画質なのだが、これがまた文句の付けようがないと思っていたKissDよりさらに良くなっているのである。
 色合いとか全体の印象はKissDとほぼ同じで、サイズの違いを除けばパッと見には見分けが付かないくらいなのだが、よっく見ると「げげ」とのけぞるくらいの向上である。

ISO100

自宅近くからの剱岳
ISO100  サイズ変更のみの無加工

20D_ISO100.jpg

上の写真の剣山頂付近
等倍でトリミングしたもの

20D_ISO400.jpg

同じ画角でISO400で撮影したもの
上と同じ部位を等倍トリミング

 右の写真は20Dで剱を撮ってみたものである。
 一番上が元写真をサイズ変更したもので、2番目はその山頂部分だけを等倍でトリミングしたものである。
 で、3番目がほぼ同じ画角でISOを400にして撮影し、同じように山頂部位を等倍トリミングしたものである。

 ISO400でもノイズがまったく見えない!!

 実際にはまったくノイズレスというわけではなく、レタッチで極端なレベル補正をするとドワッと浮き出てくるのだが、そんな加工はまず通常はしないレベルの話である。
 ともかく、普通に等倍で見て区別ができないほどのノイズの少なさというのは驚愕なんである。
 KissDだと等倍で見ると明らかにザラザラした感じになる。
 でも、そのKissDでも「なんちゅーノイズの少なさ」と驚いたものである。

 ちなみにISO400の画像の方がシャープに見えるのは、こちらの方がシャッタースピードが速いからだろう。
 ISO100では、1/400sec、F11、ISO400では1/800sec、F11だった。


 

20D_ISO-H.jpg 20D_ISO-H_2.jpg

ISO3200
サイズ変更のみの無加工

左の写真の左下部分、
ドアと廊下床のあたりの等倍トリミング

 上の写真は、ISO3200で撮影した写真である。
 撮影した時刻は午後6時頃なので、実はもう外は真っ暗である。
 写真では真昼みたいに外が明るく見えるが、実際はもう真っ暗で外を走る車のライトや街灯がほんのりと明るく見える程度だった。また廊下は灯りを点けていなかったのでモノに蹴躓くくらい暗かった。
 その中をISO3200、ノーフラッシュの手持ちで撮ったのがこの写真である。シャッタースピードは1/60なので、まあ手持ちで問題ない。

 この暗さの中で1/60で撮れるというのがISO3200の威力である。
 それでいてこのノイズの少なさは・・・呆れるほどである。
 等倍で見ると確かにノイズだらけなのだが、でもコンパクトデジカメだったらISO100でも暗部ではこれくらいのノイズは出る。この等倍トリミングした部分については、KissDと比べてもせいぜいISO400という感じである。
 実際は、ISO3200でもっと明るいハイライト部分は、もっとノイジーになる。ISO100でも十分撮れるくらい明るい条件で敢えて3200で撮ると、画像の巨大さは別にしてなんだか携帯のカメラで撮ったくらいの感じになる。でも縮小すれば目立たなくなってしまうのだが。

 というわけで高感度ノイズに関しては、KissDと比べてものけぞるくらい向上していることが判った。
 KissDは当時ばかりか現在でも、他メーカーのどの機種と比べても高感度ノイズ、スローシャッターノイズ共に群を抜いて優秀だったので、これはもう比べモノにならないほどの低ノイズ、ということになるのだろう。

 というわけで、今度は長時間ノイズについても試してみたい。

20D-5min.jpg

オリオン座

レンズ:Canon EF-S 18-55mm F3.5-5.6
撮影データ:マニュアル (F8.0 , 5min) ノイズリダクション:オフ
Photoshopにてレベル補正、サイズ変更

 上の写真はISO800で5分の露出をかけて撮影した写真である。D20には差分露出によるノイズリダクション機能があるのだが、敢えてオフにして撮影した。(デフォルトがオフだが)
 周囲には街灯もまったくなく、自分の足元さえ見えない暗闇なのだが、この条件で撮影した画像は、レベルを上げてやれば山どころか手前の木もディテールがはっきり写っている。
 ノイズはさすがにわんさか出ているが、それも等倍で見てもそれほど気になるレベルではない。もやもやと浮き出てくるノイズより、はっきりと点になって写り込むスターノイズは多少気になるが、これはISO100で12分露出をかけた場合もいくつか出てきた。
 これらのスターノイズはレタッチで1つ1つ消していってもさほど手間のかからない数であるが、ノイズリダクションをオンにするとほぼ完全に消える。
 また、もやもやしたノイズはノイズリダクションをオンにしても多少残る。
 ちなみにISO100で12分露出した画像は、数個のスターノイズがあるだけで、いわゆる「もやもやノイズ」はほとんど見られなかった。

 20DはKissDのコードリモコンが使えず、新たに買うハメになった。KissDのリモコンは2,500円だったのに、20D対応のリモコンは5,500円と多少高い。
 また、長時間露出をかけるとバッテリーの減りも早いので、どのみちいずれ買わねばならないし、予備のバッテリーも購入した。KissDでは社外品を1つ用意していたのだが、これは20Dでは使えなかったので、KissDに付けてヤフオクに出品してしまった。
 これに、1画像のファイルサイズが大きいし連射も効いてしまうので、今まで使っていた256MBのCFでは少し心細くなってきた。(KissDでは256MBのCFで約76枚、20Dでは約66枚撮影可能)
 どうせなら目一杯速いCFということで、レキサーの80倍速の1GBを買おうかと目論んでいる。

 ・・・カメラを買ってからも金がかかる・・・


 購入してから約2ヶ月半、1000枚ほど撮影してからの感想である。

 結局上の文章を書いてすぐにレキサーの1GBのCFを買った。CanonのデジタルカメラはDIGICUになってから連写枚数がCFの速度に依存するということを聞いたので、レキサーのCFだと何枚撮れるか試してみた。条件によっても多少違うし、そもそも秒間5コマ出るかどうかもシャッタースピードや絞り、フォーカスモードやレンズのAFスピードによっても少し違ってくるのだが、試してみたところ最大で62枚まで連写できた。この時のレンズはEF-S 18-55である。AFモードはAIサーボ、シャッター速度優先AEで1/250secという条件である。

 ・・・ま、無茶苦茶な数字なのだが、現実として12秒間もシャッター押しっぱなしという撮影なんてする機会があるとは思えないのだが、驚いたのはその連写枚数ではなく、フルになったバッファが完全に開放されるまで20秒かからなかったというところだった。KissDがたった4枚の画像をCFに書き込むのにやっぱり10秒くらいかかっていたというのに・・・
 ちなみにバッファがフルになってもほんの2秒ほど待てば、次のシャッターは切れる。そんなこんなで、このカメラを使っていて「待たされる」ことはまずないと思うし、現実にまだ一度もそういう目には遭っていない。

 少し気になる部分も出てきている。
 フォーカスがやたらシビアなのだ。20Dを使い始めてしばらく経って、撮った写真をPCに取り込んだときに「げげ、ピンボケ」と思う写真がやたら増えた。
 でもそれはAFの精度が悪いとかいうことではないらしい。新聞紙を斜めに置いて撮った写真でチェックしてみたのだが、むしろ精度は非常に高いと思う。特に開放がF2.8より明るいレンズで試すと(すなわち中央のF2.8センサーを使える状況で)、ほとんど5mm程度のズレが生じる程度である。

 ではなんだとよくよく画像をチェックしていて気付いたのだが、「ピンボケ」と思った写真の多くは、実は手ブレなのであった。
 つまり、600万画素のKissDでは気付かなかった小さな手ブレに800万画素の20Dでは気付かされてしまう、ということである。考えてみれば、PCに取り込んだ直後は等倍表示で見ているので、その画像サイズは実寸で1m×60cmくらいになってしまっているのである。むちゃくちゃなサイズである。何気に撮ったスナップまでそんなサイズに引き延ばしてみていたら、「あれもこれもボケばかり」と嫌気が差すのも当然である。
 同じくピントの微妙なズレも当然見えてしまう。全てが上手くいったときのシャープな絵を知っているだけに、甘い写真を見るとよけいがっかりするのだが、それでもディスプレイで等倍表示では見るに耐えないと思ったくらい手ブレしていたりピントがずれている写真でも、A4にプリントしてみたら何の問題もないシャープで綺麗な写真になったりするんである。

 そんなわけで、一時手持ちで撮影するのが怖くなってしまった私であるが、最近はまたあまり気にしないようになった。手ブレしていようがピントがずれているように見えようが、たいていの写真は実はL判プリントならまったくのノープロブレムだし、A4にプリントしてですら気付かないほどの小さなブレだったりする場合がほとんどである。

 実は富山の好日山荘に何枚か写真を飾らせてもらえることになり、ちょっと気合いを入れてキヤノン純正のフォトペーパーを使ってプリントしてみた。
 キヤノンのフォトペーパーは、高い方からプレミア、スタンダード、エコノミーとあって、一番高いプレミアでは1枚100円位する。
 プレミアとスタンダードの両方を買ってみたのだが、スタンダードはこれだけ見ていれば「な・・・なんて綺麗なんだ・・・」と感動するくらい綺麗に印刷できるのだが(プリンタはキヤノンのPIXUS 860i)、一度プレミアに印刷した写真を見てしまうとダメである。もうスタンダードには戻れない・・・それくらい違う。
 とはいうものの、プレミアはやっぱりあまりにも高いので、とりあえず好日山荘に飾らせてもらう写真だけプレミアで印刷した。

 そうこうしているうちにPMAでKissDの新型が発表されたようである。
 まだ英語サイトでしか紹介されていないのだが、読んでいると「10万クラスにこんな凄いのを出して良いのか」と思うほどのスペックである。とりあえずざっと読んだ限りでは、20Dとの違いはAFフレームが旧型と同じ7点であること(F2.8センサーも使われてはいまい)と連写速度と枚数が秒間3コマの連続14コマという、まあ今となっては平凡なスペックとなっていることくらいか。インターフェースは旧KissDとほとんど同じに見えるのだが、AFモードと測光モードを選択するボタンが付いているので、これらも任意選択できるようになったらしい。
 また、記事を読むと20Dで採用されたホワイトバランスの微調整とブラケットがKissDでもできるようになり、またモノクロモードも20Dと同様に追加されているらしい。

 ま、ボディは相変わらずプラスチックだろうし、秒間5コマの連写の心地よさも知ってしまった今となっては、「待てば良かった・・・」とは微塵も思わないけど。
 ちなみに最初は連写モードにしていると、1枚だけ撮るつもりでもつい2枚ほど連写してしまっていたのだが、最近は馴れたので常時連写モードにしていても問題なくなった。

 なんにしても、なんとまあ進化、というかモデルチェンジの早いことか。
 フィルムカメラだと、ボディの性能が上がっても撮れる写真そのものにはほとんど影響がないのだが、デジカメはフィルムもセットでカメラを買うようなものなので、モデルチェンジすると飛躍的に画質が良くなったりする。なので買い換えのスパンも短くなる・・・と。

 

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