レンズ沼の恐怖

 一眼レフにはまった人が、その通常では問題とはならないほど僅かでささいな画質の差に魅入られ、まっとうな金銭感覚を喪失してしまう・・・この人の物欲の業とも言えるものをレンズ沼と言います。・・・深いです
 ま、今まではそんなレンズ沼に落ち込んでしまうほどの金がないため、幸いというか未だに無事であったのだが、それもEF70-200ISなんていうバカ高いレンズを買ってしまった時点で、この平和だった日々も終わりを告げているような気がする・・・ま、相変わらず金はないんだけど。

 そんなわけで、とりあえず入手済みのレンズについて。

[Canon EF70-200mm F2.8L IS USM]

 バカ高いレンズである。なんせ定価で\280,000円もするんである。ま、もうちょい長玉のEF300mm F2.8L IS USMになると一気に69万円もしてしまうし、さらに400mmになると100万を超えてしまう。なのでこの程度で「バカ高い」と言っているようでは、レンズ沼の住人になる資格はないのかもしれない(欲しくないが)。でもやっぱり高い。

 なぜこんな高いレンズを買うことになったのかというと、体育館の中でやる屋内スポーツの写真を撮るためである。
 体育館の中はカメラのファインダーを覗くと腹が立つくらい暗い。普通のレンズでは絞りを目一杯開放まで開けても、動いている選手を止めて写すことができるシャッタースピードにはならないし、それ以前に手ブレの危険性すらたっぷりある。
 なので今までフレッシュテニスやバスケを撮るときは、100mmマクロ50mmF1.8のレンズで撮ってきた。でもこれだとやはり焦点距離が短すぎるし、第一単焦点なので遠くと近くの画角の切り替えができず、かなり不便である。
 で、300mmF2.8になると車が買えるくらい高くなるのでその手前、200mmくらいまでのズームレンズでF2.8の明るいレンズが欲しいっ!と常々思っていたわけである。
 それにしても、こんな20万クラスのレンズなんて最初は頭になかったんだけど・・・それがどういういきさつで買うことになってしまったのかというと・・・

シグマからAPO70-200mm F2.8 EX HSMというレンズが出ている。シグマのレンズでEXというのは、光学的にかなり贅沢な造りをしているという意味でキヤノンのLと同意なんだそうな。またHSMというのはAFに超音波モーターを使用しているという意味で、つまりこのレンズ、キヤノンのEF70-200mm F2.8L USMとほぼ同格のレンズということになる。(キヤノンはUSMが超音波モーター仕様の意味)
 このレンズ、キヤノンの約20万円に対し、定価で14万円とかなり安い。また、シグマからDG化、つまりデジタル一眼向きにモデルチェンジすることがアナウンスされており、実売価格はインターネットで調べてみたら安いショップでは9万円を切っていた
 というわけで、(1)シグマの70-200mmF2.8を9万円で買おう、と思ったわけである。

 が、インターネットで中古市場を調べていたら、キヤノンのISなしのEF70-200mm F2.8L USMだと中古で10万ちょっとで動いていることが判った。
 ちなみにISというのは手ブレ補正機能のことである。
 手ブレ補正機能というのは、レンズの中にジャイロを仕込んで細かい手ブレに対してレンズの一部を動かし、ブレを補正する機能のことで、キヤノンではIS(Image Stabiliser)、ニコンではVR(Vibration Reduction)、シグマではOS(Optical Stabiliser)、コニカミノルタではAS(Anti Shake)と言う。ちなみにコニカミノルタのみ、レンズではなくカメラボディ側のCCDを動かして手ブレ補正を行っているので、これが付いたα-7デジタルではどんなレンズを付けても手ブレ補正が効くという夢のような機構になっている。
 まあ手ブレ補正も超音波モーターもキヤノンが始めて他メーカーが追従したものなので、ネーミングに関してはどうしてもISという方が馴染みが深いのだが・・・
 それはともかく、キヤノンでは70-200mmという焦点距離のズームに3本のモデルをラインアップしている。
 EF70-200mm F4L USMが約12万円、EF70-200mm F2.8L USMが約20万円、そしてEF70-200mm F2.8L IS USMが28万円である。つまり「明るいレンズ」と「手ブレ補正機能」にそれぞれ8万円の差額が設定されているような状況である。

 それはともかく、話は戻ってシグマの新品が約9万円でキヤノンの中古が約10万円、それならば(2)キヤノンのEF70-200mm F2.8L USMの中古(10万円)の方が・・・と思ってしまったわけである。

 さらに市場調査は進む。
 ISの方は中古でも18万円ほどすることが判った。つまり新品でも中古でもISの有無で8万円の差額があることには変わりない、というわけである。
 つまり、(3)中古のISは18万もするのか・・・ちょっときついな・・・というわけである。

 ところが。
 調べてみたらISの新品が20万円を切る価格で売られているショップがいくつもあるのである。この時点での最安価格は埼玉のとあるショップで\190,890(込み)であった。
 (4)なにぃ?中古と新品で1万円しか違わなかったら、誰だって新品買うよな。

 ・・・ま、そんなわけで新品でEF70-200mm F2.8L IS USMを買うことになったわけである。
 それにしてもこの(1)〜(4)を並べてみると、我ながら見事な論理の三段跳びである。

 ちょうど東京出張があったので、東京に到着するなり目当てのショップに走り、速攻でゲットしてきた。もちろんローンレンジャーである。借金は貯金の先取りである。

 重い。たいへん重いレンズである。なんせ1.5kgもある。でも左手でレンズをホールドしてしまえばバランスが取れるので、意外に手持ちでも構えやすいし、何より手ブレ補正が効いているので、相当遅いシャッタースピードでもブレずに撮れることが多いのは嬉しい。
 今まで撮影した体育館のバスケやフレッシュテニスの写真を見ると、ISO800でもF2.8,1/125secなんて写真はけっこう多い。これで今までは50mmや100mmのレンズだったから大部分ブレずに撮れているが、200mmの望遠端だったら手ブレ必至のシャッタースピードである。
 なのでやっぱりISで正解なんだ・・・と自画自賛している今日この頃である。これが例えばEF300mm F4L IS USMだったら、シャッタースピードは1/60secになってしまう。仮にISで手ブレを防止できたとしても、このシャッタースピードでは被写体ブレは必至である。(300mmで1/60secは、いかにISといえど手ブレを防ぐのは難しいだろうし)

 画質の方も、今まで普及価格帯のレンズしか持っていなかった私には目から鱗状態である。
 普通のレンズは絞り開放だとちょっと画質が甘くなったり画面周辺が流れたり光量落ちがあったりするものなのだが、このレンズはLだけあって開放でもガンガン使えると思える画質である。また絞りを開けたときのボケもとても綺麗で良い。
 ま、これで画質が同じだったら怒るけどね。

 ただ、「画質」ということで考えると、確かにディスプレイで等倍で見たときのシャープネスは別格なのだが、これ、A4に印刷したら今までのレンズとあまり変わらないのでは。シャープさに限れば、だが。
 ま、コントラストはぜんぜん違う。タムロンの28-300mmのテレ端だとかなりコントラストが落ちて「もやがかかったような」絵になることが多く、それを見れる写真にするためにはPhotoshopなどでかなり強引なレタッチをしなければならない。その点このレンズだとコントラストも色乗りも十分なので、レタッチは軽くするだけで十分だったりする。

 しかしこの重さでは、山には持っていけないね。

 

[Canon EF50mm F1.8U]

 「純正は高い」というイメージのEFレンズで、これは別格の定価\12,000という安さである。
 が、このレンズ、キヤノンの一眼レフユーザーは全員買うべき!と言いたくなるほど写りは良かったりする。
 ま、ボディはプラ丸出しで安っぽいことこの上ないし、フォーカスリングもスカスカだし、てっきりオモチャかと思うほど愛想がない。でもこれだけ安くてこれだけ写るんだから全て許す、と言いたくなるほど、やっぱり写りは良い。
 単焦点レンズって素直に何の凝った造りをしなくてもちゃんと写るものなんだろうか。

 まあ、F2.8くらいまで絞ったときのシャープな絵を見てしまうと、開放絞りでは少〜し画質が甘く見える。
 それに6角形のボケもちょっと「なんだかなぁ」と思ったりする。
 それでも軽いし50mmという焦点距離(デジタルでは80mm相当)が、あまり深く考えなくても気軽にカメラを向けてシャッターを切っても、わりとそれなりの絵になっていることが多い画角なので、20Dにこのレンズを付けっぱなしになっていることがかなり多い。

 次男の小学校入学式だったか、私が例によってこのレンズを付けっぱなしでいた20Dをカミさんが持っていった。
 後で「あんなズームもできないレンズを付けておくなんて酷い」と文句を言われたが、でも体育館の中の入学式をあまり苦労せずに撮れるレンズって、当時の手持ちレンズではこれだけなのだ。まだ70-200mmISを買う前なので。(でも70-200はカミさんには触らせたくないが)
 他のレンズだとISO上げたり絞り優先にして開放にしたり、とかいろいろ工夫しなければ全て手ブレ写真になってしまう。最後の裏技は、マイナス補正でシャッタースピードを稼ぎ、当然暗く写ってしまうのでそれをPhotoshopでレベル補正して明るくする、ということまでしたりするものである。
 このレンズだと、わりと何も考えなくてもなんとか許容範囲のシャッタースピードになっていることが多いのだが・・・

 

[Canon EF100mm F2.8 Macro]

 実は職場のレンズである。
 解剖写真などを撮るためにカメラを使うのだが、今はマクロに強いからと買ったがAFが弱くて使いにくかったニコンのクールピクス5000を使っている。
 が、昔は銀塩の一眼レフを使っていたことがあり、今でもEOS 650EOS IXEが職場に転がっている。レンズも何本かあって、この100mmマクロの他に50mmコンパクトマクロなんかもあったりする。昔のものなので当然USMでない旧型である。また、マクロリングライトもあるのだが、昔のML-3なので今のカメラにはほとんど使えない。
 で、100mmマクロはちょくちょく使ったりしているのだが、やはり名玉と噂されるだけあって大昔のレンズとは思えないほどよく写る。デジタル対応レンズって何よ?と思うくらい。
 外観はそれほど大きくもないのにかなりずっしり重かったりするし、AFはさすがにキヤノンとは思えないほど遅かったりもするが。

 それにしても解剖写真を撮るってのに、何故等倍マクロレンズ?と不思議には思う。50mmコンパクトマクロあたりが解剖写真には使いやすいと思うのだが・・・解剖写真で等倍なんて絶対やらないぞ・・・

 

[Tamron AF28-300mm F3.5-6.3 XR (A06E)]

 バカ売れにバカ売れしたレンズである。
 広角の28mmから超望遠の300mmまで1本のレンズでカバーし、しかもそれがこんなに軽くて小さいなんて、まるで魔法のようなレンズである。
 これを付けているとレンズなんてこれ1本で十分と思わせるものがある。思わなくなったらレンズ沼への第一歩を踏み出した、ということなのだろう。
 シグマからも同じ28-300mm F3.5-6.3というレンズは出ていたのだが、不思議なことにこちらはあまり売れず、タムロンばかりが売れた。

 ま、確かにこのレンズ、28mmから300mmをカバーする、という焦点距離コンシャスのレンズだけあって、画質的には突っ込むところはけっこうある。望遠端でも周辺光量の低下や周辺画像の流れはけっこうある。
 なんといってもテレ端のF値が6.3と暗いのは辛い。F8まで絞ってもたった半段なので周辺光量や流れはあまり改善されないし、何よりシャッタースピードが稼げない。
 300mm(480mm相当)のテレ端だと、F11くらいまで絞ってそれでもなおかつ1/500secくらいのシャッタースピードは確保でき、ビシッと構えてブレずに撮れた写真、すなわち全てがはまると確かに文句ない絵が撮れたりもするのだが、全てがはまることは滅多にない

 まあ、このレンズを「画質が悪い」と言いきる人は既にレンズ沼にどっぷり漬かってしまったLレンズ渇望症の人だけだろうし、これだけの焦点域をカバーして「1本で済む」レンズとしては画質にはたいして文句を言うべきところはない。
 でも、70-200mmを買った今となっては、下界ではこのレンズの出番はだんだん少なくなっていくだろうな。
 山にはこれからも持っていくだろう。70-200なんて重いレンズは持っていけないから。

 それにしてもこの28-300mmという焦点距離、銀塩なら文句ないのだがデジタルでは44-480mm相当となってしまって中途半端である。広角側が足りないのでもう1本持って行かなくてはならない。
 このレンズを購入後しばらくしてタムロンからアンケートが来たとき、「18-200mmを出せ」と書いたのだが、それから2年経って今年の春、ようやくそれが出てきた。買い換えようかな・・・?
 でもやっぱりテレ端のF値は6.3なのだ。せめて5.6なら・・・
 シグマからも同じ焦点距離、同じF値のレンズが出た。今度は同等に売れるのだろうか。
 詳しく見てみると、シグマの方が少しだけコンパクトだし、テレ側で開放F5.6を維持するレンジが広い。シグマはほぼ200mm一杯でようやく開放F6.3になり、それまではずっとF5.6なのに対し、タムロンは125mm付近からF6.3になってしまうそうだ。
 なので買うならシグマの方が・・・という気はする。

 ま、こういう超高倍率ズームは、それこそ山に持っていくとか旅行に1本だけ持っていくとかの用途に使うレンズで、これだけを付けてこれしか使わなくなってしまうんだったら一眼レフをわざわざ買った意味がなくなってしまうと思う。
 同じ焦点距離でもレンズによって写りはぜんぜん違うからね・・・

 

[Canon EF-S18-55mm F3.5-5.6 USM]

 始めてのデジタル一眼レフ、EOS Kiss Digitalを買ったときに付いてきたレンズである。今では単体売りもしていて、2万円ちょいで買えるそうである。
 これも「とにかく安い標準ズームを」というコンセプトで作られたレンズなので、とかく造りはチープである。前玉が回転するのでフィルターを付けるのに苦労するし、フォーカスリングはスカスカである。リングも狭いので「ピント合わせにマニュアルは使うな」と言わんばかりのレンズである。
 でも、画質には手を抜かなかったのがキヤノンの偉いところ、というか商売が上手いところで、画質は凄く良い。
 この焦点距離のレンジだと、キヤノンには名玉の誉れ高いEF17-70mm F4L USMがあるのだが、確かにこいつの画質がベストだとしても18-55との差はA4プリントではたいして違わないほどの差しかない。
 むろん開放では少し甘くなるし周辺光量落ちや流れもあるのだが、絞れば見事にシャキッとする。

 こういう文句の付け所が少ないレンズでさえも、「買い換えようかなぁ」という気になってしまうのがレンズ沼のレンズ沼たる所以なのだが、このレンズをリプレイスするとすれば、やはりEF17-40mm F4Lか。
 でも、シグマから18-50mm F2.8EX DCというレンズが出ていて、これの評判がまた良い。絞りなどの条件によっては17-40に遜色ない画質なんだそうな。面白そうである。

 でも、同じ画角のレンズをリプレイスするより、もっと超広角のレンズを足した方が実りあるような。
 EF-S10-22mmなんて面白そうである。

 

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