2005年秋〜冬 THE NORTH FACE の傾向と対策

 個人的には実はノースフェイス(TNF)はあまり好きなメーカーではない。
 いや、モノがどうのというより、昔山で会った嫌〜なやつが上から下までノースフェイスを着ていた、というだけの理由だったりするのだが、去年たまたま手に入れたV3ジャケットがやっぱりあまり好みに合わなかったこともあったりする。

 実際の話、技術的にはけっこう先鋭的なんである。ファスナー等にポリマーを注入して耐摩耗性を高めたりベルクロの接着面をフラット化したり、かなり凝ったことをやっている。
 でも、そういう最新の技術はフラッグシップモデルにしか投入されておらず、価格も非常識と思えるほど高い。今季のアウターのフラッグシップモデルはなんと6万円オーバーである。
 そのあたり、なんだかF1での活躍を背景にNSXやS2000などの高価格高性能モデルで「技術力は最高!」というイメージを高めておいて、実際にはたいした開発費もかけずにお手軽に作ったステップワゴンあたりを大量に売りさばいたホンダあたりと被る。好き嫌いで言えばあまり好みではないやり方である。
 ま、6万円のジャケットを着て冬山に登り、気軽に肩絡みの確保ができるような経済力を持っている人は、「TNF最高!」と言ってていいんだけど。あるいは今季のTNFのソフトシェルでのフラッグシップである6万8千円のジャケットを着て、岩場で気軽にチムニー登りができるような人は。

 ま、ひがみはともかくとして、TNFのカタログを読んでいてももうひとつ面白くないのは、技術的な情報が少ないのである。
 例えばモンベルであれば、アウターの素材にどういう生地を使っているか、ということについて、「表地:40デニール・アンチグリース・バリスティックナイロン(身頃)/40デニール・ナイロン。ツイル(横メカニカルストレッチ/肩・フード) 裏地:75デニール・ポリエステル・メッシュ(身頃)/40デニール・ナイロン(袖)」というように、やたら詳しい。この表記を読んだだけで、どういう生地を使っているのかほぼ具体的に判るように書かれている。ちなみにこの表記中の用語でツイルというのは単なる織り方でデニールは糸の太さ(=生地の厚み)なのだが、アンチグリースバリスティックはモンベルオリジナルの技術要素である。これらほとんど全ての用語に解説や図解入り解説があるので、丹念に読めばこの表記だけでどういう意図でどういう性能を目標に開発されたウエアなのか理解できてしまう。

 それがだ。TNFのカタログだと、「[Fablic] GORE-TEX® Stretch XCR(3層)」と書かれているだけである。こんなのゴアテックスウエアの半分は同じ表記で済んでしまうぞ。
 それでもアウターはまだゴアテックスウエアが大半なので、少なくとも「ゴアテックスを使っているんだ」ということは判るが(そんなの判ったうちには入らないが)、ソフトシェルになるとさらに判らない。今年モデルチェンジしたV3サーマルジャケットの表記は、「Apex Universal Fablic」だけである。なにそれ?どんな生地?
 まあそんなわけでけっこう厚い割にはつまらないカタログである。
 まあそれも好きずきなのだが、私は別に山道具に限らずおしなべて工業製品というものは、開発者がどんな機能を実現したいと思い、そのためにどんな技術を駆使したのか、という意志とそのプロセスが見えるものを好む。ま、さすがに家電はそんなことには拘らずにデザインや最終的な機能差だけで買うけれど。
 ま、そういう意味でTNFはあまりそれが見えないので好みではない、というだけの話である。意志とプロセスが見えるモノはバカ高いし。

 ちょっと気になるのは、GORE-TEX® Stretch XCRという表記である。ゴアテックスXCRというのは、現在のゴアテックスウエアの大半に使われている標準素材なのだが、ストレッチXCRというのは如何なるものか。
 モンベル製品がXCRを使いながら多くのモデルでストレッチ性を付与しているので、XCRという素材は元々伸縮性を持っているのでは、と想像したのだが、もしかしたらストレッチXCRという素材がゴアテックス社から出ているのか?
 でも、ゴアテックスのタグにはストレッチXCRというものはなく、この表記のモデルもタグは単なるXCRである。登録商標マークもGORE-TEXの後ろにあるしなぁ・・・
 まあこんな具合で、どこまでがゴアテックス社の素材で、どこからがTNFの独自技術なのか、いまいちよく判らない表記である。

 ちなみにゴアテックスXCRについては、カタログにはこう書かれている。

 「THE NORTH FACEの独占素材です」

 おーい、嘘つけ〜。
 それとも私が知っているゴアテックスXCRとは別のXCRなのだろうか。性能値は同じだけど。
 現在はほぼ世界中のアウトドアウエアメーカーがゴアテックスXCRを使ったウエアを出しているんだけど。

 ちょっと面白いのは、モンベルがゴアテックスXCRを使用、とカタログに記載したのは2004年の春からである。
 しかし実際には2001年のシーズンからモンベルのカタログに記載されているゴアテックスの性能値は、現在のXCRと同じ45,000mm , 13,500g/m2-24hになっている。また、単なる「ゴアテックス3レイヤー」と表記された2003年のストームクルーザーと「ゴアテックスXCR 3レイヤー」と表記された2004年のストームクルーザーは、モデルチェンジもしておらず品番すら変更されていない。
 このことから、モンベルでは「XCR」の表記をカタログに出す3年も前から、実際にはXCRを使用していたことが判る。(それ以前のカタログでは「新世代ゴアテックス」とモンベルでは言っていた)

 新素材を優先的に使用するライセンス、など様々なライセンスがゴアテックス社と各ウエアメーカーの間に存在するらしいことは知っていたが、するとXCRに関しては「その名をカタログに表記する権利を有する」というようなライセンスが存在したのではないかな?と想像させられてしまう。
 なんでそんな複雑なことをするのかは判らないが。独占メーカーのすることはよく判らない。

 さらにカタログにはこう書かれている。
 「軽量な糸を使用しながら、高い引き裂き強度と耐久性を実現」
 い、、糸ぉ〜?
 ゴアテックスって繊維ではなくメンプレンなのだが・・・
 ま、これは表地とかのナイロン繊維のことを言ってるんだろうな。紛らわしい。

 

 他のモデルも同様である。
 ソフトシェルのフラッグシップであるアイアンマスクジャケット(6万8千円!)は、なんとソフトシェルを名乗りながらゴアテックスを使っているのだが、その表記はGORE-TEX® Softshell Fablicである。そんなものがゴアテックス社から供給されているのか?と一瞬思ってしまう表記である。いや実際よく判らないんだけど。
 ちなみにこのモデルのカタログの紹介文は、「もう雲行きを気にして、クライミングから集中力がそがれる心配はありません」である。こんなバカ高いジャケットを着てクライミングしていたら、岩角に擦れたザイルが擦れたといちいち気になってクライミングに集中どころじゃないような気がするんだが。チムニーなんかが出てきたらさめざめと泣いてしまいそうである。あ、脱げばいいのか。

 それとちょっとゲテものだが面白いものが出ていて、なんとデニムのゴアテックスジャケットである。その名もゴアテックス・デニムマウンテンジャケットという。これもカタログ表記はDenim GORE-TEX® となっていて、そんなゲテものがゴアテックス社から出ているのかどうかよく判らない。
 ま、明らかにゲレンデのスノーボーダーあたりがシャレで着るウエアだろう。そのシャレに6万円も出すやつがいるのかどうかは知らないが。
 いくらゴアテックスでウエアの内側に浸水することは防御できるとはいっても、しょせんデニムである。
 ゴアのメンプレンの表側の生地はたっぷり保水する
=ウエア表面に水の膜ができる
=透湿性がゼロになる
=ゴアテックスの意味なし、となるのは火を見るより明らかである。冬であればその水の膜は片っ端からウエア表面で凍るのでなおさらである。

 

 カタログから得られる技術的な情報が少ないだけに、どうしても読む目が分析よりもツッコミに偏ってしまうなぁ。
 実際、ツッコミどころはいくらでも出てくるんである。

 ダウンジャケットのカテゴリーに、アコンカグア・オプティマスジャケットというモデルがある。4万4千円ほどのモデルである。
 これの紹介文が、「雪などの条件下でも着用可能なダウンウエア」という文句で始まる。
 「ダウンの偏りを防ぐバッフル構造をシームレスで実現」というあたりはモンベルなら図示して見せてくれるところだが、相変わらず判りにくい表現である。
 が、「水分侵入の原因となる縫製を不要とすることで、高い防水性を実現しています」というあたりでは、「ちょっと待て」と言いたくなるぞ。防水性の生地を使用していない限りは、水分は生地そのものからも侵入するのだが。
 ダウンウエアの場合、水に弱いダウンの弱点を防水性生地でカバーすれば良さそうなものなのに、ほとんどのメーカーでそれは実現されていない。それはなぜかというと、ダウンはロフトを稼ぐために通気性を必要とするのだが、たいていの防水性素材は通気性を持たないからである。
 それを「縫い目がないから高い防水性」という一言で片づけられたら面食らうのだが・・・
 防水性を持ったダウンウエアというのは、実はかなりの技術的なブレイクスルーがないとなかなか実現しないものだと認識しているのだが、TNFはそこをクリアしてしまったのだろうか。その割にはカタログの書き方はあっさりしているぞ。
 ま、最初に「雪などの条件下」という書き方をしていることから、雨の中では使えない程度の防水性と受け取れる。ならば「高い防水性」なんて表現は安易に使って欲しくないが。
 湿雪や小雨程度の条件下で使用可能な程度の耐水性を持ったダウンウエアなら、別に珍しくはないのだが、わりと本格的な雨の中でも着れるダウンウエアは、実現したらちょっと凄いことだと思うのだが・・・
 さらにカタログの文章は、「また、コールドスポットをなくした」と続く。コールドスポットをなくすためにどういう技術を投入してどういう工夫をしているか、なんてモンベルだとチマチマと説明しているのだが、相変わらずTNFはそういう説明には字数を割かない。
 それより、カタログの写真を見る限り、私には前面の露出したファスナーはモロにコールドスポットに見えるぞ。ファスナー面からの寒気の侵入は、なかなかバカにできないんだぞ。

 もうひとつ、ダウンジャケット(正確にはインシュレーションウエア)のカテゴリーに、ゴア・インサレーションジャケットというモデルがある。6万円である。
 このモデル、書き出しが「ダウンウエアは雨に弱い。という常識をこのゴア・インサレーションジャケットが覆します」である。
 モデル名からもゴアテックスを使っているのは明らかで、ダウンにゴアテックスという組み合わせは非常に珍しいだけにかなり興味を引く。
 なんでゴアテックスをダウンに使わないのだろう、とは誰もが一度は抱く疑問である。ま、山用のウエアとしては、行動中にダウンを着るような気候条件で水が水として存在することはほとんどあり得ないので、ダウンジャケットの防水性というのはそうはシビアに要求されないのであるが、半ば街着としては非常に有効性が高いはずである。出せば売れるぞ。でもなかなか出てこない。
 結局、上にも書いたがダウンとはパンパンに膨らんでそこに空気を溜め込んでなんぼの素材である。ロフトを稼ぐためには空気を取り入れねばならず、生地に通気性がなければどんな高性能なダウンでも膨らまず、ロフトが出ない。つまり保温性能も出ない。
 というわけで結局、ダウンに通気性がない防水生地は使えず、ダウンウエアは雨に弱い、という常識が成立しているわけである。
 なのでこのウエアには興味を引かれて読んでみると・・・なんだ、ダウンじゃねーじゃねーか。プリマロフトという化繊の中綿である。化繊の中綿にゴアテックスという組み合わせなら、別に珍しくも何ともないぞ。
 それにしても、ダウンウエアは雨に弱い、という常識をこのゴア・インサレーションジャケットがどう覆しているのか、ひたすらに謎である。また、化繊中綿にゴアテックス、というありふれた組み合わせのウエア、として見ると、この6万円という値段は異様に高く感じる

 まあこんなわけで、ツッコミどころ満載という意味ではなかなか楽しく読めるのであるが、私の場合分析の対象にならないモノは購買意欲が湧かないので、まあツッコミだけで終わる程度のカタログだったりする。
 どうせならパタゴニアみたいに読み物として楽しく読める文章なら、まだ購買意欲も湧くのだが・・・(高くて買えないが)


 先日、とある量販店でV3サーマルジャケットの実物に触れる機会を得た。
 裏地に起毛した薄手のフリース地の様な素材を使っている。表地もナイロンのストレッチ地である。表記が「Apex Universal Fablic」という訳のわからない表記なのでなんだと思うが。
 前モデルのV3ジャケットモンベルのマウンテントレーナーと比較したことがあったが、一言で言えばV3サーマルジャケットは、マウンテントレーナーみたいなウエアになった、ということである。現行のマウンテントレーナーはショーラーダイナミックの1枚地になってしまい、裏地が起毛地ではなくなってしまった。ショーラーダイナミックじたいの肌触りは決して悪くないので、前V3ジャケットよりは素肌に違和感なく着ることができるウエアだが、保温性と吸汗性は若干犠牲になってしまっている。
 なので、袖の私の好みではない仕様と合わせて考えると、現行のマウンテントレーナーよりはノースのV3サーマルジャケットの方が使い勝手が良いかもしれない。比較すればマウンテントレーナーの2002年型に一番近い仕様である。値段もノースにしてはそれなりだし。

 今季ノースの2大ゲテものである、デニムマウンテンジャケット(デニム地にゴアテックス)とアイアンマスクジャケット(ゴアテックス®ソフトシェル)の実物にはまだお目に掛かったことがない。一度見てみたいものだが・・・

 

 

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