平成15年5月2-3日 比良

5/2 8:30 正面谷出合 出発
  10:05-10:30 青ガレ 
  11:35 金糞峠
  12:45-14:00 八雲ヶ原 (昼食)
  14:45 金糞峠
  16:10 中峠
  16:40 口の深谷源流部(テント泊)
5/3 5:00 起床
  7:40 撤収、出発
  9:15-10:30 武奈ヶ岳山頂
  12:15-13:30 八雲ヶ原 (昼食)
    ロープウェイ・リフトで下山
  14:40 正面谷出合 着
    山と高原地図 「比良山系」

 「町内の山」とか言いながらいきなりぜんぜん町内でも県内ですらない山の話である。

 比良は中学と高校時代に飽きるほど登った山である。尾根、沢含めて当時存在した登山道はとりあえず全て歩いたし、沢も主な沢は全て遡行した。
 特に武奈ヶ岳周辺は道もついていない尾根筋も含めて、あらゆる尾根と谷はひととおり歩いている。
 比良は最高峰の武奈ヶ岳でも1214mとたいして高くない山だし、山脈の全長も24km程度とかなりこぢんまりした山なのだが、その割には地形や地質の変化に富んでいて面白い山である。
 東面は琵琶湖に面していてボロボロに風化した花崗岩質で「明るい」代わりにかなり荒れた雰囲気を持ち、西面は安曇川に面していて鬱蒼とした樹林帯が多い。西面は岩質もしっかりしていて、ゴルジュが発達した沢も多く奥の深谷なんかは最高に楽しい。
 また、西には比良より高い山はなく、割と季節風をモロに受けるせいか、稜線にはいっちょまえに雪庇も発達する。高校時代、よく西南稜の雪庇の上でジャンケンをして負けたら一歩前に進む、という「勇気の一歩遊び」をやったものである。西南稜の雪庇を全部崩したことも。
 また、武奈ヶ岳は前衛峰の位置関係で、登山口から飛ばせばわずか3時間程度の山でありながら、山頂からほとんど「町」が見えないと言うこともあり、けっこう「山に登ったぞぉ」という気にさせてくれる山である。
 今回、大津の実家に帰省ついでに比良にテント1泊で登ることにした。
 ルートは、一番変化に富んでいて楽しい正面谷から金糞峠。後は子供(特に次男)の調子次第でルートを選びながらテントは口の深谷源流部に張る、ということだけ決めていた。キャンプ場は八雲ヶ原にあるのだが、ゴミゴミガヤガヤしたところなので、そこに張るくらいなら日帰りの方がマシ。また、金糞峠下にもテント場はあるのだが、水があまり良くないのと(上流に八雲ヶ原)人通りが多い場所なので、ここもパス。中峠とワサビ峠の間の口の深谷源流部なら、まず午後3時を回るとあまり人が通らない場所だし、ここでテント張る人もいないだろう、ということで。
 問題は、正面谷で近年、死亡事故が発生して通行禁止の措置が取られている、という情報。確かに荒れた谷だったが・・・なんせほとんど20年、足を踏み入れていないのであれからどう変わっているか見当もつかない。
 ここを通れなければダケ道を登るしかないのだが、この道は大嫌いである。高校時代もう嫌になるくらい通った道だし(正面谷もそうだけど)、こういう単調な尾根道は嫌いだ。
 ということで、その点だけ「保留」ということにして、とりあえず現地へ。

 イン谷口出合に車を停めて、正面谷入り口にある比良管理事務所へ。休日前のせいか、事務所に人はいない。
 事務所前の看板には「正面谷を通らずダケ道を通るよう」という看板がある。でも、書き方がなんだか弱腰である。少なくとも「通行禁止」という響きはない。
 ん〜、とりあえず分岐点の大山口まで行ってから決めよう、と歩き出す。
正面谷を歩く

 

 

 

正面谷を歩くカミさんと長男


 

 それにしても・・・正面谷ってこんな谷だったかぁ〜???
 記憶にある正面谷は開けた車道(ところどころ崩壊していたが)を、ひたすらジリジリと太陽に炙られながら歩く、というものだったが・・・
 車道は跡形もない。下の方にはまだ痕跡はあったので、たぶん崩壊して埋まってしまったのだろう。それにしても、この林はなんだ?たった20年でここまで「林」になるものだろうか・・・
 イン谷からすぐのところは綺麗に整地されてチャンプ場になってるし。

 大山口まで来て考えた。このまま正面谷を行くべきかダケ道を登るべきか。自分1人だったら考える余地なく正面谷だが・・・
 確かにあれからかなり崩壊が進んでいたら、子供連れてはやっかいかも。比良東面の崩壊した谷のやっかいさはこれまた格別で、風化花崗岩のガレなんて「岩」というよりは「砂の塊」と呼びたくなる様な代物になる。それで傾斜でもあろうものなら、「ここを登るくらいなら剣の池ノ谷ガリーで昼寝した方がマシ」とでも言いたくなるほどヤバイ。
 とはいうものの、そこまで崩壊が進んでいるのなら廃道になってるだろうし(現に南比良峠に登る深谷の道は跡形もない)、道標もあって「禁止」でもないということは、まあ普通の道なんだろう、と考え、長男が「青ガレ行きたい」と騒ぐので正面谷ルートを行くことにした。というか、私がどうしてもダケ道を登りたくなかったから、なのだが。

 さて、正面谷に入ると道はますます細く、「普通の登山道」になってしまった。もはや昔の林道は面影もない。ところどころ崩壊した林道のかけらが見えたりするので、「ああ、ここは確かに正面谷」と安堵するのだが、昔の林道とはそもそもルートが違うみたいで、けっこう谷通しを行く。
 良い感じの樹林帯で「昔より全然いいじゃ〜ん」とご機嫌で歩く。

 青ガレは・・・長男には期待させて申し訳なかったけど、単なる普通のガレ場である。

 

青ガレを登る長男とカミさん
青ガレを登る長男とカミさん
まあ楽しそうで良かった


 

 昔ここを真夜中に登った時は、ルートを外して上の方まで行ってしまい、ちょっと青くなったこともあったが(だから"青ガレ"なのか!)、今じゃご丁寧にロープまで張ってあるので間違えようがない。
 ここから金糞峠までも雰囲気のいい樹林の中を登り、ほとんどコースタイムどおりで金糞峠に着いてしまった。
 懸念された次男のペースも、追い越していく人たちがみんな「小さいのに頑張ってるね〜」と声をかけてくれるので、調子に乗って良いペースで来た、ということか。

 ここでちょっとミスを犯してしまった。
 あまりにも調子よく来たので、このまま中峠を越えて幕営予定地まで行くと早く着きすぎる、と思い、八雲ヶ原に回ってコヤマノ岳→中峠というルートを選んでしまった。ところが八雲ヶ原に着く頃には次男は既にイジイジモード。子供の限界は読みにくい・・・
 ちなみに八雲ヶ原は近畿地方では珍しい高層湿原である。ところがその湿原の一部にスキー場を作るという暴挙をやってしまっている場所で、残った湿原もあっという間にただの草原になってしまうだろう、と思っていた。
 ところが20年経って来てみると、まだ湿原はちゃんと残っている。意外というかなんというか。オイルが浮いているけど・・・

八雲ヶ原を歩く

 

 八雲ヶ原に来るまでにかなり時間がかかったのと、八雲でたっぷり休んでしまったため、もやはコヤマノ経由は不可能と金糞峠まで引き返すことにする。
 どうもカミさんと次男が一緒に歩くと、甘えて一気にペースが落ちるようだ。私に聞こえないように「だって疲れたし」とかぶちぶち言っているらしい。

 

 

八雲ヶ原を歩く長男と次男


 金糞峠下のテント場には、高校山岳部とおぼしき集団が幕営していた。
 我々の高校時代はガソリンストーブは禁止だったが(危険、とかいう理由らしい)、コールマンのガソリンストーブに火が入っている。
 顧問とおぼしき人物が、新人らしい少年に口やかましく指示していた。自分の高校時代は、顧問の先生なんてな〜んにも言わなかったが・・・顧問用のテントを「さ、先生どうぞ」と張ってやれば飯ができるまで出てこないし、飯を食ったらさっさと顧問は自分のテントに引っ込んで、我々は心おきなく酒盛りができたものだが・・・ま、絶対ばれていたとは思うんだけどね。
 こんなに口うるさくしてると、こいつら山嫌いになるぞ。

 中峠への道に差し掛かると人は誰もいなくなった。連休中の山とは思えない静かさ。たまに会う人もすれ違う人だけで追い越していく人はいない。ということは、間違いなく口の深谷のテント場は貸し切り、ということだな。記憶では2張り分くらいのスペースしかなかったので、誰か先客がいたらちょっと困るのだけど。
 登りではなんとか耐えた次男も、中峠を超えて下りに入ると完全に音を上げた。
 仕方がないので長男と2人で駆け下りてテント場に着き、荷物を置いて引き返し次男を背負って降りる。どうも靴が合っていないような・・・子供は正確なフィードバックをしないので靴を合わせるのも難しい。結局歩いて靴ズレでも作って初めて合ってないことが判る、のかも。

 テント場は狙いどおり「貸し切り」状態だった。我々だけである。
 長男はまだ元気いっぱいで周囲で遊び回っているが、次男はテントの中で一眠り。

口の深谷源流部のテントサイト

 


口の深谷源流部のテントサイト
貸し切り状態!


 

 夕食はアルファ化米とカレーライス。カレーはカレー粉と肉野菜を持ち込んで作ったので、けっこう美味かった。
 デザートには必殺プリンの登場!これもお湯で溶かすだけの「プリンミクス」なのだが、大昔から山に行く時は必ず持っていく食材で(大学山岳部の必携食材だった)去年立山に行った時に食べさせてみたらやたら好評だったので、家族連れ登山の必携食材になりつつある。

 翌朝。天候は昨日に引き続き快晴。
 朝飯はスパゲティだったのだが、これがまた茹ですぎて大失敗。世にも珍しいほど「不味いスパゲティ」になってしまった。私は元々山で食べるものにぜんぜん執着しない方なので「まっず〜」とか言いながら全部食ったが、さすがに子供達はダメだった。
 「山に来た時は不味かろうがなんだろうが、腹に入るものはぜんぶ入れなきゃ」とか言いながらも、さすがにこれは可哀想かとビスケットなぞを出してそっちを適当に食べさせる。
 カミさんは撤収の瞬間までこのままテントを張りっぱなしにして空身で武奈ヶ岳に登れると勘違いしていたようだが、非情にも撤収を言い渡す。

 歩き出すとワサビ峠までの小さな谷が気持ちいい。昔、真夜中にここを登って谷筋を間違えて激しいヤブこぎをするハメになった分岐点もちゃんとあった。(そりゃそうだろ)
 ワサビ峠に出て稜線をひと登りすると西南稜である。
 ここは「たかが1200mの山に何でこんなに」と思うほど、高い木1本ない、笹の草原の尾根である。気持ちいいったらない。冬はまた見事な雪庇ができるので、片っ端から崩して歩いたものである。落ちたってたいしたことないし。

西南稜


 

 

 


西南稜
奥が武奈ヶ岳
 


 

 西南稜をぼくぼく歩いて武奈ヶ岳山頂。

武奈ヶ岳山頂

 

 

武奈ヶ岳山頂


 

 武奈ヶ岳山頂まで来た時、嫌なことが起きた。
 次男のシューズのソールがパックリ剥がれてしまったのだ。一応新品だったんだけどねぇ・・・まあスポルディングだししょ〜がね〜なぁ。
 とりあえず持っていたビニールテープで靴を縛り上げて対処。

 朝テント場を出てから頂上まで、頂上直下で単独行の人とすれ違った以外はまったく人に会わずにここまで来た。
 でも、連休の武奈ヶ岳、いつまでも静かな山が楽しめるわけはないのである。
 武奈ヶ岳の下りでモロに人の波に突っ込んでしまった。イブルキのコバ経由の下山ルートを選んだのがなお悪かったかも。とにかく歩いている時間よりすれ違いの待ち時間の方が長い。重い荷物を担いでただじっと立ち止まって行き違いを待つのは辛いものがある。
 すれ違う人みんな、子供には「小さいのに頑張ってるね〜」と声をかけてくれるし、中にはカミさんに「重そうな荷物、大変ですね」と声をかける人もいるのだが、どう見ても一番大きくて重そうな荷物を担いでいるお父さんを誰も誉めないのはどういうこった!?
 次男の靴はなんとか保ったのだが、どうも気持ちは萎え萎えのようで、ちょっと油断するとカミさんにくっついて「だって疲れたし」とか私に聞こえないようにぶつくさ言っているらしい。
 長男は元気いっぱいなのだが、すれ違う登山者の中に同じ年頃の少年を見つけると「こいつ、荷物持ってないし」とかケンカ売っている。今回彼は、テントポール、ガスコンロ、ガスボンベ2つとちゃんと「共同装備」を持たせていて、どうもそれがかなり得意らしい。少年に「それがどうした」とか切り替えされて「別に〜」とかやっているので、もう早く離れろって感じである。

 八雲まで降りてきて、結局昨日と同じ場所で昼飯を食べることになった。
 この先、ダケ道を降りるという選択肢もないわけではなかったが、次男の靴もどれだけ保つか判らないし、第一次男はもうすっかり「歩きたくない」モードだったのでロープウエイとリフトを使って下山することにする。意外なことにカミさんが「休んで体力回復したらまた歩けないかなぁ」とか言い出して驚いた。またすぐ泣き出すに決まってるだろうと言い捨てたが、どうも自分がまだ歩きたかっただけのようだ。
 ロープウエイはともかく、リフトは昔ながらの1人乗りなので次男をどうやって乗せるか心配していたのだけど、小学生以下の子供は大人が抱いて乗せると言うことで一安心。私が抱いて乗せたが、20分近く乗るのでこれはこれでちと体勢が辛かった。
 長男は、傾斜も急だし直下にネットが張ってあるとは言うものの、かなり高度感があるところもあるので、「うぉ〜、ビビる〜」などと楽しそうに叫んでいた。

 

ビニールテープで補修した靴

 右の写真がビニールテープで補修した次男の靴である。
 こんな補修でよく保ったものである。


 

 下山してしばらくしてから風呂に入った時、次男に「あの時は頑張ったね〜」と話しかけると、「でも、泣いちゃったし。頑張ってないし」とウジウジと謙遜していた。でも、「また行きたい?」と聞くと力強く「うん!」と頷いた。
 これで山が嫌いになったかとちょっと心配したけど一安心。兄貴に差を見せつけられて悔しいだけかもしれないが・・・

 今年の夏は雷鳥沢にテントを張って立山、と考えているのだけど、立山三山縦走は次男にはまだちょっと無理かな。もう2年ほどかな。
 長男は「剣に登りたい」とかほざいていて、「カニの縦バイの最初の一歩が届かないからダメ」という、マニアックなダメ出しをしている。まだ怖い物知らずなのが非情に怖い。どこかの崖から突き落として怖さを教えてからでないと・・・

 

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