平成15年6月22-23日 薬師岳

6/22 8:30 折立 出発
  9:35 三角点 通過
  9:40-55 雪量計ポール
  11:30 太郎平小屋 到着
6/23 8:20 太郎平小屋 出発
  10:10 2701mピーク
  10:25 薬師岳山荘 通過
  10:50 東南稜分岐 通過
  11:05-20 薬師岳山頂
  12:40 太郎平小屋 到着
  13:40 太郎平小屋 出発
  14:30 雪量計ポール
  15:40 折立 到着
    2.5万図 「薬師岳」

 またまた「町内」ではない薬師岳である。
 この週末は天気がいい様子なので山に行くことは決めていた。土日が一番安定していて良さそうだったが土曜日には用事があったので日月で行くことにし、月曜日の休みも取ってあった。
 場所は猫又山にするか薬師にするか迷っていた。猫又山だとテント泊になるが薬師だと山小屋居候。猫又はずっと行きたかった山だけど、太郎小屋で久しぶりに小池さん達の顔も見たいし。

 薬師はこの界隈の山小屋で高校大学と合わせて4シーズンもバイトしていたにも拘わらず、ほとんど登ったことがない。薬師だけでなく、その他の山もあまり登っていない。雲の平の奥に聳える祖父岳はまだ登ったことがないし、鷲羽、水晶、赤牛は1回ずつである。鷲羽は高校の頃に高天の小屋でバイトしている時に1回登った。その時に水晶も行ったはず。赤牛は赤牛沢を登って温泉沢を降りてきた時に必然的に登った。
 黒部五郎と薬師は山岳部で剣定着が終わった後の縦走で登った。とはいってもガスの中だったし、まったく覚えていない。
 黒部五郎は赤木沢を登った後で三俣方面に抜けたことがあったから、その時にも登っているはず。
 この界隈の山で一番回数を登っているのは北の俣岳だが、これは赤木沢を登った後に太郎に抜けることが一番多かったから。赤木沢は10回くらい登っているので、北の俣岳もそれに近い回数は登っているはずだ。でも、赤木平から薬師沢左股に降りたこともあったし、北の俣岳の頂上より太郎側に抜けたこともあったので、いいとこ5〜6回かな。
 まあ、ピークハンターではなく、むしろ頂上にはまったく執着しない方なので無理もないかも。三俣も夜中に間違えて登ってしまっただけで、しかもガスっていたため登頂の実感はまるでない。
 薬師岳は縦走途中で2回ほど登っているし、太郎で居候していた時に「いい若い者が小屋でブラブラしてるんじゃない」と半ば追い出されるように1回登ったかもしれない。でもまあ記憶はまるでないので初めての山と同じである。新鮮だし1回登っておくのもいいかも、と思った。

 そんなわけで迷っていたのだが、前日の夜になってもまともに食糧計画を立てておらず、結局自動的に薬師に決定してしまった。
 ただ、小屋に差し入れを何持っていこうかまた迷い、結局前日の夜にスーパーに行ってスイカを1個買ってしまった。そんなら食糧計画といっても1泊だけだしなんとかなったのだが。
 スイカを1個、ザックに入れたら結局テント泊とたいして変わらない重さになってしまった・・・

 で、当日22日。
 有峰林道のゲートが開くのは午前6時なので、それに合わせて5時40分に自宅を出発した。6時にゲートを通過すると折立を7時には歩き出せる。とすると午前10時頃には太郎に着いてそのまま薬師を往復し、翌日はちょっと早発ちして黒部五郎でも往復して下山、という心づもりだったのだが・・・
 ゲートは予定どおり午前6時に通過。10台くらい車がゲームが開くのを待っていた。おそらくほとんどが真川に釣りに入る人たちだろう。
 ところが有峰林道に入り、もうダムが見え始めるあたりまで走ったところでとんでもないことに気づいた。
 また靴を忘れた!
 車はサンダルで運転していて車にはとりあえずでも履いて行けそうな運動靴すらない・・・取りに帰ることに・・・
 しっかし、どうして靴ばっか忘れるかな〜?
 靴を忘れたのに気づいてUターンしたのが6時半頃、家に着いて靴を車に放り込んだのが7時過ぎ、折立に着いたのは8時を回っていた。有峰林道の1800円、2回も払うことになってしまった・・・
 そういうわけで歩き始めたのは8時半だった。

 天候は曇りだが結構明るく気温も高い。歩き馴れた道なので快調に登る。
 途中、写真のような看板があるところがある。
あられちゃん

 このドラミちゃんの看板は比較的新しいものだが、アラレちゃんの看板は私がバイトしていた15年以上前からある。もしかしたら高校生で初めてバイトに入った昭和56年には既にあったかもしれない。
 小屋の仕事人の間では、太郎に2時間半程度で上がるためのペースの目安として、「アラレちゃんまで40分」と言っていた。今回は50分かかった。とすると、太郎まで3時間ペースかな。(標準コースタイムは4時間程)


 1日目に薬師を往復してしまうためには、折立〜太郎間を3時間以内というのはほぼ必須条件なのだが、そもそも折立を出発したのが8時半、という時点で計画は大きく狂っているのであった。

 結局スイカの重量が最後に足を引っ張り、太郎に到着したのは目標3時間を数分オーバーしていた。
 小屋に入って帳場に声をかけたら、マスター(経営者の五十嶋さん)も小池さんも一時下山でいないという。ありゃ、こりゃ居辛いかも、と思ったら高橋さんが出てきてほっとした。昔はスゴの小屋番をしていたが、今はずっと太郎にいるそうである。
 高橋さんが、「ビールどう?」と勧めてくれたが、飲んでしまうと今日中の薬師往復はもう絶対無理である。でも、それを断る意志も計画の必然性もなく、もちろん喜んで飲んでしまったのであった。美味かった〜。

 この時期、山小屋はとってもヒマなはずだが、今日は講習会で50人ほど薬師岳に登っていてもうすぐ降りてきて昼食を食べると言う。もうすっかり怠慢モードに切り替わっていて行動する気が失せていた私は洗い物くらいは手伝うことにした。食堂やロビーにいるより台所にいた方がなんとなく落ち着くのは、やっぱり染みついているのだろうか?まあ考えれば「お客」として山小屋に泊まったことなんて大昔に数えるほどくらいしかなかったし、小屋でバイトし始めてからは他の小屋に客として泊まったことはほとんどない。剣沢に1泊したのみだし。
 忙しい時期の居候は洗い物隊として非常にありがたかったものだが、まあこの日は従業員も人数がいるし「気は心」程度だろうけど。
 その講習会の中に昔バイトしている頃からよく山に来ていた中島先生がいて驚いた。奥さんに「このお腹はどうしたの〜」と言われてしまったが、ここでバイトしていた頃から徴候はあったんですけど。
 まだ荷物を玄関に置きっぱなしだったのを思い出し、「どこで寝たらいい?」と高橋さんに聞いたらどこでもいいと言うので、私の太郎小屋のモ〜ストフェイバリットスペースである3階屋根裏部屋へ。

 このまま屋根裏で昼寝してしまうのも幸せだったのだが、それではあんまりにも怠慢モードなのでちょっと散歩にでもでかけることにした。
 高橋さん、坂本さん、山本さんの従業員男3人が揃って釣りに行ってしまっていたので、小屋には女性しか残っていなかったのだが、「ちょっと北の俣岳方面に散歩に」と言い残して小屋を出た。ザックを担ぐのは嫌だったので、カッパの上着を腰にくくりつけただけの姿で。地図すら持たないという、これはこれでやっぱり怠慢モード全開である。
 太郎山を越えて北の俣岳に向かい、鞍部から北の俣岳に少し登ってみる。北の俣岳付近から薬師岳

 

 

 天候は曇りなのだが、一応薬師はピークまで見えていた。黒部五郎は頭をガスに突っ込んでいたが。


 

太郎山から太郎平小屋

 

 太郎山まで戻ってこの写真を撮った後、道端でゴロリと横になったら爆睡してしまった。
 結局昼寝してしまった・・・

 太郎から北の俣岳にかけての稜線には雷鳥がたくさんいた。あの「グェ、グェ」というアヒルのような声は始終聞こえていたし、姿も何羽も見た。でも、写真も撮ってはみたものの、あまり近くまで寄れなかったのでたいした写真は撮れなかった。


 その晩はコップで日本酒をガブガブ飲んでしまったので、寝に行く時屋根裏に上がる階段(ほぼハシゴ)がVくらいに感じた。
 もし降りろと言われたらザイルが必要だったかもしれない・・・

 翌23日。
 坂本夫妻と山本さんの3人は薬師沢の小屋開けに行った(営業開始は7/1)。彼らを見送ってから私も薬師岳に向かい出発。
 天候は日も差していてそれほど悪くはなかったのだが、薬師は東南稜分岐あたりから上は雲に頭を突っ込んでいた。まあ頂上に行っても展望は期待できないし、もともと「薬師に登りたいっ!」と思っているわけでもないし、適当なところで昼寝でもして帰ってくるかくらいのつもりだった。・・・天気が悪くなるのは判っていたし、昨夜爆睡したので眠くもなかったのだが。
 まあなんにしても、行動開始が8時半というあたりがもうすっかり「山小屋仕事人モード」である。

 テント場である薬師峠から薬師平までの道は少し迷いやすいらしい。ガイドブックにもそう書いてあるし、小さな沢伝いなので地形も複雑そうだ。むろん、雪が完全に消えて夏道が出ていればなんてことないのだが、今は6月。昨日登ってきた中島先生も「薬師平まではほぼ雪の上」と言っていた。
 行ってみるとテント場のすぐ横が薬師沢の源頭部になっていて、小さな沢が入り乱れている。しかもほとんど雪で埋まっている。こりゃ確かに判りにくい。たまにペンキの印が付いた岩があるのだが、もとよりほとんどの岩が雪の下なのでルートは探しづらかった。
 おまけに昨日の50人が、下りの時に好き勝手なところを下っているので、トレースを追うとよけい訳が分からなくなる。まあこれは仕方ないが。
 もう面倒なのでとりあえず登りやすいところを辿って上まで行ってしまって、薬師平の一角に出てから右の方に突っ切れば正しいルートに戻れるはずだ、とも思ったのだが、それでも丁寧にルートを探したのは、たまには横着せずに丁寧にいこうかと思ったのと、仮にも「山小屋関係者」の自分が間違ったトレースを付けてしまうわけにもいかんだろうと思ったからでもあった。まあ、シーズンはずれだし、このトレースを誰が辿るというわけでもないのだが。

 複雑な地形の場所を抜けてようやく薬師平に続く(と思われた)1本の綺麗な雪渓を捕まえて登り始めたら、上から2人降りてきた。
 昨夜の太郎小屋の唯一の一般客の夫婦で、従業員に薬師平へのルートを熱心に聞いていた2人だった。すれ違う時に「登りでは正しいルートを辿れました?」と聞くと、やっぱり間違えてかなり違うところに出てしまったそうだ。それでも朝5時半に小屋を出発してこの時刻(すれ違ったのは午前9時半頃)にここまで下っていると言うことは、それほどロスしたわけでもなさそうだけど。
 「この先はどうでしょう?」と聞かれたので、「僕が付けてきたトレースがあるけど・・・」と答えたものの、私もあちこちでウロウロしながらルートを探していたので、そんなに素直なトレースでもないかもしれない。ま、迷った時は右に向かうトレースを辿る、ということで。
 その雪渓、その場所もそこそこ傾斜があったのだが、下って最後にかなり急な傾斜があったので「大丈夫かな?」とも思ったのだが、引き返して様子を見るわけにもいかないし、そのまま再び登り始めた。(後で小屋の人に聞いたらちゃんと下山したそうだ)薬師平への雪渓

 右の写真が2人とすれ違ったあたりの雪渓。ルートは明瞭だが傾斜はけっこうあった。


 

 薬師平に出ると、夏道が部分的に出ていたのでルートはすごく明瞭になった。雪が残っているところでも次の夏道が薬師平見えているので、ガスで視界が50m以下にでもならない限り、迷うことはなさそうだ。
 薬師平から見る北の俣岳や黒部五郎はかなり残雪が多く、太郎から見るそれとは雰囲気が違っていた。黒部側に残雪が多いと言うことか。
 右の写真のように黒部五郎の頂上部は雲の中だった。
 (写真に写っているザックとストックは私のもの)


 

薬師平からの登り

 

 薬師平の東端から稜線を登り始める。
 部分的に夏道は出ているが、そのまま雪の斜面を登った方が効率はよさそう。
 雪面の左端に近いラインを登る。
 この雪面の上部のハイマツの島のようなところに雷鳥がいた。
 歩いている最中に見つけ、斜面にザックを下ろしてカメラを持って近づいても動く気配もない。ドアップで写真を撮らせてもらった。
 下の写真がその雷鳥の写真。


雷鳥

 薬師岳山荘あたりまで登ると稜線上に残雪はなく、完全に夏道が出ていた。
 実は薬師平に出たあたりで核心部(面白いところ)は抜けたと感じてしまい、登行欲は著しく減退していた。まして頂上はガスの中だと判りきっていたし、ガスの中にえっちらおっちらと登っていく自分が自分でないような気もしていたりした。
 でも、あの老夫婦が道に迷いながらも登ってきたのに、自分が途中で昼寝して帰るわけにもいかないよなぁ、なんて思いながらここまで登ってきたわけだが、ここまで来るともう引き返す気もなくなる。
 なんだかんだ言っても3000m近い稜線は楽しい。ガスっていても。頂上方面を見ると、もう頭上の僅か上は雲なのだが、けっこう上機嫌で岩でザレた稜線を歩いていた。

薬師岳頂上

 

 薬師岳頂上。期待はしていなかったがやはり視界はゼロだった。
 下りは良い調子ですっ飛ばした。雪面なんか登りで1時間かかっても下りは10分である。
 ま、最近調子に乗りすぎてルートを見失ったばかりなので、薬師平から薬師峠に降りるあたりはちょっと慎重に登りのトレースを拾いながら下ったが、それでも頂上から1時間ほどで薬師峠まで降りてしまった。
 薬師峠から太郎に登り返したあたりで振り返り、例の薬師峠〜薬師平のルートを確認していたが、まあどうせ1週間もすればだいぶ雪も消えてまた様子がガラリと変わることだろうし。
 でも、薬師平手前の雪渓は7月に入っても残っている気がするけど。


 

 太郎小屋に戻ると小池さんが登ってきていた。あと1週間の間に高天原の小屋を開けなければならず、大変そうだ。
 久しぶりに高天にも行きたいのだけど、1人で行くんだったら3日もあればなんとかなるけど、1人で行くとカミさんが拗ねるし、カミさん連れていったら4日あっても行って帰ってくるだけになっちゃうし、なんて話をしていた。

 太郎に帰ってくるのとほとんど同時に、太郎周辺にもガスが立ちこめてきた。太郎も視界ゼロになってしまった。
 小池さんに聞いたら下は雨が降っていたそうである。
 まあこのあたりもいずれ降るのは明らかなので、降り出す前にと少し早い気もしたが下山することにした。下山を始めたのが午後1時40分だった。
 途中の雪量計のポールがあるあたりで思わず足を止めた。昨日はさほどでもなかった花がかなり咲いていた。

 思わず植物にはあまり興味がない私も写真を撮ってしまった。
 この写真の真ん中に伸びている踏み跡は、おそらく花の写真を撮ろうとして踏み込んだ人たちのものだろう。こうやって踏み込んだところはただの砂地になってしまう。砂地になったところは雨が降ると土が流れて掘れてしまい、どんどん広がっていく。太郎周辺の登山道を見れば一目瞭然だと思うのだが。
 その深い溝を作ってしまう第一歩がこれである。


 

 三角点を過ぎて樹林帯に入る頃から雨が降り始めた。カッパを着るほどではなかったのだが、折立に着いた瞬間、大降りになった。
 薬師から太郎に帰った途端に太郎もガスったし、なかなか今回は天候のタイミングが良かった。まあこれで薬師の頂上で視界があればパーフェクトだったのだが、もともと「頂上からの眺め」にはあまり拘ってないし、薬師平へのルート探しや雪稜の登下降の楽しさの方が遙かにポイント高かったので楽しい山行だった。久々に居候生活も楽しめたし、言うことなし。

 今回初めて「ストック」を使った。
 購入したのはモンベルの「アルパインポール ベントグリップ」というもので、2本組で7200円だった。レキのポールなんかだと1本で1万円くらいするのでかなり安いと感じた。
 使ってみるとこれは良い。特に「下り」が楽だった。下りの時は足でこらえてバランスを取るので長い下りになると膝が辛くなるが、ストックを使うとバランスを取ることが格段に楽になるので、足が凄く楽だった。むろん、ストックにあまり荷重をかけすぎると、ストックが滑ったりした時に危険だし崩れたバランスを足腰でこらえることになるので余計疲れるのは登りも下りも同じだが。
 雪面の下りでは元々足腰にはそれほど負担がかからないので、ストックのありがたみはさほど感じなかった。傾斜が急になると短めのピッケルの方がなんぼか使いやすいし。
 登りもそれほどありがたみは感じなかった。使い方が下手なだけかもしれないが・・・
 絶大なのは普通の登山道の下りだった。薬師岳の頂上付近でザレた斜面をかなりの勢いで飛ばしても足腰は楽だし、樹林帯の中の木ノ根や岩がゴロゴロしたような場所の下りも、ほとんどの場所をほぼ直立した姿勢のまま通過できるので非常に楽だった。
 使うんだったらやっぱりT字型グリップのシングルより、I字型グリップのポールをダブルで使う方が良いだろうなぁ。

 

 

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