平成16年10月10〜11日 北八ヶ岳 ニュウ

10/11 08:40 白駒池キャンプ場 発
10:30 ニュウ 着
11:15 ニュウ 発
13:05 白駒池キャンプ場 着
14:20 撤収 白駒池キャンプ場 発
14:35 白駒池駐車場 着
    山と高原地図 「八ヶ岳」

 池上家軟弱登山隊の10月の連休は北八ヶ岳とした。
 あまり寒くないこと、それでいてそこそこ高山の気分を味わえること、テン場近くまで車で入れること、そして5月の連休でも遊びに行ったF氏宅をベースにできること、などが理由なんだが。
 問題は台風22号がちょうどこの連休中に日本列島を直撃しそうなこと。いくら晴れ女のカミさんでも台風には勝てまい・・・と半ば諦めムードだったのだが、直前になってくるとどうも影響は前半だけで済みそうな感じである。
 ならば、当初は9-10日で山に登り、10日の夜はF氏宅にお邪魔しようかと計画していたのを、9日の夜にF氏宅、10-11日に山歩き、と入れ替えてみた。ま、天候が回復しなかったらF氏宅で2泊して帰るか、という軟弱な計画である。

 というわけで当日(9日)は台風の影響の雨の中(甚大な被害を受けた表日本ほど酷くはなかったが)F氏宅に転がり込み、台風のニュースを見ながらしっかり午前様まで飲んでいたのであった。

 翌10日は、午前中は快晴だった。まさに「台風一過」である。
 この日は麦草峠から白駒池のキャンプ場まで入ればいいだけなので急ぐ気にもなれず、午前中はF氏夫婦と犬の散歩などでのんびりしていた。
 このF家にはバーニーのイブキとラブラドールのクロベという2匹の犬がいたのだが、クロベの方はこの夏に亡くなってしまった。で、替わってやってきた新顔がホタである。ホタとは穂高の略らしい。このホタもバーニーなので、こんな巨大な犬を2匹も・・・と羨ましいったら。

イブキとホタ

F家の犬 イブキとホタ

 このホタ、まだ4ヶ月の子犬だというのにもう10kg近くある。さすがバーニー。
 聞き分けはない。「バカ犬」なんだそうだが、愛嬌はある。たっぷり。

 


 前にいたクロベは非常に病弱な犬だったので、イブキにとっては「ライバル」とはなり得なかったのであるが、今度のホタはかなり手強いらしい。イブキの甘え方が前にも増して強烈になった。呼ぶと喜んで身体を押しつけてくる(この巨体を・・・)のは前からなのだが、今はちょっと油断するとホタが間に割り込んでくるので、隙間を決して作るまじとベタ〜っとその巨体を押しつけてくるようになった。それでもほんの少しの隙間からホタに割り込まれてしまい、牙を剥いて威嚇してはみるもののホタはまったく物怖じしないので、そのうち諦めて少し離れたところに寝そべり、恨めしそうな顔で私を見るのであった。
 遊び道具を巡る争いなど、まるで人間の兄弟を見るようである。それてもうちの息子共が犬並みのレベルなのか?
 ちなみにホタの歯はまだツンツンの乳歯なので、やつは甘噛みしているつもりなのだろうが、こちらは流血覚悟である。昔ピレニーズの子犬(といっても既に20kg・・)と30分ほど遊んでいたら血みどろになったことがあった。

 イブキが甘えてくると、頭をぐいぐいとこちらの腹もしくは股ぐらに押しつけてくるので(ラグビーのスクラムみたいである)、こちらの視界にはイブキの尻しか見えなくなってしまう。この尻がまた、イブキが少し肥満気味なせいもあってまん丸なんである。しかも真っ黒で、これはまさにクマの尻である。こんな山奥にある家なので、そのうち間違われて撃たれてしまわないか心配である。
 ま、今年のクマはどう見たって異常だとは思うが、それにしても去年まで富山県のみならず全国的に「共生事業」とやらでクマにお仕置きをした上で山に返すことを税金を投入してやっていたわけだが、「去年までの共生事業は何だったの?」と思うほど、とにかくクマがいれば全て射殺である。人を襲った個体ならいざ知らず、木の上でエサ食ってたやつまで、とにかく人目に触れれば射殺である。なんなんだか。
 「クマに遭ったら」というテレビ番組もあって、死んだふりをしてもダメだったという実験をしていたが、こういう番組に出てくるのは決まってヒグマなのもいい加減にして欲しい。本州にはヒグマはいないし、ヒグマとツキノワグマは食性も性質もぜんぜん違う動物だぞ。

 話が逸れたが、そんなわけで麦草峠に向けてF氏宅を出発したのはもう昼頃だった。途中、八ヶ岳農場で思わぬ大渋滞に巻き込まれたりもしていたので、麦草峠に着いたのは午後3時を回っていた。
 下界は良い天気だったのだが山に登るにつれて黒いガスが気にかかるようになり、麦草峠の手前でついに雨が降りだしてしまった。麦草峠ではけっこう本格的に降っていた。当初は麦草峠の無料駐車場に車を停める予定だったのだが、雨となればテン場に近い白駒池駐車場に決まりである。駐車場の売店で天気予報を聞いたら、翌日の天候も良さそうだったので決行である。
 長男の大の方が雨にブルーになっていて、「イブキの家に帰ろう」と言うのだが、このくらいの雨で中止はしないのである。

白駒池駐車場にて

白駒池駐車場にて 出発前

 白駒池駐車場で合羽を着込んで出発する時の大はほとんど半ベソであった。

 


 駐車場から白駒池キャンプ場まではほんの15分ほどの距離なのだが、大の半ベソは止まらなかった。ふて腐れた顔で嫌々歩く大であった。

 白駒池キャンプ場は白駒池の畔にあって、青苔荘から池を周回する道沿いにある。
 いくつかテントサイト用の木の板があるのだが、それを使用すると900円なんだそうで今回は使わないことにした。
 それにしてもサイトがぬかるんでいてなかなか適当な場所が見つからない。キャンプ場のはずれにようやく好適地を発見して幕営した。トイレと水場が遠くなってしまうが仕方あるまい。
 水場は小屋の横に引かれてあり、トイレは小屋の横手から50mほど登ったところにあった。なかなか古くて臭うトイレである。トイレに蛍光灯が1つだけ点いていて、夜に遠くから見るといかにも「出そうな」雰囲気であった。

白駒池

白駒池に続くオレンジのトンネル

 小屋からボート乗り場に降りていく道の紅葉が綺麗で、「オレンジのトンネル」といった雰囲気だった。


 幕営したときには雨は止んでいたのだが、外はぬかるんでいて座る場所もままならないし、今回は初めてテントの中で炊事をした。子供がいるテントで炊事などしたくはなかったのだが・・・高校大学時代はあたりまえにしていたものだが。
 やってみると、今までさんざん脅していたおかげもあって、思ったよりスムースに炊事することができた。
 食事が終わるとカミさんが眠いと言いだし(どこでもどんな状況でも熟睡できる女である)、今朝あれだけ朝寝したというのに、午後8時には消灯して寝てしまったのであった・・・

 妙に暑い夜だった。10月なので寒かろうとダウンジャケットまで持ってきていたのだが、子供達はシュラフを全部蹴飛ばして寝ているし、私も暑くてTシャツ1枚で裸足の足をシュラフから出して寝ていた。#4のシュラフの私が暑くて寝れないのに、#3のシュラフをしっかり首周りのドローコードまで締めてすやすや寝ているカミさんであった。
 夜中、断続的に雨が降っていて明け方はかなり激しく降った。明け方になってようやく冷え込んできた。
 と書くと一晩中寝ていなかったようだが、私はテント泊ではいつも眠りは浅い。雨が降ったり風が吹いたりするとたいてい一度は目が覚める。すぐにまた寝てしまうのだが。

 朝になってテントから顔を出してみると期待どおり、抜けた青空が見えた。
 昨夜暗くなってから到着してすぐ隣にテントを張っていたパーティーもいつの間にか出発してしまったらしい。
 6時半頃、みんなを起こしてのんびりと朝食と行動の用意をする。テントに戻ってきてから撤収する予定なので、撤収の準備も半分くらい済ませてから出発。コースは当初はニュウに登ってから中山を回って、とか考えていたのだが、今日中に撤収して富山まで帰らねばならないのであっさりと単なるニュウ往復という軟弱ルートに決定。

 出発したのは8時半を回っていた。もうかなり日が高くなっていた。
 テントの横がもうキャンプ場の端っこで、そこから白駒池周回路に入る。

白駒池の原生林

白駒池周回路の原生林

 苔の絨毯でびっしり覆われた原生林は、北アルプスではなかなか見られない風景なので新鮮だった。

 


 昨日はあれほどふて腐れていた大も今日はご機嫌である。快調に先頭を切って歩いていた。

ニュウへの登山道

ニュウへの登山道

 白駒池の周回路から外れてニュウへの登山道に入ると、木道がなくなっていよいよ原生林の中の雰囲気たっぷりの道になった。
 ちなみに大は快調に歩くあまり、ほとんど見えなくなるほど先行していたので、このように大と生2人が揃って写っている写真は希である。

 


 前日までの雨の影響もあってか、道はかなりぬかるんでいて歩きにくい。岩は苔生していて雰囲気は満点なのだが滑るし。
 大人にとっては「ちょっと歩きにくい道」程度でも、子供、特に生にとっては非常な難路だったようだ。とにかくペースが上がらない。別に疲れたとも言わないし楽しそうなのだが、なんせ歩いている時間より立ち止まって生を待つ時間の方が多いくらいだった。ま、楽しそうに歩いているのでいいんだけど。
 それにしても良いムードの道だった。雨でもぱらついていた方がもっと雰囲気が出るかも、という道である。

 稲子湯への道を分け、いよいよニュウへの登りになると、道のぬかるみは消えて歩きやすくなるのだが、傾斜が強くなるのでとうとう生の「疲れた」攻撃が出てしまった。でも、いつもほどしつこくもないし泣きが入る気配もない。ま、この程度の行程で泣いてもらっても困るのだが。

 ひと登りでニュウに到着した。
 原生林だらけのこの界隈なのに、唐突に岩のピークである。ちょっと不思議。ちょっとガスがかかり始めているが視界は良好である。

ニュウより白駒池

ニュウより白駒池 標準(44mm相当)で

ニュウより白駒池

同じくニュウより白駒池 望遠端(480mm相当)で撮影

ニュウより白駒池

上の写真の等倍トリミング

 恒例の「超望遠写真シリーズ」のニュウ版を。

 白駒池でボートに乗っている人も、まさかこんなところから写真に撮られているとは思うまいて。

 


 風はやはり10月だけあって冷たかったが、さほど強くはなかったのでのんびりと頂上からの眺めを満喫することができた。

ニュウにて

ニュウ頂上にて集合

 ニュウの頂上で家族全員の写真を撮ろうと撮影を近くにいた人に頼んだのだが、その人はどうも「カメラ好き」な人だったらしく、嬉々とした様子でカメラの操作系を眺めた挙げ句、「プログラムオートで良いですか?」なんて聞いてきた。いいってばさ、それで。
 「絞り優先にして日中シンクロでお願いします」とか言ったらやってくれたのだろうか・・・?

 


 食糧計画が極めて杜撰だったので、テントにはラーメンとかチャーハンとかがあったにも拘わらず、行動に持ってきていたのはパンと行動食だけだった。非常食のカロリーメイトも数々の山行で溜まりまくっていたので一部開放して食いまくることにした。ま、特に秋の山では休憩していると寒くなってくるのだが、コーヒーでも湧かすよりはさっさと歩いた方が暖まるという極めて散文的な思考回路の持ち主なので、最近それに馴れてきたカミさんも「コンロを持っていこう」とはあまり言わないのであった。
 そんなわけで休み疲れて肌寒くなってきた頃、下山を開始。

滑りやすい木道を真剣に歩く生

滑りやすい木道を真剣に歩く生

 下山もこういう道なので、登りとたいして変わらないくらい時間がかかることは覚悟していた。
 やはり生には原生林の中の滑りやすい道は難路であった。
 でも、歩きやすいルートを一生懸命探したりして、それなりに楽しんで歩いている様子だったけど。

 


 白駒池まで降りてきて周回路に入った途端、「な・・・なんじゃこりゃあ」と言いたくなるほどの人の波に飲み込まれてしまった。
 ニュウへの道では人もそれほど多くなく、「木霊でもいそうな森だよね〜」なんて言いながらホワンとした気分で歩いていたのに、これでは木霊も裸足で逃げ出すほどの人の波である。
 また、歩いている人のほとんどは登山者なハイカーですらなくただの観光客なので、すれ違いでも狭い木道の上で待避場所なんてない場所でも遠慮なくガンガン突っ込んでくる。しかもカメラの三脚を横に持って。
 「ただの観光客なので」と書いたけど、彼らだって普通の常識を持った市民でしょうよ。狭い道を車で走っていて対向車がいたときに、待避場所もないのに遠慮なく突っ込んでいくか?普通。
 そんなわけでなんせ歩きにくい。狭い木道の上に三脚を据える人までいたりするし。その三脚にニコンのF4が載っていたので、俺が通るときにまだ三脚を据えていたら遠慮なく蹴飛ばしてやろうと思ったのだが、直前で避けられてしまった。

白駒池

白駒池 ボートが邪魔な絵柄だったりする

 三脚が5本ほど林立しているスポットで、横からザックを背負ったまま手持ちで撮った写真。
 もう少ししゃがんで上の木の枝を切りたかったが、そうすると三脚に据えたカメラが写ってしまうので。

 


 這々の体で池を半周し、テント場に戻ってきた。
 軽く食事(というよりあまった食糧の始末)をして撤収である。

テントサイト

今回のテントサイト

 このテント場も、雨が降っていた昨日はジメジメして陰気くさいところだと思ったが、こうして晴れているとなかなか素敵なキャンプ場である。こうも印象が違うとは。

 


かくれんぼしているつもりの生

かくれんぼしているつもりの生(ぜんぜん隠れていない・・・)

 右の写真は、テントの横から撮ったものだが、奥に見えるのが青苔荘である。
 それにしても生、これで隠れているつもりらしい。

 


 食事も済んだし(余った食糧も始末したし)、いよいよ撤収である。
 昨夜、雨に濡れたフライシートも半日晴天の中で張りっぱなしにしていたおかげでほぼ乾いている。
 それにしても幕営装備を入れた大きなザックを担いでいる私達は、この人の波の中ではかなり異質である。
 ・・・・ま、なんにしてもさ。この人の波はいったい??昨日雨の中を歩いてきたときは、その辺の木の陰から木霊に見られているような気さえしたのだが、同じ道でも今じゃ祟り神ですら後ずさりしそうな賑わいである。
 駐車場まで出てきて理解した。

カオス

カオス(混沌)

 いつのまにこんなに車が増えたんだか。
 狭い道の両端に路駐。その中をすれ違うスペースもないのに突っ込んだ挙げ句立ち往生する車。その後に延々と繋がる渋滞。
 なんだ、木道での彼らの行動そのままじゃん。
 納得、である。

 

 


遊歩道入り口にて

遊歩道入り口にて

 これは車に戻ってもそう簡単には出発できないぞ、と思いつつ、遊歩道の入り口で観光客よろしく記念撮影なんぞをしたみたりするのであった。


 実際、装備を解いて車に乗り込み、エンジンをかけてから車道に出るまで20分近くかかった。これでも期待よりずいぶん早く出ることができた方なのであった。

 帰りはメルヘンロードからビーナスラインに出て、プール平で風呂に入って食事をし、そのまま高速道路を使わずに富山まで走ったのだったが、ビーナスラインも国道20号線も安房越えの道も、5月に走ってから2回目だというのに(それ以前にも何回か走ったことはあるが)、なんだかすっかり「通い慣れた道」という感じがしていた。

 モンベルクラブ諏訪店も、来るたびにけっこうな買い物をしているし・・・(今回は子供用のサーマラップジャケットと自分のパーカを買った)
 でも今回はクライミングはしなかったのだ。それはまた次回である。

 帰りの車では、カミさんが将来八ヶ岳の麓に別荘を買って住む、というプランを延々と喋るのを聞いていた。静かになった、と思ったら寝ていた。

 

Back to up