平成26年8月24〜28日 薬師沢

 

 実は今年の春にテンカラのロッドを買ったのだ。そろそろ薬師沢で釣りをしようかと思ってさ。
 黒部源流に初めて入って33年、何度か釣りをしてみたことはあるのだけど、自分でロッドを買ったのはこれが初めてなのだ。

 というのもイワナの会の面々が足繁く薬師沢に通っていたあの頃、つまり私のバイト現役時代なのだが、当時あの面々に釣りを教えてくれ、と頼んだことはあった。小屋番の小池さんとはそもそも2人で小屋を空けることがほとんどできなかったため、教えてもらえる機会もほとんどなかったわけだが、イワナの会の面々なら教えてもらえるかと思って。

 だがその時は、すぐに「お前は才能がないからやめろ」って言われたんだよな〜。
 今にして思えば、多分彼らは単に面倒くさかったのだ。それと、当時私は彼らには闇テンの荷物運びやら釣ったイワナの捌きなど、そりゃもう便利にこき使われていたのであった。
 例えば、荷物を持って一緒に立石の奇岩あたりまで行き、そこにテントを設営して(もちろん闇テンだ)、「もう帰って良いぞ」って言われて小屋まで1人で帰ったりしていた。そりゃ午後の仕事もあるから帰らなきゃなぁ。
 つまり、俺に釣りを教えてしまうと、便利なパシリがいなくなってしまうではないか、と考えたのか?

 まあそんなわけで現役バイト時代は何となく気が削がれて釣りを覚えずじまいだったのである。

 

 それが最近になって、「そろそろやってみるかな?」と思い始めたのは、そのような彼らも最近はあまり沢に来なくなったので、「へたくそ〜」とうるさく言われることもそろそろなかろうと。
 それにこのあたりの沢や山はあらかた行っているので、今さらどこかにガツガツ行きたいという欲求も今は失せてしまっている。赤木沢も「何度行っても飽きない沢」と言うしそうも思うのだが、ぶっちゃけ正直なところ飽きた。行けば来て良かったと思うのは間違いないが、行きたいという欲求が非常に少なくなった。
 まあ小屋でな〜んにもせずにボケ〜っとしているのが一番幸せなのではあるが、居候があまりに小屋で寛いでいるのも従業員に気を遣わせることになるかな・・・

 とすると、薬師沢の小屋にいて適当に遊べるネタ、ということになると・・・おお、釣りがあるじゃないか!

 という、かなり捻くれた経路で釣りに辿り着いた次第なのであった。
 ま、50を目前の手習いも良いよね。

 というわけで釣り道具を新たに仕込み、薬師沢に入山である。

 最初はべったり1週間居続けようかと思っていたのだが、8/23の土曜日は仕事があり、また9/1からの週は出張なので、まるまる休みを取るとまるきり2週間職場にいない、ということになってしまう。それでは主張から帰ってきたら自分の机がなくなっているのではないか、というのは冗談にしても社会復帰に苦労するのは目に見えているので、8/29の金曜日に1日だけ出勤することにして、24から28日まで休暇を取ったわけである。

 

140824-1.JPG

折立にて 今回の荷物

 

 というわけで折立。
 なんかだんだん荷物が大きく重くなっていくなぁ・・・

 荷物が大きくなっていくのは、主に小屋への差し入れが増えているから。それも食パンは毎度のことだが思いつきでベーコンや焼き豚(酒のつまみに)とかをザックに入れているためか。
 釣り道具も増えているのだが、テンカラなのでロッドとラインと毛針くらいでたいした重量増ではない。

 あ、それと最近は沢靴で登山道を歩くのが少し辛くなってきたので(クッション性に乏しい沢靴で長時間の登山道は足に来る)、沢靴をザックに入れているのも大きい。そろそろ装備を考えなおそ。

 

140824-2.JPG

薬師沢に到着〜♪

 

 最近衰えたな〜。折立〜太郎間はもう4時間半、というのがパターンになりつつある。いつも帰りは悪くないペースで歩けているところも同じだが、ちょっと入りの荷物が多すぎるかも。

 それと太郎で毎回ビールをご馳走になってしまうのだが、こいつが年々効くようになってきた。第三ベンチで昼寝しなきゃ続かないぞ。
 毎回太郎に到着前には、「今回はビールはやめておこう」と思うのだが、着くとノータイムで飲んでしまう。美味いもん。昼寝タイムまで計算に入れておけば良いんだ。

 

140824-3.JPG

薬師沢小屋

 

 この角度からの薬師沢小屋の写真はありふれた構図だけど、もうちょっと良い撮り方はないものかと試してみたのがこの写真。
 吊り橋の下を流れる黒部川本流と、小屋の向こうから流れる薬師沢を構図に入れてみた。ほんとは合流点まで入れたかったのだけど、もっと広角でないと・・・

 

 さて、入山日から雨交じりの天候だったが、翌日も雨だった。予報がもうずっと雨だから致し方なし。それを承知で来たわけだから。

 25日は午後から少し雨が止んだので、下流に出かけてみた。

 まずは魚飛びでイワナを見てみよう。
 おお、ポンポン跳んでるわ。水量も多く、魚飛びはかなりの迫力があるのだが、果敢に跳んでいるイワナがいた。
 さっそくカメラで狙ってみるが、案外難しい。レリーズタイムラグが少しあるので、跳んだのを視認してからシャッターを切っても多くは撮り損ねてしまう。

 何枚か撮れた写真で、一番格好いいのがこれかな〜。

 

140825-1.jpg

イワナ、跳ぶ

 

 実はここに陣取って写真を撮っている合間に、どんどん雨が強くなってきた。
 このままだとカメラが壊れてしまうそうだったので、持ってきたロッドを出すこともなく小屋に帰ることに。

 雨の日は小屋で毛針巻き、というのも良い時間の使い方だよな、と憧れていた。
 私の釣りの師匠である景子ちゃんに教えてもらいながら巻いてみた。

 

140825-21.JPG
140825-22.JPG

毛針巻き♪ 上写真の左端が景子ちゃんにもらった毛針、他は自分で巻いた毛針

 

 その夜、次の日の午前中と毛針量産体制に。
 ・・・ラインを通せないくらい巻いてしまったやつもあるんだが。

 

140826-1.JPG

8/26の増水

 

 翌日は朝から雨。雨。雨。
 これは増えるだろうな、と思っていたら、昼頃になってようやく本格的に増水してきた。
 まあちょっと物足りない増え方だけど。

 

140826-2.JPG

濁流を撮ってみた

 

 濁流も撮ってみた。撮ってみたけど、まだ少し透明度があるな。ちょっと物足りない・・

 

 夕方になってようやく雨があがって減水してきた。
 おお、ちょっと釣りができるか?
 夕食ぎりぎりになるかもしれないけど、ロッドを持って出かけてみた。いよいよデビュー戦♪

 まあいきなり上手くいくわけはないよな。
 長年この川を見ているので、イワナがいる場所は判っている。どこに毛針を落とせばイワナが反応してくれるのかもだいたい判る。
 でも、狙った場所に毛針を落とせない〜。落とせても毛針が見えない〜。この辺にあるはずなのに・・・と目をこらして水面を見ていたら、突然1mほどずれたところでバシャッと音がして、見るとイワナが毛針を食って吐き出した後だったりする。
 合わせ損ねも数々。もっと焦らずゆっくり合わせれば良いのに、と頭では判っていても手が勝手にロッドを上げてしまう。

 まあ最初から上手く釣れるわけもないか。もう小屋も近いし時間は5時をとうに回っているし、そろそろ・・・と思っていたその時。

 その時、私は大きな岩の陰からポイントを狙っていたのだが、ふと気づくと足下にけっこうなサイズのイワナがゆったりと泳いでいたのだ。
 近すぎるし、そもそもこっち向いてるし気づかれてるよな。まさかな・・と思いながらもイワナを見たら毛針を投げてみたくなるではないか。
 投げる、というよりほとんど竿を立てたまま毛針を目前の水面に落とす、という感じのキャスティングだった。
 で、ぼけ〜っと静止しているイワナの目前をゆっくりと横切らせてみた。

 すると、ふわ〜っと上がってくるんだよな、イワナが。
 おいおい本気か?と思いながら見ていると、パクッときた。ありゃー来たよ、と思いながら合わせてみると、見事に釣れました。
 良いのかお前は、そんなに甘くて大丈夫か?

 

140826-3-1.JPG

初イワナ 水から上げる寸前

 

 計ってないけど、24〜25cmかなぁ。

 それにしても、釣ったイワナを写真に撮るのって意外に難しい。
 ちょっと手間取ったけど、あまり長い時間引き回すのは可哀想なので、撮れた写真に満足はしていないけど放してやらなきゃ。

 

140826-3-2.JPG

初イワナ さて、毛針を外してやるか

 

 自分で巻いた毛針で釣れると嬉しい。

 

140826-4.jpg

夕刻の黒部源流

 

 夕刻、太陽が谷に差し込んできていて、もやが立ち昇るのが綺麗だった。
 小屋に帰ったらもう従業員の食事が始まる頃だった。まあ釣り師の帰還てそんなもんである。5時なんかに帰れるか、というのは自分でやってみるとよ〜く判った。

 ここに来てから毎日飲んでいたのだが、この日は景子ちゃんだけでなく従業員&居候総出で飲んでいた。11時過ぎまで飲んだのも、今回では最長の飲み会だったな。

 あ、小屋番の赤塚君は私が入山した日から熱を出して寝込んでいた。この夜はようやく復活の兆しを見せていたのだが、飲み会への参加はいくら何でも無理っぽ。
 いったい何だったのかね〜?熱だけしか症状がないのに、その熱が39℃以上とやたら高くて辛そうだった。

 解剖したら判るかもしれんが。

 飲み終わって寝ようかという11時過ぎ、外に出てみたら星がとても。
 これは撮らねばなるまいと、まっすぐ歩けないほど泥酔しているのにカメラと三脚を持ち出して撮影していた。

 

140826-5.JPG

薬師沢の狭い空に銀河が聳える

 

 ・・・もしかして泥酔していた方が良い写真が撮れたりして。

 でも、実はピントは少し甘いのだった。

 

 翌27日。
 予報ではこの日から天候は好転するはず。果たして久しぶりに青空が。と言うより入山以来、初の太陽。

 午前中はツッカケのまま河原で吊り橋下のイワナを狙ったりしていたが釣れず(来たのだけど合わせ損なった・・)、午後からは小屋番がようやく復活してきたので景子ちゃんと釣りに出かけた。

 ところが。

 出かけた途端に雨が。

 ん〜、やはり今回の雨は俺が連れてきたのだろうか・・・

 最近は雨男の自覚はなかったけどなー。

 少し待てば止むだろうと魚飛びまで行ったが、雨は強くなってくるわ魚飛びではイワナはまったく跳んでないわ(前日の増水でみんな遡上してしまったんだろう)で、さっさと釣り上がることにした。

 魚飛びのすぐ上で川は中州ができて左右に分かれているので、景子ちゃんは左、私は右側を釣り上がることに。
 景子ちゃんはさっそく29cmの尺寸前の良いのを釣り上げていた。

 私は木に毛針を食われてしまい、外しに行くのに腰までの徒渉を強いられていたりしてドタバタしていたが、なんとか2匹上げた。
 写真は撮らず。というより、もう土砂降りに近い降りで釣った魚の写真を撮る余裕なんてなし。

 

140827-1.JPG

師匠がさっそく29cmをゲット

 

 景子ちゃんは時々木の下に入って雨を避けていたが、中州を歩いている私はダイレクトにずぶ濡れ。
 あ、2人とももちろんカッパなんて持ってきてない。私が傘を持っているだけ。

 

140827-2.jpg

大物を狙う師匠(でも逃げられた)

 

 小屋の近くで景子ちゃんが溜まらず帰ってしまってから、私は午前中逃げられた吊り橋下のイワナをもう一度狙ってみた。
 今度は釣れたのだが小さいぞ。さっきのとは違う子だな。

 なんてことをやりつつ、3時前には小屋に帰着。
 今日は久しぶりに普通にお客さんが来る日だったので(これまでずっと1ケタだった)、少しは手伝わないとゴロさんのようにいつ来ても大歓迎される居候になれないもんな。

 というわけでこの日は今回初めて配膳からヘルプに入った。やっぱこれくらいしないとここに来た気がしないわ。

 食事の後はやっぱり景子ちゃんと飲んでいたのだが、さすがに4日連続なので2人とも少し疲れが出ていて、早めにお開きとなった。それでも10時前にはなっていたかな。

 

140828-1.JPG

下山前の記念写真

 

 翌28日、下山の日。

 晴れたわ。下山する日だけ晴れという週間予報が珍しく当たったのだった。

 ま、カッパを着ずに行動できるのはありがたいかな。

 というわけで恒例の記念写真を撮ってお別れである。

 

140828-2.JPG

カベッケが原

 

 でも太郎はガスの中でえらく寒かった。ビールを遠慮したくらい寒かった。

 

140828-3.JPG

太郎平にて 寒い〜

 

 ちなみに帰りは荷物がけっこう軽くなっていることもあって、薬師沢〜太郎が2時間ジャスト、太郎〜折立も2時間と、けっこう普通にまともなペースで行動できている。登りのメロメロさはなんだったんだ。

 心臓破りを降りているとき、昇ってくる若い兄ちゃんとすれ違った。
 少し狭いところだったので避けて通したのだが、すれ違いざまに、「釣りですか?」と声をかけてきた。
 私は普通のザックに足下も普通なので、よく一目で釣りと判ったな。ザックの横にロッドを差しているが、それも三脚と一緒に差しているので容易に釣りと判るスタイルではなかったはずなのだが。
 その兄ちゃん、「大きいの、いましたか?」と聞いてきたので、「2日前の増水で大きいのが遡上してきてるみたいですよ」と言うと嬉しそうな顔をして心臓破りを加速して登っていった。なんでも薬師沢3連泊の予定で来ているのだとか。

 今これを書いている夜がその3泊目ということになるのだが、下界ではこの3日間、まずまず安定した天候だった。楽しんで釣りができていたら良いな。

 そういえば入山した日、学生らしき集団に抜かれたのだが、その中の1人が私のサイトを読んで大学でワンゲルに入った、と話してくれた。
 そりゃー嬉しい。でも後でヤクザな遊びに引き込んだって恨まないでね。

 

 

Back to up