ソフトシェルってなにもの?

 この1〜2年で急激に増えてきたジャンルがソフトシェルである。でもこれってなんなの??
 カタログに「ソフトシェル」と銘打って積極的にモデル展開しているメーカーは、パタゴニア、ノースフェイス、マウンテンハードウエアなど多数ある。モンベルは「ソフトシェル」という言葉は使っていないが、いかにもそれっぽいモデルは出している。

 このソフトシェルという言葉、極めて定義が曖昧なのだが、シェルと言うくらいだからアウター、すなわち一番外側に着ることを想定して開発されたウエアであろう。
 ソフトシェルという言葉が出てくる前は、シェルと言えばそれはゴアテックスなどの防水透湿性素材を用いたレインウエアであり冬山用のジャケットやパーカーであった。これらのウエアはソフトシェルの登場と同時にハードシェルと呼ばれるようになった。

 ではソフトシェルとハードシェルの違いってなに??
 ごく大雑把にざっくり言ってしまえば、ソフトシェルとは「完全防水でない上着」である。完全防水、完全防風を捨てる代わりに透湿性やストレッチ性など、「快適さ」を大幅に増したウエア、と思えばだいたい間違いないと思う。
 例えばパタゴニアのカタログのソフトシェルのところを見れば(パタゴニアではレギュレーターと呼ぶ)、フードも備えて見た目にはほとんどゴアのハードシェルと見分けが付かないディメンションジャケットストレッチクルーシェルジャケット、フードがなく中間着用途としても使えそうなコアスキンジャケットゼファージャケット、はたまた極度に薄っぺらくてポケットに入るくらいのドラゴンフライなんでもありである。
 共通点として、防水性を捨てて強い撥水性を持たせていることと、その代償として高度な透湿性を持たせていること、程度の差はあるがストレッチ性を持たせていること、くらいだろうか。

 だとすると、モンベルだとカタログにはソフトシェルという言葉は一切使っていないが、「アウターとして使用可能」という設定のサーマラップ、ライトシェル、ウインドブラスト、ODパーカ、マウンテントレーナーといった製品群は、まさに「ソフトシェル」だろう。特にマウンテントレーナーは面白い。なんというか「高級ジャージ」とでも言えそうな出で立ちなのだが、ショーラードライスキンというよく伸びるナイロン生地を使っていて運動性と快適さは抜群である。(私も一着持っている)
 ショーラードライスキンは、世の「ソフトシェル」の一つのメインストリームなのだが、こういう商品を「マウンテントレーナー」などというダサダサのネーミングでさりげなく売っているあたり、さすがはモンベルである。
 ちなみにモンベルは今年の冬モデルでロッシュジャケットアクションシェルジャケットといういかにもソフトシェルという造りのモデルを2つ、新規投入している。マウンテントレーナーと3モデルで、ストレッチ性と保温性をトレードオフさせてモデル展開している感じである。これだけ判ってるモデル展開をしておきながら、まだ「ソフトシェル」という言葉を使わないのは、ひょっとして意地なのか??

 というのは、私も実は「ソフトシェル」という言葉は眉に唾を付けずにはいられないからである。
 要はあっさり言ってしまえば「完全防水でないアウター」はみんなソフトシェルだ、と言い張れば言い張れるのである。それだけ定義付けがはっきりしていない言葉なのだ。
 パタゴニアやノースあたりだと、フードも付いていて出で立ちはゴアのシェルと変わらないのも多数ある。知らない人がこれ1つあれば完璧と勘違いして買ってしまいそうである。
 元々この分野、アメリカで出現したジャンルで、彼の地では冬でも比較的天候は安定していたりするし乾燥もしている。なので場所によってはパタゴニアのディメンションジャケット1つあればOKだったりするのだろう。
 日本は湿気が多く、冬山といえども基本的に雨が降る可能性がある山がほとんどである。3000mの北アルプスですら、絶対に厳冬期は雨が降らないとは言い切れない。「風雪のビバーク」の松波明は厳冬期の北鎌尾根で雨に降られたために死んだようなものだったし、ゴアテックスの出現以前は、運悪く冬山で雨に降られると、それは即生命の危険を意味した。
 2000m級の冬山だったら、地域にもよるがまあまず雨は降る、と思っておいた方が良いくらいである。
 また、日本海側の冬山だったりすると雪がたっぷり湿り気を含んでいるので、ウエアにベタベタ雪が付く、体温で融ける、濡れるといった事態になりやすい。深いラッセルをすればなおさらである。
 夏はなおさらで、数日の山行なら一度は絶対雨に降られると思った方が間違いない。

 つまり、ソフトシェルを「装備中の唯一のアウター」とすることは、日本の山では基本的にできないのである。
 例えばパタゴニアディメンションジャケットを着ていて雨が降ってきたとする。このウエアはフードも付いているアウター専用の形態なので、こいつを脱いでザックにしまい、ゴアのアウターを着ねばならない。つまり単純に装備が増えてしまうだけだったりする。バテても白い目で見られるだけだったりして・・・
 また防風性もやはりゴアなどのハードシェルの方が性能的に優れており、猛吹雪の時も着替えなければならないだろう。
 そんなわけで「アウター専用」形態のソフトシェルには懐疑的だったりする。

 使えるとすれば、中間着としての用途も考慮した、すなわちフードが付いていないやや細身のシルエットのウエアかな。
 天候が悪化すれば、上にハードシェルを重ね着することを前提に、冬山用途なら保温性、春から秋用途ならストレッチ性を優先させて共通要素としてある程度の防風性を備えたウエアなら、けっこう使い勝手が良さそうである。
 モンベルのマウンテントレーナー、アクションシェルジャケット、ロッシュジャケットの3モデルは絶対そこを狙って開発されている、と思う。
 実際、マウンテントレーナーはすこぶる使い勝手が良い。夏から秋にかけて北アルプスでは抜群の使い心地だった。ストレッチ性は抜群なので沢や岩で激しい動きをしても邪魔にならないし、保温性は最小限なので暑苦しくもない。ある程度風が吹いても寒くないし。風が強くて寒くなれば、その上からレインウエアを着れば良いだけである。

 そんなわけで、よく考えてこの手のウエアを導入すれば、上手くするとウエアの装備を1枚、確実に減らすことができる有用なものだと思う。たいして考えなしに持っていっても、荷物が増えるだけである。

 そういうことをあれこれ工夫したり考えたりするのは楽しいので、このソフトシェルというジャンルのウエアは物欲をそそる
 ショップに行けば何でもかんでも「ソフトシェル」と銘打って売っていたりする魑魅魍魎の世界なのでなおさら面白かったりする。どうやらここではソフトシェルは「軽めのウエア」という意味づけらしい。ま、間違っているとは思わないけど。
 ただ、メーカーによっては(特にパタゴニアアークテリクスのような貧乏人には手が出ない高嶺の花メーカー)、ハードシェルと素人には見分けが付かないようなソフトシェルもあるので、知らない人が間違えて買ってしまわないかと心配であるが・・・

 

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