ソフトシェル対決
ソフトシェルには懐疑的、とか言いながらけっこうはまっていたりする今日この頃なのだが、この項では具体的な商品名を挙げて実際に使用した上で比較検討してみることにする。
今回比較するモデルは、モンベルのマウンテントレーナーの2000年型及び2002年型、それにTHE NORTH FACEのV3ジャケットである。
モンベル マウンテントレーナージャケット 【素材】バイサーフェイスストレッチナイロン ポケットは両腰(ジッパー付) 重量:460g | |
モンベル マウンテントレーナーフルジップ 【素材】バイサーフェイスストレッチナイロン ポケットは両腰と胸(ジッパー付) 重量:440g | |
THE NORTH FACE V3ジャケット 【素材】コーデュラストレッチ ポケットは両腰と胸(ジッパー付) 重量:410g |
ちなみにV3ジャケットは売却してしまったので、今は手元にはもうない。
また細かいことだが、マウンテントレーナーの2モデルはモデルチェンジというわけではないようで、2002年は両型が並行して販売されている。
さて、見た目やちょっと触ったくらいではほとんど同じに思えてしまうこの3モデルであるが、実際に山で使ってみると、それぞれかなり異なるコンセプトのモデルだということが判った。
まずマウンテントレーナーだが、この2モデルはバイサーフェイスストレッチという素材を使っている。これはモンベルによるとショーラードライスキンというショーラー社の素材を表地に、裏地に細かく起毛させたナイロン地を使っているらしい。とにかくよく伸びる。伸縮性は抜群である。
また、このショーラードライスキンという生地、非常に目が詰んだ生地で耐摩耗性も防風性も非常に良い。よって撥水加工を施せば小雨程度なら十分弾き、とりあえずまともな雨でなければアウターとして十分機能する。
2001年型のフルジップの方は、ただでさえよく伸びるショーラードライスキンに、さらに脇と袖口にクリマプラスパワーストレッチという、凄くよく伸びるフリースを使っているので、これを着てどんな激しい動きをしてもストレスを感じることは全くない。私はテニスするときにも着ているほどである。
また袖口はシンプルなゴムだったり、かなり身体にぴったり来るタイトなシルエットだったりと、こちらはどちらかというと中間着用途をかなり意識した造りになっている。
対してマウンテントレーナージャケット(2002年型)の方だが、同じバイサーフェイスストレッチを使ってはいるが、こちらは脇や袖口の伸びるフリースは使用されておらず、全面的に同じバイサーフェイスストレッチの生地で造られている。
フルジップと比べてややウエア全体として伸縮性に劣る分(といってもとてもよく伸びる生地なのだが)、シルエットはややゆったり目である。
また、袖口もベルクロを使用して締まり具合が調節できるような仕様になっている。また裾もフルジップの方にはゴムが入っているのに対しジャケットの方には特に裾を絞る仕様は取り入れられていない。
つまり、ジャケットはフルジップに比べるとややアウターとしての用途に振った造りになっているということである。
ややゆったり目のシルエットにベルクロ留めの袖口は、アンダーにある程度厚め(といっても知れているが)のウエアを着込むことを想定しているし、裾の絞りがないことも然りである。また脇と袖口のフリース地を廃していることによって、防風性と耐摩耗性はフルジップよりやや向上している。
ただ、この両モデルに共通しているのは、裏地が起毛処理されていて最低限ではあるが保温性が確保されている。保温性より重要なのは吸汗性、つまり「汗を吸ってくれる」ことで、このために中間着、つまり「長袖シャツ」替わりに着ても何の不都合もない。ジャケットの方は、この上からさらにアウター、つまりレインウエアなどを着込むと、多少袖口がうるさく感じたりするが、それでもTシャツ、マウンテントレーナー、レインウエアというレイヤリングをして雨の中を長時間歩いたりしても、身体が濡れたりして不快に感じることもない。
一言で言うとこのマウンテントレーナーというモデル、「アウターとしての機能(防風性・耐摩耗性・撥水性)をプラスした中間着」という感じである。モデルによって中間着寄りアウター寄りと少し性格が違うが、その差は微妙なものだったりする。
それに対しV3ジャケットは、表地の手触りはマウンテントレーナーとよく似ている。同じように目が詰んでいて耐摩耗性と耐風性が高そうな生地である。なので「同じようなモデル」と勘違いしてしまうのであるが(価格帯も近い)、実際着てみるとかなり異なる。
こちらの方は裏地に起毛処理がされておらず、基本的に肌触りは表地と同じである。なのでまずTシャツの上から着るような使い方をすると、腕周りはあまり肌触りが良いとは言えない。
肌触りはともかく、吸汗性に乏しいのがマウンテントレーナーとの大きな違いである。透湿性自体はきっと十分に確保されているのだろうが、汗をかいてしまうとベタベタして「蒸れる〜」という感じはマウンテントレーナーより大きい。(保温性はマウンテントレーナーの方が高いにも拘わらず)
つまりこのジャケット、要するにウインドブレーカーなのである。下には長袖のシャツを着ていて、風が吹いて少し寒いときに着るジャケット、という感じである。中間着としての機能には乏しい。
つまりこのモデルは、「ハードな機能(激しい風雨や風雪に対応する機能)を省略することによって軽量化と快適性(ハードでない状況下において)を備えたウエア」という感じである。
アウター、としての用途に絞られているのは、裾や襟を絞るドローコードが装備されていることでも判る。また袖口もベルクロで絞るタイプである(モンベルのようにゴムは併用されていない)。
ドローコードにはコードロックが付き物であり、V3ジャケットには裾のドローコードにはポケット内に、襟のドローコードには首の後にコードロックが装備されている。これはさらにアウターを着込んだ際、けっこうゴロついて邪魔に感じる。
ついでに言うと、この襟の設定はやや疑問である。襟の高さが低いので(これは中間着用途を想定したためか?)ドローコードで絞ってもあまり効果はない。首の途中で締まってしまうのでやっぱり寒いのである。この低い襟にドローコード、という設定は少し疑問である。
伸縮性の方はたいしたことはない。このウエアを着てザックを背負っても、肩の突っ張り感はあまり感じなくて済むかな、という程度である。ザックやハーネスでウエアの上からあちこち縛りつけた上でクライミングをすれば確実に突っ張り感があると思う。
という具合にこのV3ジャケット、ウインドブレーカーとしての単機能に絞りきった分、マウンテントレーナーより軽い。単に重さだけでなく、収納時にかなりコンパクトになる。
しかし。
このV3ジャケットを装備に入れることによって省略できる装備というモノがないのである。
本来、ウインドブレーカーはゴアのレインウエアがあれば用が足りる装備である。確かにちょっと肌寒い程度の行動中の時は、レインウエアを着ると暑い。汗をかく。蒸れる。そんな時にはこのウエアは良いかもしれないが・・・
マウンテントレーナーであれば、長袖の少し厚めのシャツを省略できる。つまり、行動中はTシャツとこのウエア、それとレインウエアでほぼ全ての状況に対応できるのである。V3ジャケットだと同じ状況に対応するのに、Tシャツ、長袖シャツ、V3ジャケット、それにレインウエアが必要である。
なのでトータルで考えればV3ジャケットの方が重いのである。
なので確かにこのV3ジャケット、軽くて着やすくて悪くないウエアなのであるが、これを装備に入れると単純に1枚追加ということになってしまうし、何よりマウンテントレーナーを持っていればこのウエアをわざわざ追加する意味がまったくない。V3ジャケットの持つ機能でマウンテントレーナーにない機能はないし、その逆はあるのだ。
そんなわけでこのV3ジャケットは私の装備の中ではモロに浮いてしまう存在になってしまったので、結局売却してしまった。
まあ、荷物の重さにあまりシビアでない小屋泊まりでの縦走や日帰りのトレッキングなどには、軽くて高機能なウインドブレーカーとして1枚持っていっても良いかもしれない。だが、荷物を少しでも軽く少なくしたい単独でのテント泊山行などでは、どう考えても出番はない。
そもそもこの2モデルを同列に比較することに無理があったのかもしれない。
ウインドブレーカー単機能ということなら、モンベルだとウインドブラストとかODパーカあたりと比較すべきモデルなのかも。でも、そうすると価格比は約3倍である。
ノースフェイスにはショーラーダイナミックを使ったジャケットがあって、マウンテントレーナーと比較するのはそちらの方が的確だったのかもしれない。でも、価格比はやっぱり約3倍である。とても買えません。
ちなみにマウンテントレーナーは2004シーズンにまたモデルチェンジした。
フルジップと同じく脇と袖口に伸び〜るフリース、という2001年型に近い構成になっている。素材がショーラーダイナミックという表示に変わっているが、バイサーフェイスストレッチ(ショーラードライスキン+ナイロンポリウレタン混紡)とどう違うのか、少なくとも触ってみた感じでは同じである。
袖口の伸び〜るフリース地(クリマプラスパワーストレッチ)の部分に親指を通す穴が空いたのが特徴だが、正直言って2001年型のフルジップとあまり見分けがつかないデザインと仕様である。
使い勝手は非常に良いし、値段もこの手のモデルとしては破格に安いので、デザインさえ気に入れば1着持っていても損はないウエアだと思う。