独断と偏見まみれのストック考察

 私が学生の頃は「杖を突いて山を歩く」という概念はなかった。雪山にスキーのストックを使って歩く人はたまに見かけたが、無雪期の山でストックを持っている人はほとんど見かけなかったし、たまに見かけたらひどく異様に見えたものだ。まあ、スキーのストックの場合、短くたためないので上の方でピッケルとアイゼンの世界になった時に危険なほど邪魔になるのは目に見えていたが。
 それが最近、それ用のステッキ、あるいはストックなるものが売られ、猫も杓子もそれを持って山を歩くご時世らしい。これは一度試してみなければ、と人と同じなのは嫌いなクセして実はかなりのミーハーのB型である私はさっそく買って、それを持って薬師岳に登ってみた。

 買ったのはモンベルの「アルパインポール ベントグリップ」というモデルである。アルパインポール ベントグリップ

 物の本や雑誌によると、「登りは短めに、下りは長めに調整して」とあるが、面倒なのでそのまま使っていた。

 それにしても、これ、なかなか良いわ。

 正直言って登りはどうでもいい。あれば楽な時も確かにあるのだが、邪魔なところもけっこうあるし差し引きすれば別にあってもなくてもいい、という感じである。
 また、太郎平や薬師平周辺は木道が多いのも邪魔だった。そのままブスブス突いて歩けばあっという間に木道が穴だらけになってしまうのは必定である。今回はシーズンオフで誰もいなかったので、ストックを長いまま2本束ねて持ってブラブラさせながら歩いていたのだが、それもシーズン中の人がたくさんいる時期は危ないだろう。結局、短くたたんで持つしかないのか。

 雪面の上り下りもまあどうでもいい。バランスの補助にはなるので助かる、と思う人は多いだろうけど。傾斜の緩い登りならそれも言える。確かに何もなしで歩くよりは楽だった。だが、傾斜が強くなるとその長さが邪魔だった。短くすればいいのだろうが、面倒だ。
 雪面のトラバースにもいいかも。でも、転んだ時は何の役にも立たないということを肝に銘じておかないと。
 雪面の下りはかっ飛ばすのでストックは邪魔だった。たたんでザックに付けてカッ飛んでいた。アイゼンが欲しくなるほどの傾斜の下りではちょっと助かったが、それでも転んだら何の役にも立たない。それだったらピッケルの方が良いかも。

 


 

 これはいい!と思ったのは、下り道だった。それもザレた斜面の下り(薬師岳東南稜分岐からの下り)とか樹林帯の下りである。飛ばせる。
 かなり飛ばしてもバランスが崩れないので疲れない。下りの時の疲れって、要するにバランスを保とうとする時の筋肉の負担が大きいからなので、それをストックにある程度肩代わりさせることができるのは楽である。木の根などでかなりの段差があるところの下りでも、上体の姿勢をほとんど変えずに下ることができる。

 木道では使えない、登りでは邪魔に感じることも多々ある、薬師岳の頂上部のような岩稜ではストックが岩に取られがちで神経を使う、などの邪魔に感じる局面もけっこうあるけど、下りで安心して飛ばせるというだけで持っていく価値はあるな、と思った。

 

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