初心者家族のテント泊山行

-プランニングと実際の行動-

 計画を立てる際、あるいは実際の行動での基本は、別にファミリー登山に限らずパーティーで登る山はすべからく同じである。
 すなわち、「最も弱い者に合わせる」ことである。
 が、こと相手が子供である場合、これを守ることはあまり容易くはない。

 その理由の1つは、子供の場合はその弱さが想像を絶していることである。大人同士のパーティーでの「弱い者」とはちーっとレベルが違うのである。
 単に体力の強弱ということだけではなく、例えば大人であれば膝くらいの高さの段差であっても子供にとっては自分の胸まである巨大な障壁である。大人だとちょっと大股になって飛び越さねばならない程度のぬかるみは、子供にとっては絶望的な底なし沼である。
 なので元々体力が弱い上に、同じコースでも子供にとっては、大人にとってのそれと比較にならないくらい難易度自体が高いのである。つまり50ccのスクーターでモトクロスのコースに出ているようなモノなのである。

 もうひとつは、子供は自己防衛をしないということである。
 大人ならきついと思えばペースを緩めてくれとか、休憩の時は何か甘いものを食べようとか、そういう自分の体力の消耗を少しでも抑えようという努力をする。子供はしない。疲れていても休憩になれば走り回り、雨が降って身体が冷えてもずんずん歩き、ある時突然パタッと倒れるともう動けなくなっている。
 それはまるでブレーカーがついていない家の中で電子レンジとエアコンをフル稼働させているようである。さらにホットプレートのスイッチを入れた途端に配電盤が火を吹いて全ての電源が落ちてしまうのである。
 「疲れた」とか「まだ着かないの?」とか文句はたらたら言う。だがそれは単に歩くのに飽きただけで疲れているわけではない。そのあたりの見極めが難しい。甘えてウジウジ言っているうちは、まだまだぜんぜん大丈夫と思って良い。

 そのあたりを計画の考慮に入れなければならない。
 具体的には、最初から行程にかかる時間を標準コースタイムより大幅に割りました上で計画を立てることである。
 その割増率の想定が難しい。
 本番前に近場の低山でハイキングをし、子供のペースを掴んでおくことはもちろん必須であるが、その割増率はコース状況によっても大きく異なってくるので、けっこう経験が必要でもある。

 ちなみにうちの次男(平成10年4月生)の生を例にとる。
 去年(平成15年)の8月、生は5歳だった。この時、立山の雷鳥沢〜立山〜大走り〜雷鳥沢のコース(標準コースタイム5時間半ほど)を、生を含めた私達の家族は11時間かけて歩いている。ちょうどコースタイムの倍である。ちなみにこのコース、雄山から大走り分岐までの区間は全体的に岩稜歩きで、大人にはそれほどたいしたことはなくても子供にはかなり段差が大きく、生の胸あたりまでの乗越はしょっちゅうだった。また大走りからの下りもざらついた急斜面で子供にはけっこう辛い道である。
 翌16年5月の霧ヶ峰では、鎌ヶ池キャンプ場から車山の頂上まで、ほぼコースタイムどおりの2時間で歩いている。この道はほぼ平坦で子供にも苦労がない道で、天候があまり良くなかったのにも拘わらず、時間はかかっていない。
 さらに16年8月の雷鳥沢から奥大日岳への往復も、正味の歩行時間はほぼコースタイムどおりの5時間だった。
 が、10月の白駒池からニュウへの区間は、コースタイム1時間半に対し2時間弱と、やや時間がかかっている。この区間は滑りやすい木道や雨後のぬかるみが多く、やはり生にとっては難易度が高い道だったようだ。

 去年の立山はいささか生にはきついコースだったと思うが、今年の奥大日は登山道自体はそこそこ生にとってもきつい道だっただろうと思うのだが、それでもほぼコースタイムどおり。これはこの1年の間にそうとう強くなったんだ、と思ったのだが、ニュウではやっぱり時間がかかっている。
 これは体力だけではなく、道の状況によっても幼児の歩行速度が大きく左右されるということだろう。その振れ方は大人のそれよりも遙かに大きい。

 そこまでの読みを初心者家族にしろというのは、はっきり言って無理である。
 ではどうすればいいかというと、5歳児の場合、もう最初からコースタイムの倍を予定しておくということだろう。もちろん子供の年齢、体力の個人差によって事情は異なってくるのだが、そのあたりは親としての判断である。日帰りハイキングを1〜2回やれば、そのあたりの判断はできるはずである。

 これが小学校中学年(3〜4年生)にまでなると、もう体力自体は下手な大人よりあると思っても良い。コースタイムどおりの時間で歩くのは楽勝だと思う。

 ただし、である。
 子供の場合、体力はあっても精神力はない。なので単調なダラダラした登りが延々と続くような道や長時間行動には弱い。
 というわけで、1日の行動はコースタイムで5時間程度まで、というあたりが妥当だと思う。これは5歳児がパーティーにいる場合は10時間行動を意味するわけだが、まあうちもやったし他にもやっている家族はいるので、やってできないことではないと思うが、まあ何にしても子供次第ではある。

 

 そんなわけで、一応コースタイムで5時間程度まで、という行動計画の基準はできたとして、それを子供の体力や性格などを考慮してアレンジし、実際の計画を組んでいくわけである。(子供は個人差も年齢差も大きいのでそれほど簡単ではないが)

 コースを計画していく段階では、エスケープルートを必ず考慮すること。
 最初のここまでの区間を何時間以上かかったらここから引き返す、この区間中に天候が悪化したらここのルートでエスケープする、などということを細かに設定していく。逆に言えばそういうエスケープルートが設定できないコースは、あまり初心者向きではない。
 そういう計算は、特にファミリー登山でなくても普通のパーティー登山でも単独行でも想定しておくべきものなのだが、子供がいる場合は時に大人の感覚からは想像もできないペースになってしまうことが多々あるので、特に意識してきちんと想定しておく必要がある。
 少し馴れてくると、コースを組んだ時点でエスケープルートを選択する取捨進退の機微などはなんとなく感覚的に判ってくるものなのだが、子供など極端に体力レベルや歩行能力が違う者を含めたパーティーでは、特に意識してしっかり想定しておかないと機微を誤るリスクが高い。

 さて、そうやって綿密に計画を立て、いよいよ山にやってきた。
 いざ行動を開始すれば、別に子供連れに限らず山歩きのコツとノウハウは同じである。
 とにかく最初の区間は意識してペースを抑えることは大切である。ここで飛ばしてしまうと、そのダメージは1日中蓄積され続けるから。
 ただ、子供連れの場合、大人はペースを抑えているつもりでも子供にとっては超ハイペース、というワナに陥りがちなので注意が必要である。
 ここは最初に「コースタイムの倍かかる」などという計算で計画を立てたのなら、意識してそのペースに落とす、ということに神経を配った方が良い。それでも子供に負担がかかっているようなら、それはそのタイム設定が甘かったということで、その日の行程は早いうちに見切りを付けることも必要だろう。

 ただ、子供が「疲れた」と言ったり泣き出したり、というのはあまり当てにはならないのが難しいところである。そのあたりは何回か日帰りで近場の山に登ったりしながら見切るしかないだろう。子供が泣いたからといって行動を中止していては、家の裏の丘にすら登れまい。
 まあ、別に子供に苦行をさせるのが目的ではないので、泣こうが喚こうが引っぱたいて歩かせる、というのが正しい親の行動とはとても思えないし、第一その経験で子供達に山嫌いになられても困るので、そこはほどほどにしておくべきだとは思うが・・・あまりハードな行程は組まない方が。
 ただし、泣くのが唯一の意思表示の手段だった乳児期から人間になっていく過程で、子供は「泣こうが喚こうがどうにもならんことがある」ということは学ばなければならない。学んでない大人も多いが。
 ま、そういう意味では親にとっても「子供が泣き喚いてもどうにもしてやれないことがある」ということを学ぶ必要があるだろうし、山はそれを学ぶには良い場所と言うことは言えるだろう。学んでない親も多いが。

 というわけなので、私の場合は子供が泣き出しても基本的には何もしない。もちろん泣き出さないよう、休憩をこまめに取ったりお菓子で釣ったりという努力はしているし、靴擦れができて足が痛い、というような明確な理由がある場合はむろん対応するが、単なる疲れての甘え泣きの場合は、その場で止まって泣きやむまで黙って待っているだけである。
 ま、そのうち泣く回数は減ってくる。

 とにかく子供連れで山を歩くとき、最大の鍵になるのは「子供をいかに歩かせるか」ということであるのは間違いない。
 なのであまりにも無理して歩かせることがないようなコース設定をするのはもちろんなのだが、どのみちどんな楽なコース設定をしても子供は文句を言う生き物である。その時、いかにして子供をその気にさせたり強引に引っ張っていくか、ということに関しては、まあいろいろなサイトや本でいろいろなノウハウが語られてはいるが、実は公式なんてモノはない。それは親子の関係そのままだからである。
 というか、家族で山に登るときのリーダーシップやメンバーシップとは、つまるところ親子関係や夫婦関係を含めた家族関係そのものなので、「こういう場合はこうする」という公式は存在しない。

 大切なのは、家族を危険な目に遭わせない、ということと、家族みんなでこの冒険を成し遂げる、ということくらいである。
 そのためにお父さんは一生懸命神経を使ってリーダーシップを執り、お母さんはお父さんを補佐し、子供達はそれぞれ自分たちの役割を果たせばOKなんである。いや、別にお父さんとお母さんの役割は逆でも良いんだけどさ。

 

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