映画「岳」の感想

 

バリバリのネタバレなので、この映画を未見で話の筋を知りたくない人は読まない方が良いです。

 

 っても、DVDも既に出ていてテレビ放映までされているので、今さらネタバレでもないだろうけど。

 元々原作の「岳」自体、私は嫌いではないがさして好きではなかったりする。
 なんか三歩のキャラクター設定があまりにもリアリティーがなくて、話に入り込めないんだよね。山中でテント生活をする山岳ボランティアって現実には「いねーよ、そんなやつ」みたいな設定をしなくても良さそうなものなのだが。
 救助隊員とか、山小屋の従業員とか居候とか、なんでそういう現実に存在する設定をしなかったのだろう。何にも縛られない自由人を物語の中心に据えたかったのかもしれないが、そんな自由人が何を言ってもあまり心に響かないんだよね。
 なので私はこのマンガにはあまり入り込めなかった。山の設定が実際の穂高を舞台にしているようで細部はかなり異なり、しかもエピソードごとに微妙に違ったりして、頭の中に物語の舞台となる山の地図を描けなかったのも入り込めなかった理由の一つかな。簡単に言うと、読み進んでもこの山に土地勘ができなかったわけだ。

 なので映画化のニュースを聞いても別に興味は湧かなかった。そもそもあの三歩のキャラクターを実写でやったら、「こんなやつ、いないって」という違和感が炸裂するのは目に見えている。ゴルゴ13とか森雪とか、マンガだから成立するキャラクター像というのがあるんだよ。三歩もそういうキャラだぞ。私にはマンガでも成立しなかったのだが、多くの人には成立したからあれだけ売れたのだろう。でも、実写では違和感炸裂なのは火を見るより明らか。
 小栗旬がそういうキャラをうまく解釈して演じることができる役者だという認識はぜんぜんなかったので、キャスティングを見た時点で興味は失せていた。
 なので映画も見ず、DVDが出てもレンタルすらせず現在に至ったわけだが、たまたまテレビ放映されていたので見てしまったのだった。

 で、感想なのだが・・・

・・・酷い。あまりに酷い。

 もうこの一言に尽きるよ。あまりの衝撃シーンの連続に、もう頭が真っ白である。

 オープニング。
 雪山を1人の登山者が登っている。アイゼンにはバカでかい雪玉が付着している。
 「ははぁ、この雪玉が原因で滑落しちゃうんだろうな」と思いながら見ていたが、私はとことん甘かった。
 その登山者は、「ふぅ、重い・・」と言いながら登っていたのだが(そりゃあんなに巨大な雪玉をつけてりゃ重いわ)、そのうちアイゼンを外してそのアイゼンをザックに装着し、ツボ足で歩き始めたのである。

うおぉぉぉぉい、何するんじゃあぁぁぁ〜!

 思わず目を剥いて画面にツッコんだのは私だけではないはず。

 やがてその登山者は滑落する。当たり前じゃ〜!!
 おそろしくチープなCGの滑落シーンを経て、彼は深いクレバスに転落する。日本のどこにそんな深いクレバスがあるんじゃ〜!

 衝撃のオープニングである。最初の数分で口はあんぐり、目は点である。

 

 これで終わりかと思ったら、衝撃シーンはまだまだ続く。

 岩壁の途中で事故を起こした遭難者を椎名久美が救助しようとするシーンがあるのだが、椎名が救助活動の可否について本部と言い争うシーンがある。まあ別にたいしたこっちゃないと言えばそれまでだが、他の映画でもよくこういうシーンを見かけるが、こういう業界(映画とか?)にいる人達って、組織の指揮系統とかについて、どれほど甘い認識なんだろ?
 後で、牧パイロットに「お前みたいなのをアマチュアと言うんだ」とダメ出しをされるが、当たり前である。牧が言わなくとも(一部の)観客が既に、久美の言動にうんざりしている。もうお前は辞表を出せ。
 「剱岳 点の記」のところでも書いたが、「組織人の葛藤」を描くには、この業界のやつらは甘すぎる。高校生の葛藤をこんなところで出すな。

 ま、それはいいや。その直後の衝撃シーンに比べれば。

 遭難者が亡くなって悲嘆に暮れる久美のところに追いついた三歩は、なんとその遭難者を「フォーーーーール」とかコールしながら下に落としてしまうのだ!!

うおぉぉぉぉい、何するんじゃあぁぁぁ〜!

 殴られて当然じゃ。

 

 さらにクライマックス。
 山頂付近で吹雪に巻き込まれた登山者を救助するため、ヘリでピックアップに向かう救助隊なのだが、爆弾低気圧の接近により救助活動を14時で打ち切る決断をする。ま、30分前にならないと爆弾低気圧の接近に気づかない救助隊も相当山をナメているが、そんな細かいところにツッコんでも仕方ない。
 ヘリで遭難者のピックアップの最中、これが限界と判断した牧と救助隊は、なんと遭難者を1人残して引き上げてしまうのである。

うおぉぉぉぉい、何するんじゃあぁぁぁ〜!

 ・・・ふぅ。
 でもまだこれで終わらない。衝撃シーンは続く。

 スリングを切断して自ら残ることを選択した久美だが、気がつけばクレバスの中にいた。またクレバスかよ。でも考えようによっちゃ雪洞を掘る手間が省けたようなもんで、そこが安定しているなら生還は約束されたようなもんだ。
 だが問題が1つ。遭難者の足が巨大な雪のブロックに挟まれているのだ。最初はピッケルでブロックを砕こうとしていた久美だが、ビクともしないブロックに諦めて、久美は遭難者の足を切断することを考える。

 うーん、こんなところで素人が足を切断したら、この遭難者はまず死ぬな〜とか思ったが、そんな細かいところにツッコんでいる場合ではなかった。
 なんと久美は遭難者の足を切断するため、ピッケルを振り上げるのである!!!

うおぉぉぉぉい、何するんじゃあぁぁぁ〜!

 そんなもんで足が切断できるか!!

 ・・・ぜぃぜぃ・・かなり疲れてきた。

 そこに単独で登ってきた三歩。どうでも良いけど、この山はえらく小さいな。下界から1日経たずにここまで来てるもんな。しかも猛吹雪の中、途中で雪崩に巻き込まれたりしているのに。まあそんな細かいところにツッコんでいる場合じゃないけど。

 久美と遭難者がいるクレバスを確認した三歩は、突然走り出し、そのままの勢いでクレバスの中に飛び降りてしまうのである!!

うおぉぉぉぉい、何するんじゃあぁぁぁ〜!

 全員クレバスに入ってどうやって脱出するのだ??
 それ以前に、クレバスの中の久美と遭難者の位置も確認せずに飛び込んだが、飛び降りたところに2人がいたらどーするつもりだ?

 あほか?こいつ。

 降りてみたら、遭難者を担いでクレバスの壁を登ろうとする姿勢のまま、久美がこと切れていた。
 なんで遭難者より遙かに体力的にも余裕があるはずの久美が先に死ぬ?ヘリでここまで来てるんだぞ。
 それを三歩は心臓マッサージと人工呼吸で蘇生させようとする。疲労凍死した人間が心臓マッサージで蘇生するとも思えないが・・・しかもあれって心停止した直後でないと無意味だよな。海難救助か。あ、山岳版海猿だからか。

 それが蘇生してしまうのである。へぇ。たまたま心停止直後だったんだ。
 すると内部の確認もせずに飛び込んだ三歩は結果論的には正しかったと?へぇ。

 ま、いいや。そんな細かいところにツッコんでいる場合じゃないわ。

 翌朝、綺麗に晴れ上がった山を、三歩と久美と遭難者の3人は、三歩の「さ、帰ろ」の声と共に歩き出すのだが、お前らはその場で動かずヘリのピックアップを待てよ。久美は心停止状態だったんだし、遭難者は片足切断されてるんだぞ。歩けるか。
 いや、その前にどうやってクレバスを脱出したんだ?

 本部では3人が生きているとの連絡に歓喜の嵐。勇んで救助に向かう隊員達。
 待てよ。あんたら、前日は民間人(牧と三歩)に危険な救助活動をさせて、隊員1人(久美)を見殺しにして、何をしていた??
 前日に救助続行を主張して隊長と対立していた隊員が隊長と何やらアイコンタクトを交わして出動していったが、あんたは何をどう納得したんだ??

 もう制作者が何を考えているのか判らない・・・

 で、エンディング。
 オープニングでアイゼンを外して滑落したアホ登山者が再び山に来て、三歩とすれ違う。相手に気づいた三歩は大感激して彼に飛びついて抱きつくのであった。

うおぉぉぉぉい、何するんじゃあぁぁぁ〜!

 滑落したらどうすんじゃ。オープニングで滑落した斜面と同じ場所だぞ。

 

 ・・・ま、こういう具合に衝撃のシーンの連続だったわけで、細かいところまで含めると、もう何もかもがぐちゃぐちゃ

 

 ちなみに三歩役の小栗旬は、やはりアホにしか見えなかった。だからマンガのあの三歩を"真似"してもアホにしか見えないんだってば。あれはマンガだから成立するキャラ。それを単に真似ても、それは演技ではなく学芸会だよ。
 ま、実際の行動(遭難者の遺体を壁から落とす、確認もせず確保も取らずにクレバスに飛び込む、etc..)がアホなので全てがアホに見えてしまうのもあるのだろうけど。
 長澤まさみはもしかしたらまともな演技をしていたのかも知れない。でも、あまりの衝撃シーンの連続と小栗旬の突き抜けた演技(悪い意味で)に全部食われてしまった。

 ま、とにかく近年まれに見る衝撃作だったことは間違いない・・・

 

 

 

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