平成15年9月25〜28日 高天原 後半

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9/27 9:00 高天原山荘 出発
  9:50-55 高天原峠
  11:50 雲の平山荘 到着
  13:00    〃    出発
  14:00 アラスカ庭園
  15:20 薬師沢小屋 到着 (泊)
9/28 10:00 薬師沢小屋 出発
  11:00 第三徒渉点 通過
  11:30 第一徒渉点 通過
  12:30 太郎平小屋 到着
  13:30    〃    出発
  14:45-15:00 雪量計ポール
  16:10 折立 到着
    2.5万図 「薬師岳」

水晶岳の夕焼け 

高天原山荘前のテラスにて カミさんと香春さん

 その日の夕焼けは見事だった。水晶岳がオレンジに染まり、「燃えるような赤」とはまた少し違うのだが紅葉の色と相まってそれはそれは脳みそがサイダーになってしまうような眺めだった。
 デジカメのホワイトバランスをいろいろいじって、なんとかこの色を記録しようと努力したのだが、どうももうひとつだ。テレビ局もカメラ担いであちこち走り回っていたが、果たしてどれだけ映像化できたか、お手並みを拝見したい。

 ちなみにこの写真は後でちょっとレタッチして、なんとか記憶色に近づけたのだが、今度は空の青が飛んでしまった。

小屋にて 

小池さん夫婦とカミさん

宴会

宴会

 小池さんも一時はかなり老け込んで見えて「この人も歳取ったなぁ」と思ったものだが、今じゃきっちり若返っている。
 香春さんも登山経験がゼロで当然山小屋生活も結婚してから初めてだと言う割に、もうしっかり「山小屋の母ちゃん」が板に付いているような。

 高天原山荘は照明に電気を使っておらず、いわゆる「ランプの小屋」なのだ。写真ではさすがにフラッシュを使わないと暗くて写らないのだが、フラッシュを使ってしまうとこの2枚の写真のように、なんだか普通の風景になってしまう。ほんとはもっと暗くてボ〜っとランプの灯りが揺らめいていて、とっても酔いが回る雰囲気なのだけど。

 テレビ局のクルーは4人来ていたが、ディレクターの人は登山経験が皆無だったらしい。この番組を手がけて初めて山に登ったそうで、やはりこの高天原の景色には相当感銘を受けたそうな。
 「どうやったらこの景色を映像化できるんでしょうねぇ〜」と私に泣き言を言われても。私が教えて欲しいくらいなんだが。
 「高天原物語」は小屋開けから夏のシーズン前までだったのだが、今の取材で「高天原物語2」を正月あたりに放映するのだという。今度は全国ネットでの放映も視野に入れているとか。楽しみだ。

 高天の小屋はとっても静かな場所にあるので、他にお客さんがいたら宴会などできないのだが、今夜は内輪だけなので思う存分飲めるというものである。
 が、テレビ局のクルーが先に寝てしまい、小池さん達も潰れてしまい(小池さんも昔は午前様が当たり前だったのに・・・このあたりは歳だな)、私とテレビ局のディレクターが最後まで話し込んでいたのだが、バイトのつくさんに「もう寝てください」と怒られてしまった・・・

 寝る前に外に出てみると、星空がもの凄かった。冷え込んで空気が澄んでいるからだろう、星座が判別不可能なほどの星の多さ。天の川が天頂近くの高い位置なのは夏とはひと味違う。
 その時点でテラスのテーブルやイスが霜が張っているほど冷え込んでいた。こりゃ明日も快晴だ。

 

 


9/27 高天原〜雲の平〜薬師沢小屋

 この朝は今年一番の冷え込みで、水道が一部凍ったそうだ。小屋前のテラスも霜がびっしり張っていた。

朝の高天原湿原 

霜の高天原湿原

 湿原も一面の霜で真っ白になっていた。
 右の写真で湿原の奥に水蒸気が立ち昇っているのが判る?
 これが太陽の陽が当たると同時にしょわ〜っと舞い上がって消えていくんである。魂を吸い取られそうな光景なのだ。
 夏のシーズン中に条件が良いと、この水蒸気が湿原全体に霧がかかったように立ち込める。太陽の陽が当たると同時にそれが全部舞い上がって消えていく様子は、22年経った今でもはっきり覚えていたりする。
 思えば、その時間帯って朝7時頃で、小屋は非常に忙しい時間帯である。そんな時間帯に「湿原に行ってこい」と小屋を叩き出してくれた前小屋番の大山さんには、私は非常に可愛がられていたんだろうな。大学生になってからは妙に冷たかったが。

 この右の写真でショックなのは、空が白飛びしてしまったこと。
 真っ青の青空だったのに・・・
 ま、「高天原物語2」でちゃんと映像化されていることだろうから、それを楽しみにすることにしようっと。

 


 休暇中の景子ちゃんは今日中に(正確には今日の午後3時までに)薬師沢の小屋に戻らなければならないのだが、その前にと温泉に走っていった。
 幸せそうな顔をして戻ってくると、「全部制覇したよ〜」と嬉しそうにのたまうのだ。昨日、私がそれをしようとしたのに阻止したのは誰だ??

 天候は快晴。大東新道を戻るのはもったいないので雲の平周りで薬師沢に帰ることにする。
 小池さんと香春さんは、今日は水晶池で撮影だそうだ。掃除が終わってお茶を飲んで、照れくさそうな顔をしながら2人+テレビ局のクルー達は水晶池に出発していった。それを「じゃあまた冬に下で」と見送ってから、我々も出発。午前9時。

 高天原峠から雲の平への尾根を登る。この尾根は昔は「コロナ尾根」と言っていたのだが、今ではガイドブックにも出ていないし、この呼び方は廃れてしまったようだ。
 登りの最中、若い男女2人連れとすれ違った。女の子の方は地下足袋を履いている。雲の平山荘の従業員なんだそうだ。この時期は山小屋従業員がよく山をうろついているが、彼らは足元が普通じゃないのですぐ判る。

コロナ尾根にて 

雲の平への登り道から立山方面

コロナ尾根から水晶岳

同じく水晶岳

 

 登るに従い、樹林帯を抜けて視界が開け、薬師や水晶、赤牛、立山が見える。いつもハイテンションのカミさんをも黙らせるこの景色。

 紅葉も凄く綺麗だったのに、いまいち写真には色が写ってないなぁ。
 まあ元々涸沢みたいな「全山真っ赤っか」という山じゃないんだけどね。

 我々の頭の上は雲1つない快晴なのだが、富山平野方面には雲が立ち込めているのが判った。スゴ乗越あたりの稜線を今まさに乗り越えてこようとする雲がえらく格好良かった・・・


 

雲の平山荘前にて 

雲の平山荘前にて

2ショット

雲の平にて唯一のツーショット

 

 雲の平に着き、速攻で山荘でビールを買って飲んだ。右の写真を見るとどうやらすっかり脳みそがとろけているらしい。
 雲は三俣〜笠方面にも立ち込めていて、稜線を越えようと躍起になっているようだ。いくらかの雲は稜線を越えるのに成功し、雲の平を覆いつくさんと突進してくるのだが、勢い余って右の写真のように雲の平上空を飛び越え、そのまま黒部川方面に飛んでいってしまうのだった。
 反対の黒部川方面にも、薬師岳の富山平野側にはびっしりと雲が待機しているのだが、なかなか稜線を越えられないようだった。やはりいくらかの雲が稜線を越えることに成功し、突進してくるのだが勢い余って三俣方面に飛び去ってしまうのである。このあたりの気流はいったいどうなっているんだろう?

 雲の平の小屋あたりからは、水晶はこのように上半身だけを見せている。
 写真で見るとなんてことないのだが、実際はあまりにも巨大である。広大な平原の向こうに巨大な体躯を半分だけ見せているのだ。
 まるで「全部見たけりゃ早うこっちゃ来いや」と挑発されているようだ。

 雲の平から薬師沢小屋に向かって歩く最中、今回一度もカミさんとツーショット写真を撮ってないということに気づかされた。もちろんカミさんにである。
 周りには誰もいないので、セルフタイマーでとりあえず撮ってみた。

 雲の平から薬師沢に急坂を降る最中、カミさんが岩に滑って尻餅をつき、尾てい骨を強打した。今でも痛いらしく立ち上がったり座ったり、何か動作をする度に横綱の土俵入りのような格好をしている。


 その日の薬師沢小屋は、なんと30人の予約である。
 9月も末だとは思えないほどの賑わいである。高岡市役所の山岳部と元警備隊の谷口さんのパーティーが入っていて、なんと明日は30人ほぼ全員が赤木沢をやるのだとか。賑やかなことである。
 高岡市役所の川端さんは、ヒマラヤ経験もある富山の岳人では知らない人はモグリと言われるくらい高名な人であるが、私は小屋で仕事している時、この人に仕事中に何度か酔い潰されたことがある。当時、太郎には「池上は酒の失敗が多い」という伝わり方をしたものだが、それは違う。酒の失敗ではなく川端さんの失敗が多かったのである。それから何年もしてから白山の尾根道でばったり出会い、やはりあっという間に酔い潰されたこともあるのだ。
 それがどうだ。挨拶したらすっかり忘れられていた。・・・ま、考えてみれば素面の川端さんには今まで会ったことなかったわけだし、もう10年以上も前のことだから無理もないことなのだが。しかしそれでも覚えている覚えていないには関係なく、そのまま小屋前テラスで繰り広げられていた宴会に強制的に編入させられてしまっていた。いつもいつもこのノリにやられていたのだと気づいた時には、既に日も高いうちからベロベロにされていた。
 ちなみにこの川端さん、ヒマラヤのブロードピークに行った時に、7000mの高所キャンプで酒を飲んでいたとかかなり無茶な噂があるのだが、その噂を確認したら「おおよ、あそこで酒が飲めるのはワシだけじゃ」と滾っていた。・・・まあこの人なら、エベレストの頂上で1升あけたと聞いても信じてしまうかも・・・
 高岡市役所山岳部の山行では、1人酒を1升持って上がるのはノルマなんだそうである。ザックに500mlのビール缶が1ダースと酒で満タンの2Lポリタンが3つ入っているのを見たことがある。小屋では朝から酒を飲んでいるし、行動中も休憩の度に500ml缶を4〜5本あけるのだそうだ。

9/28 薬師沢小屋〜折立(下山)

 長かったようでたった4日間の山も、とうとう下山の日である。
 今日は景子ちゃんと入れ替わりに山ちゃんが休暇を取って高天原に行くそうだ。やはり雲の平〜水晶岳〜温泉沢コースである。彼もまた、7時半に小屋を出ていった。彼の靴はペラペラで畳んでジーパンの尻ポケットに入りそうな運動靴である。まあ、サンダルで6月の薬師に登った人だから・・・
 昨夜は30人以上もの宿泊者があり、今時珍しいことに全ての部屋を使っていたので、掃除もシーズン中並みである。「尻が痛い」と泣き言を言うカミさんを「シャキシャキ働けぃ」と尻を叩きながら(ほんとに叩いたわけではない)掃除を済ませ、小屋前のテラスでティータイムを取ってから出発した。

薬師沢小屋のスタッフと 

出発直前 薬師沢小屋のスタッフと

 

 右の写真で奥の2人が小屋番の坂本さん夫婦、手前で看板を抱えているのが景子ちゃんである。
 名残惜しいがカミさんの尻は痛いし、さっさと歩かないと下山できないので来年の再会を誓って出発する。(その前に小屋が終わって下界に降りたら遊びに来なよ)


 

太郎への道 

薬師沢から太郎への道

太郎への登り

最後の太郎への登り

 

 カミさんは尻が痛くて歩くのも辛そうだったが、まあ自分で歩かないとどうにもならないのである。痛いからとゆっくり歩くと、痛い時間が延びるだけなのでここはシャキシャキ歩いた方が良いのだ。痛い部位をとことん苛めると、そのうち痛みにも麻痺してくるし。というのが怪我に対する私の持論だったりする。

 といいつつ、太郎まで2時間半なので、まあよく頑張った。
 空が抜けるように青く、写真にはイマイチ色が出ていないが紅葉も綺麗だったので、それで気が少しは紛れたのかも。

 太郎に上がると、間髪入れずに赤木沢に行っていた30人がやってきた。怒濤のような早さである。
 太郎は昨日と同じパターンで、既にガスで視界はなかった。時折ガスの合間から薬師岳が顔を覗かせていたが、正午を過ぎると完全にガスに閉ざされてしまった。

 ガスの中、いよいよ折立に向かって下山である。
 カミさんも痛みが少し引いて調子が出てきた。ガスの中ポクポクと歩くのも気持ちがいい。
 来年は水晶に行きたいとか子供も連れて薬師岳に登ろうかとか、今から来年の話をハイテンションでするカミさんの相手をしつつ、遂に折立に着いてしまったのであった。
 私は岩苔小谷の大滝や上部ゴルジュを久しぶりに覗いてみたいし、カミさんを連れていくなら赤木沢にも連れて行ってやりたいし、高天原周辺で行ってみたい場所は他にもたくさんあるし、こりゃ来年は毎週は入らなきゃ?


 今回、初めて子供2人を残して来たわけだが、入山中カミさんとの間では不思議なほど子供達の話題は出なかった。
 冷たいようだが、せっかく子供達に我慢してもらって来たのだから、目一杯楽しまなくちゃね。
 帰宅したら子供達は元気いっぱいだったが、やはり妙にベタベタとまとわりついてきたし、最初はちょっと目が潤んでいたような。よしよし、今度またどこかに連れて行ってやるからな。

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