平成16年6月19〜20日 白馬岳
6/19 | 10:20 | 猿倉 発 |
11:20-35 | 白馬尻 | |
13:40 | 葱平 | |
16:00 | 村営白馬山荘 | |
16:15 | テント場 着 | |
6/20 | 6:20 | 村営白馬山荘 発 |
8:50-9:10 | 白馬尻 | |
9:40 | 猿倉 着 | |
2.5万図 「白馬岳」「白馬村」 |
先月、雪渓で遊ぶつもりが叶わなかったのでフラストレーションが溜まっていた。なので次の目標は白馬岳と早くから決めていたのだった。
が、夏山シーズンになってしまうと蜘蛛の糸にぶら下がる亡者のごとく大勢の登山者が群がり、アリの行列のように列をなして雪渓を登り、列を外れると牧羊犬のようなパトロールの兄ちゃんに「ルートを外れないでくださ〜い」と怒鳴られる迷える子羊のような山歩きはまっぴら御免だったので、行くとすれば6月中だ、と決めていた。まだ雪もたっぷり残っているだろうし。
天候も台風の接近で怪しげだったし、ちょうど出張の直後ということもあって、日程は行ってみなければ判らん、という状態だったのだが、とりあえず装備を適当に車に積めて猿倉まで走ってきた。ようやく猿倉に到着したのが10時過ぎで、ちょっと中途半端な時間だが、白馬のテント場までコースタイムで5時間半ちょい、日の長い6月なのでなんとかなるだろう、と歩き始めた。
実はその時、ちょっとした選択をしてしまった。アイゼンは持ってきていたのだが、パッキングするとなんだか重い。どうしようかとしばらく迷ったが結局アイゼンを装備から外してしまった。この1週間ほど前に白馬を登った人の記事から、葱平から上のルートは夏道がほぼ完全に出ている、ということを知っていたので、それなら不要、という判断だったのだが・・・
猿倉駐車場 |
土日だというのに猿倉の駐車場はけっこうガラガラだった。小蓮華山が綺麗に見えていて写真を撮っている人が何人かいた。
天候は悪くなく、歩き出すとけっこう日が照って暑かった。考えてみればまともなテント泊装備を持って歩くのは去年の7月以来のことで、おまけにまともな行程を歩く山行は今年初めてなんである。ペースを抑えないとバテるぞぉ〜と自分に言い聞かせながらゆっくり歩くよう努力はしたのだが、「カンカン照りの林道歩き」という最も嫌いなシチュエーションだったのでついついペースアップしてしまう。汗をたっぷりかきながら1時間で白馬尻に到着してしまった。小屋の直前から雪が出てきて雪渓歩きとなっていた。
白馬尻から大雪渓を望む |
ともあれ、待望の雪渓に大喜びで歩き出す。
けっこう大勢の人が雪渓を歩いていた。上の写真では導水管の作業をしている3〜4人の人しか見えないと思うが、実はこの写真の中にはその他に少なくとも8人の人が写っているのである。写真を原寸で見ると確認できるが、それでも三合雪渓の下部にいる人などはゴミ粒ほどにしか写っていない。
こんな時間から登り出すバカ者がこんなにたくさんいるのか、と思ったが、この人達はみんな「雪渓散策」の人達だった。道理でみんな雪渓の端っこを歩いているんである。花の写真でも撮っているのだろう。
白馬大雪渓の下部 |
右の写真で、右の方に2人の人が見える上に合流してくるのが三合雪渓である。この三合雪渓の出合付近で大雪渓は一時的に傾斜が強くなっていた。
ちょうどこの三合雪渓出合付近から、ルートを示すベニガラが蒔かれていた。
でもこのベニガラルート、本流の右岸寄り(つまり下から見て左端)の最も傾斜の強いところを通っている。多分それは、この付近では左岸からの落石が多いのと、シーズンに入ると左岸寄りは雪渓が薄くなるからなんだろうな。
実際、右の写真もこのサイズにするとよく判らないが、雪渓上には無数の石が転がっていた。
雪渓上を歩く人達は、ほとんどこの三合雪渓出合付近で引き返していき、このあたりからたった1人で歩くようになった。贅沢である。
この急傾斜地あたりはベニガラルートもあまり踏まれておらず、この時は登りだし雪も緩んでいたので何の問題もなく登ったのだが、「下りの時に雪が締まっていたらちょっと嫌らしいな・・・」という思いがちらっと胸をかすめた。
白馬大雪渓の上部 |
三合雪渓出合いの急傾斜地を登り切るとやはりガラリと雰囲気が変わって「山に来た〜」って感じになった。今までわりとたくさんの人がいて賑やか(といってもシーズン中と比べると考えられないくらい静かなのだろうけど)だったのが、急に人がいなくなるから。
時間帯も時間帯なので、これから先は下りの人と何組かすれ違うだけで、登りの人とはまったく会わない1人旅だった。
上の写真で、画面中央やや右寄りに上から降りてくる尾根が夏道ルートで、その最下部が葱平らしい。葱平の下部には大きな岩屋があるらしいのだが、今回はまだ雪の下なのか判らなかった。頭だけ出ていた大岩があるいはそうか。
ガイドブックには葱平の手前が「傾斜強い」等と書かれているが、実際はそれほどの傾斜は感じず(三合雪渓出合付近の方が傾斜は強い)葱平に到着した。ここまでアイゼンの必要性は感じず、ピッケルも出さずにダブルストックだけでOKだった。ただ、雪渓上の踏み跡は大部分がアイゼンを着けているような感じだった。でも、この傾斜でこの雪の状態でアイゼンを着けると却って歩きにくいような気がするんだけど。
実は葱平に到着した時点でけっこうバテていた。出張帰りからドタバタと山に来た慌ただしさと寝不足と1ピッチ目のハイペースが祟ったのかな。この体調で幕営装備を担いで1ピッチ目をコースタイムどおりに歩いちゃいかんよなぁ・・・とボヤキながらしばし休憩。
おまけに大雪渓ではしゃぎすぎた。真っ直ぐ登らずにけっこうウロウロしながら来てるし。三合雪渓も四合雪渓もご丁寧に出合いから少し登ったりしていたから・・・
バテたと言ってもシャリバテ気味だったのか、腹に少し入れるとかなり回復した。そういえばバタバタしていて昨夜からコンビニ握り飯2個しか食っていなかったぞ。
葱平から上は情報どおり、部分的に雪の上を歩く箇所はあったがほぼ夏道だった。
ただ、葱平右手の雪渓が小雪渓を経てそのまま避難小屋付近まで繋がっていたので、雪上歩行に長けた人ならそのまま雪渓上を歩いた方が楽で早いだろう。でも、傾斜は一部半端じゃないのでアイゼン(それもちゃんとした12本爪)は必携でしょう。この雪渓も魅力的だったので一瞬アイゼンを置いてきたことを後悔したが、バテ気味の幕営装備ではどちらにしても夏道素直に歩いた方が楽で早いのは明白だった。空身でこのあたりまで雪渓遊びに来る、というプランはちょっと魅力的かもしれん。
避難小屋付近からの杓子岳 |
小雪渓はまだ「小」なんて呼ぶのが失礼なほどのスケールだった。ルートはすれ違い用の待避所までしっかりと切られていたので問題なし。あれほど切るのはけっこう手間ヒマかかっただろうな。小屋の関係者の皆様、ご苦労様です。
避難小屋まで登るとガスの上に出て視界が開けてきた。ここから見る杓子岳って格好いいんである。
避難小屋の横にちょうど1張り張れるスペースがあって、水場も横に雪渓からの水が流れているし、それはそれは絶好のサイトだった。
「俺はここに張りたいんだぁぁぁ!」と激しく思ったが、当然ここに張ったら違反である。
お花畑 |
避難小屋の上部は一面のお花畑だった。
このサイズにするとよく判らなくなってしまうが、画面奥の斜面まで一面の花畑なのである。
ただし、花の名前はさっぱり判らないので、この黄色い花も白い花も、何という名前か判らない。動物には強くても植物はさっぱりなのである。
昔、コメツガの木の根本にツガタケという、要するにマツタケが生えるということもあり、コメツガとアオモリトドマツの違いは真剣に覚えたことがあったが、数年するとまた判らなくなってしまった。
村営頂上宿舎が見えてきた |
避難小屋を過ぎてひと登りでようやく稜線の小屋が見えてきた。ここからはルート上に残雪もほとんどなく、直射日光に炙られながらひたすら登るのみである。開放的で明るく、とても雰囲気の良い道。
村営頂上宿舎からの杓子岳と白馬鑓ヶ岳 |
午後4時、ようやく村営頂上宿舎に到着。
けっこうバテバテではあるが、幕営装備で休憩時間を含めてほぼコースタイムどおりで来ているので、まあ上出来といったところだろう。
村営頂上宿舎は、稜線から僅かに長野県寄りにあるので、ここからは立山方面は見えないが、それでも杓子岳と白馬鑓ヶ岳はとても綺麗に見えていた
家に電話を1本入れようと思ったのだが、携帯電話はアンテナは3本立っているものの通じない(au)。小屋の電話を使おうかと聞いてみたら、まだ電話は開通していないと言う。諦めて幕営の手続きをした。
が、この白馬のテント場はイマイチだなぁ。風が強くないということで選定された場所なのだろうが、ちょうど窪地にあるので展望は全く利かない。おまけにテント場は小屋の裏なのだが水場は小屋の表側にある。たかが小屋の裏表なのだが、なんせ収容1000人のマンモス小屋である。かなり遠い。今回は0.7Lほどの水筒1つで登っていたので、水場を何度も往復しなければならなかった。
小屋の玄関近くにビールの自販機があった。幕営手続きをしたときはなんとか誘惑を振り切ったのだが、水場を往復しているうちに抵抗しきれず、ビールを1本買って飲んでしまった。飲んですごく幸せに気分になったのは良いのだが、そのまま昼寝(もう夕方だが)してしまったのだった。
上空はほぼ快晴である。ここで頂上に行っておかないと・・・とは思っていたのだが。ビール飲んでそれ以上動く気になれないのは当然である。だから1回目の誘惑は振り切ったのに・・・それにしてもテントの中の昼寝、最高。
目が覚めたらもう6時を回っていた。近くのテントの炊事の音で目が覚めた。1人で登るときはいつも究極の手抜きメニューなので、この日もシュラフに入ったままテントから半身だけ身体を出し、そのままの姿勢でラーメンを作って食ってしまうとまたシュラフの中でウトウトしていた。相変わらず上空は快晴で、頂上に行ったら良いだろうなぁ・・・と思いつつも、自堕落に惰眠を貪るのであった。まあ今回の目的は白馬の頂上ではなく、あくまで大雪渓だったので、別に頂上に行く義理もないのであるが。誰かと一緒に来ていたら無理してでも行っただろうけど。
結局そのまま寝てしまった。
夜の10時頃、テントを激しく叩く雨音で一度目が醒めた。台風も接近していたし、天候が崩れるのは判っていたのでやっぱり降ってきたかぁ、等と思いながら再び夢の中へ・・・
考えてみれば、今回は先日買ったステラ2のデビュー戦である。デビュー戦から雨に降られたか。ステラ4の方がもうかれこれ5泊以上しているのにまだ一度も雨に降られていないのと対照的である。これはやはり、究極の晴れ女を連れてきていないからか。
ちなみに今回は、デビュー戦だというのに張り綱も取っておらず、えらく怠慢モードの設営だった。風が結構あったので、さすがに四隅のペグダウンと風上側にテントの下に風が入り込まないよう(そうなると割と容易にテントが飛ばされる)、石を並べて防風壁を作っていたが、雨が予想されていたにも拘わらず、購入するときにあれだけ拘ったフライの張り綱は取らずじまいである。
その後も、何度か雨音で目が覚めたのだが、その度に時計も見ずに再び寝てしまっていたのでよく覚えていない。
本格的に目が覚めたのは、隣のテントの炊事の音でだった。時計を見ると4時過ぎ。相変わらず風が強く、断続的に雨が降っているようである。
この日は別にこれといった予定もなく下山するだけだったので、寝たいだけ寝ているつもりだったのだが、目が覚めてしまったものは仕方がない。ダラダラと起き出して撤収の準備を始める。テントから雨具を着込んで飛び出し、すばやく撤収したのが5時過ぎだった。いくらなんでも下山するには速すぎるし、見るとたまにガスが晴れて頂上が見えるので、まあこれも義理だし(?)頂上くらいは行っておくかと空身で頂上を往復したのだが、ちょうど私が行ったときは全く視界が効かず、カメラも防水カバーから出すことすらしなかった。戻ってきた頃にまた頂上が顔を出したりして、なかなか意地悪なのであった。
ガスが舞い上がる杓子岳 |
村営頂上宿舎の前から見ていると、ちょうど下の雲海と上の雲の層と、2層の雲の層があって、2800mから上は雲の中、という感じである。上の雲の層は真っ黒で、いかにも「頑張って雨を降らせてまっす」という感じの雲。現に降っているんだが。
大雪渓の方からガスが湧き上がってきて稜線の手前で舞い上がり、上の雲の層に合流していく様子がとても格好良くてしばらく見とれていた。
いつまでもそうしていても仕方ないので下山を開始する。天候はもう悪化の一途のはず、と思ったからこその早々の下山なのだが、下山を開始してしばらくすると杓子岳のあたりにかかっていたガスが綺麗に晴れたのはちょっとショックだった。そもそも昨日の好天も意外だったのだが・・・この時期の天候の読みは難しい・・・
下山開始そのものが他パーティー(数パーティーいた)より遅かったし、しょっちゅう立ち止まって山をボケッと眺めていたり、登りの時にはほとんど吸わなかったタバコを各ポイントで一服していたりしていたのでペースは遅かった。雨が降ると思っていたのでカメラは出発の時にスタッフバッグの中に厳重に入れてしまっていたので、写真を撮る気にはなれなかったが、ガスが舞う山々は非常に良いムードだった。途中、雷鳥を発見して写真を撮ろうかとも思ったのだが、望遠レンズはさらにザックの奥である。断念。
ペースが遅いのは、もうひとつあまり速い時間帯に大雪渓に入りたくなかったのもあった。なんせアイゼン持ってないのである。上の方の雪田などではそこそこ緩んでいたので、まあこれなら心配ないか、とは思っていたのだが、何故か下るにつれて雪が締まっていくような気がする。
葱平から大雪渓を見下ろすと、先行した数パーティーが三合雪渓出合いの上部に固まっていた。どのパーティーもかなり長い間そこに留まっていたところを見ると、どうもその下の急傾斜地がちょっと嫌らしいのかも。アイゼンでも着けているのだろうか。でも、大雪渓を下り出すと着けられている下りの踏み跡はほとんどがアイゼン装着のものだった。ならば、なんであんな落石が多そうな場所で1本入れるかな?
大雪渓は期待に反してかなりクラストしていた。下り始めもそこそこ傾斜はあるのだが、まあそこはアイゼンなしでも普通に下れたのだが、三合雪渓出合付近の急傾斜地でこの固さだったら嫌だな〜とちょっと嫌な予感が・・・
標高が下がれば気温も上がって雪面も緩むかと期待していたが、ぜんぜん甘かった。雪渓の上は風が吹き上げたり吹き下ろしたりで、けっこう気温も一定なのである。それどころか下がるにつれて雪面が固くなっていくような気が・・・
気のせいではなく、三合雪渓の急傾斜地の手前が最も雪面が締まっていた。いくらなんでもこの固さであの傾斜はアイゼンなしではお手上げである。下りキックステップで踵がほとんど効かない固さだった。登りなら爪先が少しはいる程度。これはベニガラのルートはアイゼンなしではとても無理なので、手前(他パーティーが揃って1本取っていた場所)で立ち止まり、しばし考える。
というより、考えるまでもなく三合雪渓よりの少しでも傾斜の緩いところを下るしかなかろう。
というわけで、今回の山行で初めてストックとピッケルを持ち替え、滑落停止に備えてグローブも着け、気合いを入れて左に雪渓を横切り、斜面に突入したのだが、なんと入ってみると雪面は緩かった。踵キックステップが普通に効く程度の固さだったので、なんだと拍子抜けして調子よく下る。あの急傾斜地の上部が最も固く、その下と上でガラリと雪面の様子が一変していたのだった。
下りきったところでピッケルを再びストックに持ち替え、後はひたすら調子よく下る。白馬尻でジャケットを仕舞ってTシャツ1枚にした後はひたすら林道を飛ばして猿倉に戻ってきたのであった。
三合雪渓出合付近 |
右の写真で赤線がベニガラが蒔かれた「正規ルート」で、黄線が今回降りたルートだったりする。現状ではなぜベニガラがわざわざ最も傾斜の強いところを選んで蒔かれているかが判らないのだが、多分これは夏になると右の三合雪渓寄りは雪渓が薄くなるのと、左岸からの落石が多いからだろう、と思う。
今回、この三合雪渓付近の下りでだけは「アイゼン持ってくりゃよかった」と後悔したが、それも入ってみればたいしたことはなく、結果的にはアイゼンを装備から外して正解ではあった。でもこの時期だと稜線近くで残雪の具合によってはアイゼンが必要な場所もあるだろうし、やはり一般論としてはこの時期にアイゼンを持たずに行くのは大バカ者だったかもしれん。よく考えてみれば、そもそも白馬に来た「大雪渓で遊びたい!」という動機の中には「アイゼンで遊びたい!」というのも含まれていたはずなのだが・・・遊べる上部では、幕営装備を担いだ私の方にその余裕がなかったりした。白馬尻あたりにテントを張って日帰りで遊びに行った方が良かったのかも。
白馬尻からは暑かったので飛ばしまくり、30分で猿倉まで戻ってきてしまった。おびなたの湯で汗を流し、のんびりと車を走らせて富山に戻ってきたのであった。
自宅から糸魚川まで高速を使うと、2時間ちょっとで猿倉まで入れるのでその気になれば日帰りで大雪渓に遊びに来ることも十分可能だと思う。7月までにもう1回遊びに来るか・・・?
それと白馬のテント場は水場が遠いので、ここで幕営するときは容量の大きな水筒は必携であろう。大雪渓の登路に限ればコース中の水場は豊富なので700mlの水筒で特に不便は感じなかったのだが。
空の時は畳んでしまえるポリの水筒が欲しかった。