独断と偏見まみれの登山靴考察

 このサイトを書くために昔のことをいろいろ調べていて、自分は登山靴をまともに買ったことがない、ということに初めて気づいた。
 一足目の登山靴は、高校1年の時山小屋でバイトしていて拾ったものだ。数年前のお客の忘れ物とかいうものを貰って帰ってきた。(それにしても登山靴なんか忘れるかぁ?) ハンワーグの靴で、かなり良いものだったと思う。これがまたオーダーしたかのように足にぴったりだった。
 高校の卒業アルバムの写真で履いているのはハンワーグと思われる。

 高校2年の頃、世の中に初めて「プラスチック登山靴」なるものが出現した。世に出したのはコフラックである。
 そのコフラックが初のプラスチック登山靴を発売する時、モニターを募集していた。応募したら当たってしまい、1足貰ってしまったのであった。これが2足目のコフラックである。高校2年の池小屋山〜明神平縦走の時の写真では既にコフラックを履いている。また、大学1年の夏山合宿でもコフラックを履いているのが写真から判る。
 このコフラック、確かに冬山では無敵だった。足の指が冷たいと感じたことはなかったし、就寝時もシュラフの中に靴を持ち込まないで済むのはありがたかった。インナーだけ履いて寝れば、アウターはそのあたりに放置しておいても問題なかった。革靴だと凍結を防ぐため、みんなシュラフの中に入れて寝ていたものだったが。
 夏山は・・・地獄だった。(誰がプラスチックブーツを夏山で履くというのだ??)
 長治郎や平蔵などの傾斜が急な雪渓上は良かった。剛性が極端に高いため(言い換えれば柔軟性が皆無)、キックステップは無敵状態だった。3月の白馬主稜の最後の雪壁をアイゼンなしで登れたもの。(アイゼン落としたんである) 5月の立山三山縦走もアイゼンなしでやれた。(アイゼン忘れたんである)
 だが、夏の縦走路は悲劇だった。柔軟性が皆無のため(言い換えれば剛性が非常に高い)、普通の道を歩くとロボットみたいな歩き方になるのである。その結果、足首に靴擦れができるという信じられない事態に陥った。
 また、岩登りも、細かいホールドやアブミに乗っている時はいいのだが、外傾したスラブをフリクションを効かせて登る、なんて局面は危険ですらあった。VのルートをA0化してしまったのは靴のせいだ。

 3足目は先輩の形見である。
 大学山岳部に入ったときに岩登りのいろはから教えてもらった先輩だった。かなりアレな人で、初めてその先輩とザイルを組んでゲレンデに行った時、いきなりW+ほどのルート(プライベートゲレンデだったので正式にグレードはついてない)に連れて行かれた。
 「落ちてもちゃんと止めてやるからな。心配せずに登ってこい」と言って先輩が先に登った。上からコールがかかったので私もセルフビレイを解いて登り始めた。やけに難しく、何度も落ちそうになったが必死に岩にかじりついて登り詰めた。テラスに出てみたら先輩は、右手でタバコを持ち、左手一本で単にザイルを握っていた。しかもウンコ座りしていた。
 「こ・・・これはセカンドといえど、絶対落ちちゃいかん」と思い知ったのだった。
 また、かなり無茶な人で、11月の御岳に行くのに登山靴を忘れ運動靴で登った人である。我々はアイゼン履いている中で、1人だけ運動靴・・・その運動靴で下りにグリセードまでやった人である。
 こんな殺しても死にそうにない人だったが、大学を卒業して1ヶ月しか経たない頃、オートバイ事故であっけなく死んでしまった。今でもふと思うが、この人が生きていれば私も山岳部を辞めなかったかもしれない。(んでもってどこかの山で死んでたりして)
 3足目の靴は、この先輩の形見なのだが、別に正式に「形見分け」して貰った靴ではない。彼の死後、半年くらい経ったある日、部室の片隅に転がっているのを発見し、サイズがまたぴったりだったのでそのまま貰ってしまったものである。その頃ハンワーグはどうしていたか・・・たぶんまだ持っていたはずである。この時点で私は3足の靴持ちだったはずだ。
 でも、それからの山行では形見の靴をよく履いていた。冬山でもコフラックを履かずに形見の靴を履いていたような記憶がある。
 コフラックもハンワーグも、その末路を覚えていないので、おそらく部室に放置したままになってしまったのだろう。

 その一方、運動靴も大活躍していた。剣は雪渓があるのでさすがに運動靴は履かなかったが、それ以外の無雪期の山はたいてい運動靴で歩いていた。
 大学の生協で1足1000円のペラペラの運動靴を売っていたのだが、これがまた凄い性能だったのである。裏のゴムが非常にフリクションが高く、下手なラバーソールより岩登りには良かった。同級生はこの靴で5.11を登ってしまった。
 また、濡れてもほとんどフリクションが低下しないという驚くべき性質をもっていて、大学の時代の沢登りは黒部の上廊下も含めてほとんどこの運動靴で行った。ペラペラなので2足まとめてもジーパンの尻ポケットに入るくらい薄くなるのも素敵だった。その代わりすぐ破れてダメになるので、常に5足は持っていたし、山に行く時は2足は持って入った。
 当時はまだ私の足首も無傷で、こんな裸足に等しい防御性のかけらもない靴で、30kgくらい担いでも平気だったのである。

 大学生活の後半は足首を傷め、さすがに運動靴で山を駆け回るのは怖くなってきた。
 ここで買ったのが、いわゆるトレッキングシューズというやつである。これが失敗したというか・・・サイズが小さすぎた。というか、岩登りを念頭に置いて買ったので、けっこうジャストサイズを買ってしまったのだ。確かにチンネの左稜線は快適だったが、雷鳥沢の下りで泣いた。

 で、しばらく山に登っていなかったのだが、今年になって久しぶりにトレッキングシューズを買った。安物である。でもゴアテックスである。

コールマンの安物ゴアテックス!

 ゴアテックスでありながら1万円しなかったのだが、さすがに快適である。
 靴のゴアテックスは初めてなのだが、なるほどこれは快適だと感心した。多少の流れの中に足を入れてもまったく濡れない。また、確かに蒸れない。
 ただ、安物なのでいつまで保つかは判らないが・・・夏用の靴は安いのをどんどん買い換えていく方が良いかも。それより積雪期用のちゃんとした革靴が欲しい。

 形見の靴はまだあるのだが・・・10年手入れしてないからなぁ・・・さすがにこれはもう無理だろうなぁ。

 ちなみにこのコールマンの靴、東京靴流通センターで買った。
 片隅の「トレッキングシューズコーナー」で片っ端から履きまくり、それで店内をウロウロ歩き回って決めた靴である。店員が妙な顔をしていたが、山靴とはそうやって買うものであろう。結局はメーカーや値段より、「足に合うか合わないか」が全てである。
 でもこのコールマン、同じメーカーでもモデルによってサイズがぜんぜん違う。このあたりは「やっぱその程度のメーカーなのね」と思ってしまうのだった。


 


 さて、この靴で雪の中山、残雪の薬師、夏の立山と歩いた感想を。
 たいへん歩きやすい靴である。かなりワイドな靴なのだろう、足入れは「こんなすんなり入って良いの?」と思うくらい楽に入る。それでいてきちんと足をホールドしてくれるのはさすが現代の靴である。履き心地もソフトで楽なのである。昔の完全剛性体のような靴しか知らなかった身としては驚いてしまう。
 ただ、ソールはかなりソフトである。だからこそ歩きやすいのだが、急な雪渓のキックステップでは多少脹ら脛の筋肉を余計に使う。立山の岩稜を歩いて、私は何の不安も感じなかったが、一般的には3000mの岩稜にはもう少しソールの堅い靴を勧めた方がいいだろうな。
 耐久性は・・・まだ判らないけど2シーズンくらいは大丈夫かな、と思う。ミッドソールに何を使っているかよく知らないのだが、おそらくポリウレタンだろう。とすれば、けっこう遠慮なくハードに使っているので、ソールの剥離が何年後に来るか、ちと心配である。ソールの張り替えができる靴ではないし、安全策を採れば2シーズンも履けば上等で十分素は取ったと言えるだろう。無雪期のハイキング程度の山だったら、この程度の靴を2シーズンごとに買い換えていけば十分、という気はする。

 で、これとは別にオールシーズン用のまともな登山靴も欲しくなってきた。形見の登山靴は、いくらなんでも現代の履きやすい靴を知ってしまうと手入れし直して履こう、という気になれないので。
 というわけで、ただいま登山靴の物欲度は5に格上げ中なのである。

 最初は値段も安いし、モンベルのアルパインクルーザー2500あたりを買おうかと思っていたのだが、実物を見てみると、どうもやっぱヌバックレザーは好きになれない。ヌバック自体がどうのというより、モンベルに限らずどのメーカーの靴も、ヌバックはアッパーが薄すぎてペラペラに感じてしまう。これでアイゼン締めたら血が止まるんぢゃ・・?と思ってしまうのは昔の山屋だからなのかな?
 他のいろいろなメーカーのカタログを見ていて感じたのだが、このヌバックレザーを使ったモデルは、歩きやすさや快適性寄りの「最上級トレッキングブーツ」というコンセプトなのか。ソールも柔らかいし、第一かなり反っているモデルが多い。まあこんな靴でもアイゼンは装着できることはできるのだろうが、そういう用途を優先していないことは明らか。
 トレッキングシューズならば、今のコールマン1万円シューズには何の不満もないし、いくらモノが良いといっても軽登山靴に2万も3万も出す気はしない。

 ところがメーカーによっては、布製(ナイロン)のアイゼン完全対応モデルもあったりするからややこしい。ガルモントタワーGTXというモデルなのだが、実物に足を入れてみる機会があったのだがソールはハードで前爪だけの立ち込みも問題はなさそうである。アイスクライミング用なのか?

 ん〜、重登山靴と軽登山靴しかなかった昔に比べ、今時の登山靴は複雑でややこしくて面白い。

 いろいろ調べてみたらば、ハンワグはイメージ昔のままの、いかにもクラシックなモデルが多い。デザインがなんとなくダサダサなのはさすがに質実剛健の国、ドイツのメーカーである。その点は同じドイツメーカーのローバーも同じ。それにしてもチベッタってモデル名は昔はレザーブーツじゃなかったっけ?アイガーもそうだが、20年前と同じモデル名を使い続けている(当然モノは昔の面影はかけらもないが)頑固さもさすがゲルマン

 シリオは私が現役の頃にはあまり聞いたことがなかったメーカーなのだが、最近はずいぶん人気があるらしい。
 712-GTXという黄色の靴が、どこの登山用具店に行ってもたいてい置いてあって、これは履いてみたのだが、アイゼン対応の本格的ブーツにしてはほんの少し柔らかい気がするが、その分夏山は歩きやすそうでかなり気に入った。開発コンセプトが「オールシーズンの八ヶ岳」という判りやすいキャッチフレーズのモデルで、「物欲度」急上昇である。

 ガルモントは格好いい。
 実物を見たり足を入れてみたのはリベンジGTXタワーGTXマウンテンガイドの3モデルだが、どのモデルも格好いい。見てるだけで物欲度沸騰である。
 リベンジGTXは、スペック的にはモンベルのアルパインクルーザー2500あたりとちょうど被るモデルで、いかにも足入れもソフトで歩きやすいけど、アイゼンも履けないこともないよ、って感じである。同じヌバックレザーだし、真正面から少し離れて見たら見分けがつかないくらい見た目も似ているが、手元で見るとほんのちょっとのことなのにどうしてここまで?と思うくらいリベンジの方が格好いい。
 しかし、値段も1.5倍である。まあ、いくら格好良くても「高級軽登山靴」に3万円台後半は辛い・・・
 マウンテンガイドはもういかにも冬のクライミング用の靴である。ソールはガチガチだしカットも脹ら脛くらいまである。いくらなんでもここまでは私には要らないな。
 タワーGTXは、実はかなり欲しい。上には布製と書いたが、実はスエードレザーも使っている。ただ、面積比で半分以上はナイロンである。保温性もかなりありそうで、厳冬期でなければ北アあたりでも十分使えそうな気がする。
 この靴、カタログでは「アプローチシューズ」に分類されているのだが、けっこうハイカットでソールの剛性も高いし、いったいどの山のアプローチで履けというのだろう?ヒマラヤの氷河か??
 で、実はこのガルモントのマウンテンライトGTXというモデルが欲しい。オールシーズン用のブーツとしては微妙にローカットで、そこも気に入っているのだが、何と言っても格好いいのである。色はオレンジである。マウンテンガイドのブルーもそうだが、なんでイタリア人って色の使い方がこんなにまでも上手いんだろう。物欲度がプラズマ化である。

 というわけで、まあまず金を貯めなければならないのだが、ガルモントマウンテンライトGTXシリオ712-GTXを買おうと思っている。
 712-GTXは、私が登山用具店をハシゴして靴を見て回っていた時、数人ものお客が同モデルを購入するところを目撃してしまったので、かなりテンションは下がっている。ミーハーなのだが人と同じなのは嫌いなのだ。

 現在、貯金モードに移行中・・・


Garmont Mountain Light GTX 

ガルモント マウンテンライトGTX

 

 結局買ってしまった。 ガルモントマウンテンライトGTXである。ほとんど「格好いい」という理由だけで買うという、かなり邪道な買い方である。

 まあ、冬季対応の靴は1足欲しかったのは事実なのだが、注文してやってきたこいつは相当ハードな代物だった。
 サイズ42(26.5cm相当)を中心に3サイズ取り寄せてみて、店でさんざ試し履きをして結局43を買ったのだが、足を入れるとセオリーどおり「爪先を目一杯前に出して踵に指1本入る」サイズなのだが、足入れはかなり気合いを入れてねじ込むという感じである。ソールもかなりハードで、2cm程のスタンスに安定して立てるほどである。
 ワイズは流行の3Eなのだが、シリオの靴と比較すると同じ3Eでもかなりタイトだと感じる。シリオ712-GTXもかなり試し履きしたのだが、爪先あたりのフィット感は明らかにこのマウンテンライトの方がタイトである。
 まあつまり、そういうコンセプトの靴だから当然なのだろう。アイゼンの前爪だけで立ち込むような場合は、タイトな靴でないと安定して立てないからね。
 実はサイズも、42だとほぼジャストサイズで、それこそ爪先2cmのスタンスに楽に立てた。でもなぁ・・・別にアイスクライミングやるわけじゃないし、もう少し楽な方が良いなぁ・・・と弱気になってしまって43を買ったのだった。43だと少し遊びが多くて、爪先立ちはやや不安定な感じである。まあ比べればの話で、足首などはこれはギプスかというくらいにホールドされているので、たぶん普通の雪山だったらぜんぜんOKである。
 でも、元々私は靴はかなりタイトなのを選ぶクセがあって、43を選ぶのはちょっと躊躇した。店にある一番厚手の靴下を履いてちょうど良いかな、というフィット感になったので、靴下も同時に購入した。
 ・・・ま、もう少し楽な靴を選べばいいのだが・・・だって格好いいんだもん。

 ま、昔の登山靴なんてみんなこんなもんだったんだし。
 足首のホールド具合とソールの硬さが相当なものなので、夏道を歩くのは今の柔らかいトレッキングシューズを知ってしまった身には辛いものがあるが、雪の上は無敵である。たぶん。
 ま、人には勧めないけど。

 

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