独断と偏見まみれのマット考察

 私が高校大学の現役時代は、共同装備としてのマットはなかった。他の部や山岳会などでは「テントマット」を使っていたのかもしれないが、少なくとも私達の部では個人装備のマットが唯一のマットだった。
 それも当時はあまりたいしたものがなく、たいていはロールの銀マットで寝ていたものだった。
 当時私が持っていたウレタンマットは、どちらかというと「高級品」であった。 といっても3000円程度だったと記憶しているのだが。

骨董品のウレタンマット 

骨董品のウレタンマット

 このマットは、50cm×120cmほどのサイズで、写真のように30cmほどの幅に四つ折りできるようになっている。ちょうど具合が良かったのは、この四つ折りしたマットをザックの背中に入れるとちょうど良い緩衝材になったことだった。
 当時のザックは背中にたいしたパッドも入っていなかったので、このような緩衝材を背中に入れないと中のモノが背中に当たって痛かったのだ。

 


 ちなみにこのマット、高校生の時に購入して20年以上絶った今でも現存していたりする。
 マットとしてのみならず、テントの中でコンロを使うときは下敷きとして酷使されていたので、焼け焦げと穴だらけである。しかし水をこぼしても吸わないし、熱いモノが落ちてもマットが少々溶けるくらいで済むし、何より断熱性が高いのでガスカートリッジが冷えないと言う利点があり、特に冬山では重宝した。従って冬山の幕営山行では、私は片付けが終わるまでマットをマットとして使えず、1人尻が冷える思いを味わっていたのだった。

 この20年ほどの間に、登山用具は大きく変わったものもあればほとんど変わらないものもあるが、マットは最も大きく変わった道具の部類に入ると思う。なんせこういう板状のマットかロールマットしかなかったのである。
 エアマットは当時もないわけではなかったが、かなり重いものしかなく、登山用というよりキャンプ用だった。また、エアマットは冬山で使うとよけい冷えるという致命的な弱点があるので、現在でも冬山用に使う人はほとんどいないということである。

 銀のロールマットは今でも愛用している人をけっこう見かけるが、私はこれが嫌いだった。というのも、ロールして持ち運ぶので、テントの中で広げてもカールしてしまい、あまり快適に使えなかったのと、銀の面に結露してしまい(特に冬山)、ザックやシュラフが濡れてしまうという弱点があるのである。
 ちなみにテントマットに使う薄手の銀マットも同様で、高山帯などではよく結露して濡れてしまうことがある。なので私は裏返しにして銀の面を下に向けて使うことが多い。その方が断熱効果も高いのだそうだ。

 この20年の間にメジャーになったマットは、自動膨張式のセミエアマットである。これを始めて見たときはちょっと衝撃的だった。
 ただし値段もする。この手のマットの代名詞であるサーマレストなど、2万円を越えるモデルもあるのである。マットに2万円〜?

 マットごときにあまりお金をかける気がしなかったので、とりあえず20年来のウレタンマットとそこいらで買ってきた安物マットで間に合わせていたのだが、なんせ安物マットは嵩張る上に重い。それで仕方なくモンベルアルパインマットMを1本買った。この手のマットにしてはずいぶん安いのだが、それでも6000円もするのである。
 それにしても、家族4人でテント泊をするときは最低3本はマットが必要である。子供はどうせあの寝相なのでマットの上に大人しく寝ていることがないので2人で1本である。でもウレタンマットを続投させるにしてもせめて後1本・・・

 と思いながらふらふらと好日山荘に行ってみた。同じアルパインマットMを買うつもりでいたのだが、その隣にサーマレストプロライト3というモデルも置いてあった。
 広げて陳列してある状態を見ても、別に気にも留めていなかったのだ。同じサイズだし色が違うくらいにしか思っていなかった。
 ところが・・・丸めて並べてあるマットをふと手に取ってみて衝撃を受けてしまった。軽いのだ。これはモンベルと比べると体感的には倍違う。
 カタログスペックでも、モンベルのアルパインマットM710gなのに対し、サーマレストのプロライト3ショートは僅か370gである。実際にほとんど倍違う。この差はでかい。
 その代わり値段も倍違う。アルパインマットMの6300円に対し、プロライト3ショートは12,500円、さらにこのモデルはスタッフバックが別売で、これが1,600円もする。合計14,100円。
 この価格差にはかなり悩んだのだが(店頭で正味10分ほど)、この重さの差を体感してしまっては買わないわけにはいかなかった・・・

 というわけで、我が家のマットは下の写真の2本、アルパインマットMとプロライト3ショートという構成になった。
 ウレタンマットを引退させるとなればもう1本必要である。さすがにサーマレスト2本は買えないか・・・??

モンベルとサーマレスト 

モンベル「アルパインマットM」とサーマレスト「プロライト3ショート」

収納状態

収納状態

 2本ともサイズは同じで、51×119cmである。
 収納サイズは、下の写真ではほとんど同じに見えるが、実際は丸めた直径が14cmと9cmとかなり違う。


 マットのサイズであるが、私は昔からハーフサイズとかショートと呼ばれる、120cmほどの長さのものしか使ったことがない。
 テントの中で寝るときは、着れるものはみな着込んでいるし、一部の着ていない衣類(雨具なども含めて)はスタッフバックなどに入れて枕代わりにしている。火器類やクッカーはテントの外だし、それでほぼ空になったザックは足元に敷き込んでいる。
 なので全身用のマットを使うとザックの居場所がない。無理に足元に敷き込むと足が高くなってしまって寝づらいし。

 ただ、息子共はとんでもない寝相でテントの中を縦横無尽に寝返りを打っている。入り口側はいつも私が寝ているし一番奥はカミさんなので、真ん中のスペースを、両親を蹴飛ばして隅に追いやりながら所狭しと寝返りを打ちまくっているので、そこには全身用のマットが必要かも、と思っていたりする。
 そうしていよいよ引退となったウレタンマットは、適当なサイズに切ってしまい、コンロ台&座布団にしてしまおうと思っているのだが・・・


 もう1年近く前のことになるのだが、サーマレストから「女性用のマット」なんてものが出てしまった。いやはや笑わせてもらった
 なんでもノーマルプロライトにはなかった168cmというサイズ設定と、少し暖かくなっているのが「女性用」たる所以なんだそうだ。
 よくよく注意してカタログを読むと、ノーマルプロライト3のレギュラーが51×183×2.5cmというサイズ、女性用プロライト3は51*×168*×2.5cmと幅と厚さは同じで長さだけ少し短くなっている。それで重量は同じ570gなのである。つまり造りとしては少しだけ重くなっているのである。ノーマルより保温性が向上しているというのも当然である。

プロライト3女性用

プロライト3女性用!

 というわけで話のネタに買ってみた。
 これがその女性用マットである。

 

 


 確かに言われてみればノーマルプロライト3より少し密度が高くなった、つまり「詰まっている」感じが。
 ならばこの仕様で140cmくらいのものが出ないかな。けっこう使い勝手が良いと思うのだが。

 この168cmという長さは女性の全身用ということなんだろうが、男性でも頭だけマットから出るように寝れば十分全身用なんである。というかそもそも頭までマットの上、という設定がよく判らない。頭はスタッフバッグに余った衣類などを詰めて枕にしているので、その下にマットがある必要なんてさらさらないのだが・・・
 120cmだと肩から腰下までカバーでき、必要最小限の長さとしてはベストである。腰から下は空にしたザックを敷くので、そこにマットは不要である。
 でも寝ている間にずれて尻がマットから落ちていたりするので、140cmあれば非常に楽なんである。プロライト3で140cmというサイズを出せば、その重量は450gを切るはずである。欲しいぞ、そのサイズ。

 なんにしても「女性用」なのでこれは私専用、とカミさんは主張しているが、当然私も使ってみるつもりである。


(06.04.16更新)

 モンベルのカタログ分析のページで、新しいU.L.コンフォートシステムを絶賛するもんだから、「こいつはこれを買うのではないか?」と思った読者のみなさん、あなたは正しい。買ってしまったのである。

 買ったのは120と、それとピローである。この枕が欲しくてマットを買ったようなもんである。

 

サーマレストとU.L.コンフォートシステム

サーマレスト(奥)とU.L.コンフォートシステム

 手前がモンベルのU.L.コンフォートシステム120。写真ではモンベルの方がかなり大きく見えるが、サーマレストとはほぼ同サイズである。

 連結のためのトグル、ストラップまで付いてこの軽さは立派の一言に尽きる。

コンパクトピロー

U.L.コンフォートシステムピロー

 ただ単にエアで膨らませるだけの枕であった。
 でも形状は非常に良好で頭の据わりが良い。
 もちろんトグルで連結できるので、寝ている間にずれてしまうようなこともない。

コンパクト

U.L.コンフォートシステムピロー

 畳めばこんなにコンパクトに。
 これだけコンパクトなのに、それでもリペアキットが付属しているあたりはモンベルの意地か。

 やはり軽い。
 スタッフバッグに収納した状態では、ほんの僅かサーマレスト(プロライト3)の方が軽く感じるのだが、モンベルのマットは連結のためのトグルや丸めたときのためのストラップが付いているのである。なおかつ、スタッフバッグの中にはリペアキットまで付属していて上手く底の方に収納されている。
 それでサーマレストとほぼ同じ重量、というのが凄い。

 サーマレストのマットの写真を見ると、マットに菱形のテクスチャーのようなものが見える。これが何かというと、スポンジが肉抜きされている部分なのである。つまりこの菱形部分にはスポンジはなく、この部分には空気しか存在しない。
 それも軽量化のためなのだが、その分だけ断熱性能、つまりは保温性能が落ちるのは仕方がないことなのである。なのでサーマレストでもプロライト3は「3シーズン用」と言っている。冬山に使うには保温性能が足りないというわけである。

 プロライト3女性用の写真を見ると判るのだが、バルブがある方を上、すなわち頭側とすると、ちょうど肩から腰の辺りにかけて、菱形のテクスチャーが少なくなっているのが判る。つまりこの部分は肉抜きされている部分が少なく、保温性が向上しているわけである。
 上の写真では足元側の端まで写っていないのだが、実は爪先部分、つまり足元側の端でやはり肉抜きが少なくなっている。
 つまりサーマレストが言う「女性用に保温性能向上」というのは、部分的に肉抜きを少なくしている、ということなのである。

 そのあたりモンベルのU.L.コンフォートシステムは、肉抜きなしのプレーンなスポンジを使用している。
 よって厚みは同じなので、プロライト3よりも保温性能は上、というのは確実だろう。ま、冬山以外では保温性能はそれほど重要ではないのだが。

 それにしても、この重量でこれだけの内容の製品が、この価格で出てしまっては「サーマレスト、ピンチ!」である。少なくとも私はプロライト3はもうまったく商品価値がなくなってしまった、と思う。機能と価格から考える限り、だが。

 そうそうである。これが欲しいためにマットを買ったようなものなんである。

 とはいうものの、ちょっと拍子抜けだった。スポンジなしの単なる空気枕なんである。
 ・・・ま、そりゃそうだよな〜、スポンジ入りだったらこの重量(僅か70g)、このコンパクトさでできるわきゃない。

 ちょっとがっかりはしてみたものの、ただの空気枕のくせに成形が凝っていて、ちゃんと頭が転がり落ちないように真ん中の部分が低くなっている。それとなんといっても「マットと連結できる」のが素晴らしい。もういつの間にか枕から頭がずり落ちていて暗闇の中を手探りで枕を探さなくて良いのである。
 それにしても、この枕、写真で判るように畳めば掌に入るコンパクトさなのだが、それでもこの小さなスタッフバッグの中にリペアキットが付属しているのには恐れ入った。もはやモンベルの意地か。

 

 

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