独断と偏見まみれのアウター考察

 雨天時のアウターはすなわちレインウエアなので、ここでは主にウインドブレーカーについて述べる。

 現在ではアウターに用いるウエアの素材はゴアテックス等の防水性と透湿性を併せ持ったものがほとんどなので、レインウエアをウインドブレーカーとして着ることができる。というか、夏山にわざわざレインウエアとは別にウインドブレーカーを持っていく人は少ないはずだ。
 だが、昔のレインウエアはナイロンの裏地にゴムでコーティングをしたようなものがほとんどで、防水性は完璧だが(今のゴアテックスより高いかも)透湿性はゼロだった。そのため、着ていると雨が降っていなくても蒸れてびしょ濡れになった。サウナスーツと同じである。
 なので、カッパはウインドブレーカーとしてはとても使用に耐えず、ウインドブレーカーは別に用意する必要があった。

 昔々は、そのウインドブレーカーは綿製品だった。1枚だと風を通すので2枚地を用いるのがより本格的で、「ダブルヤッケ」といえばフードが付いた2枚地の格好いい(当時のセンスで)ウエアだった。ジッパーの技術の関係もあってか、ほとんどが被り式の「アノラック」で、今のような前面フルオープンのジャケットはあまり記憶にない。
 綿なので当然防水性は皆無だったが、当時のアルピニスト達はこれで冬山に登っていたのだ。

 その次に出てきたのがナイロンのダブルヤッケである。これも防水処理は施していないので雨には無力だったが、綿より圧倒的に軽いのが有利だった。
 この間、綿60%ナイロン40%混紡の、いわゆる「60/40クロス」なるものもそれ以前からあり、丈夫なのと独特の風合いから愛用する人も多かった。今でもたいていのアウトドアウエアメーカーが、未だに60/40クロスの製品をラインアップしている。もちろん、山でバリバリ使い倒すような用途ではなく、ほとんどの人が街着として購入しているのだろうが。

 そしていよいよゴアテックスの登場となるのだが、ここで「昔々」とか書いたのは、何年前とかはっきり言えないからだったりする。
 私が山に登り始めた25年前は、既にゴアテックスはこの世に登場している。だが、かなり高価でよほどの金持ちでなければほいほい買える物ではなかった。
 80年代前半の高校山岳部の頃は、ゴアテックスのレインウエアやジャケットを持っている人はほとんどおらず、80年代中頃の大学山岳部時代になっても、部内にはゴアテックスウエアの所有者はいなかったし冬山でもあまり見かけなかった。
 ちなみに私がゴアテックス製品を初めて買ったのは高校時代だったが、それはオーバーミトンだった。次にゴアではないがミクロテックスのロングスパッツを購入し、大学に入った年にゴアのシュラフカバーを買った。
 確か高校を卒業する時に後輩からゴアの上下を巻き上げたような記憶があったりする。そのゴア上下は登攀的要素が少ない場合は冬山にも着ていったりした。上は山小屋にデポしたままになってしまったが、下はつい最近まで雪かきウエアとして活躍していた。

 登場当初のゴアテックスは、高い上に扱いが難しかった。油分に弱く、テント内でラードを炒めていてゴアのテントがオシャカになったり、酷い場合は汗をかいただけでゴアの雨具がご臨終になったりしていた。
 また、現在のウエアほど補強などが考えられておらず、冬の壁などをやっているとたいてい1シーズンが寿命だった。
 昔は確保も肩絡みが主流だったので、壁の中にいる間はウエアの肩と脇腹をザイルがズルズル通っているわけで、あっという間にダメになるのも無理もなかったのである。

 何より昔のゴアウエアの最大の弱点は縫い目だった。
 いかに完璧な防水性を誇るゴアテックスといえど、縫い目からは確実に水は侵入するのである。当たり前である。
 現在はシームテープの技術が進んでいるので、かなり複雑な立体裁断をしても防水性は損なわれないが、昔はテープでシーリングをしているウエアは少なく(してあってもすぐ剥がれた)、シーム剤でシーリングしてあれば上等だった。たいていは縫い目は未対策で、自分でシーリング剤を買ってきてちゅるちゅる塗ったものである。
 それでも内側にシーム剤を塗れば中のウエアと擦れて落ちてくる。ゴアのレインウエアであっても、雨が降れば身体が縫い目の形に濡れるものが多かった。
 特に当時はゴアのウエアは高価だったので、胸や肩に誇らしげにゴアテックスのロゴを縫いつけているウエアが多かったが、たいていそのゴアテックスロゴから浸水した。

 そんなことがあったので、昔からウエアを見る時はつい縫い目に注目してしまう。当時は縫い目をきちんと処理する技術が未熟だったとなれば、防水性を向上するには縫い目を少なくするしかないではないか?
 80年代中頃の猫も杓子もゴアのウエアを出すようになった時期、一番縫い目が少なかったのがモンベルストームクルーザーだった。他メーカーがお気楽にツートンカラーのレインウエアなんぞを出していた頃(色の違う布を縫い合わせるので当然縫い目が増える)、色気も素っ気もない単色の展開だったし。
 その代償として、ストームクルーザーは格好悪かった。縫い目が極端に少ないパターンなので無理もないのだが。
 まあウエアのデザインに関しては私はあれこれ言うセンスは持ち合わせていないのだが、確かに初期のモンベルは性能はともかくデザインはダサかった。口の悪い人には「モンベルはダサい山屋が着るウエア」などと言われていたものである。ま、お金持ちで当時は超絶価格で高嶺の花も良いところだったノースフェイスなんぞをほいほい買えていた人がよくそういうことを言っていたのだが、格好いい(かどうかは私にはよく判らないのだが)ノースのウエアを着ていても、壁の中でヨタヨタとザイルにぶら下がればやっぱり格好悪いのであって、ましてや冬山で猛吹雪にでもなれば、どんなに格好いいウエアを着ていたところで20m先を歩くザイルパートナーからすらも見えなかったりするので、どちらかと言えばやっぱりどうでも良かったりする。
 それより、縫い目からの浸水で苦労した身にとっては、ダサダサのストームクルーザーがむちゃくちゃ格好良く見えたものだった。「欲しいっ!」と思ったものの、実際買えたのは20年も経ってからの去年である。

 余談だが、ストームクルーザーはその後も、モデルチェンジの度に前のジッパーのフラップをダブルにしたり、さらに内側のフラップを外に折り曲げてみたりと、ほとんど偏執狂的に細かい改良を重ねていた。それを見るたびに(買えもしないのに)、「こんなこと、よく考えるなぁ」と感心したものであった。
 そのストームクルーザーも去年の2003モデルより、ついに立体裁断を取り入れた。立体裁断自体は別に珍しくも何ともなく、モンベルだって冬山用のアウターには昔から採用しているし、レインウエアにしても他メーカーは前々から手がけているのだが、初期のつんつるてんのダサダサストームクルーザーを見て縫い目の少なさに感動した私は、「これも時代かぁ」とちょっと感慨にふけってしまったのだった。

 さて、冬山用のアウターだが、標高の低い山はともかく、3000m級の冬山では「防水性」はとりあえず最重要ではない。
 だからこそ昔は綿やナイロンのダブルヤッケでOKだったわけだが、厳冬期の北アルプスでも雨が降ることは決してあり得ないことではなく、そんな時はレインウエアを持たないと命取りだった。現実に冬山で季節はずれの雨に遭い、命を落とした例はいくらでもある。「風雪のビバーク」の松波明(波の字が違う)もそうだった。
 ゴアテックスのウエアが出て、どれだけの人の命が助かったことか・・・

 私が大学時代に主に使っていた冬山用のアウターは、実はレインウエアだった。ハイパロンなどのゴム引き完全防水透湿性ゼロのカッパを、裏のゴムコーティングしてある生地をバリバリ引きちぎってナイロンの表地1枚にしたのを冬山で使っていた。なので年に1着ずつレインウエアを買っていた。6000円くらいだったので安いモノである。
 だいたい冬山でザイルをズリズリしていると1シーズンで表地も破れたりしてダメになったので、夏前に買って秋になったら裏地を引きちぎって春までに捨てる、というパターンだった。5月のリーダー研修会の時には3着もダメにしたし。

 今はもう冬山はやらないが、行くとしたらさすがにナイロン1枚のヤッケで行くような度胸はないのでゴアテックスのウエアを着ていくだろうな。でもみんなどうしているのだろう。高い(昔より安くなったけど)ゴアのウエアを1シーズンごとに買い換えているのだろうか・・・?
 まあ今のウエアは補強がちゃんと入っているし、壁では肩絡みの確保もしないだろうし、昔よりウエアは長持ちするのかもしれない。

モンベル スーパードリューパーカ 

モンベル スーパードリューパーカ

 

 高校時代、山岳部の同級生がモンベルスーパードリューパーカというウエアを買った。右の写真は大町の山岳博物館に展示されているものである。
 このアウターは防水透湿性素材のエントラント(ただし性能はゴアに比べるとかなり劣った)を使っていて、中綿に保温剤として薄くシンサレートを入れていた。
 中綿の存在を意識しない薄さの割にはしっかり暖かくて、非常に羨ましかった


 いつか俺もあれを買うぞ!と思い続けて20年。
 もうそんなウエアは必要としなくなってから買ったのが、モンベルのドロワットパーカである。ちなみにモンベルには未だにドリューパーカという名前のモデルはあるが、これは今ではオーソドックスなゴアのアウターになっていて、「ゴア+シンサレート」の組み合わせはドロワットパーカが20年ほど前から一貫して続けられている。

 そうそう。昔のレインウエアのズボンとか冬山用のオーバーズボンは、脱着のためのジッパーが足の内側に着いていたモデルが多かった。私が使っていたオーバーズボンもカミさんがつい最近まで着ていたレインウエアもそうである。
 これは裾を締めるためのヒモを踏んでしまう危険が多く、長らく疑問だった。今ではたいてい外側にジッパーが着いているが、昔は何故内側だったのだろう???
 私も昔、ロングスパッツの裾からオーバースボンの裾を締めるヒモが出ていて、それをアイゼンに引っかけてしまって急斜面で豪快に前転をしてしまったことがある。

 ちなみに今持っているオーバーズボンは、やはりモンベルのダイナアクションパンツである。ストレッチャブルゴアテックスを使っている以外は、サイドジッパーもインナースパッツも何にもない、シンプル極まりないモデルである。やはりどうもジッパーとか縫い目は少ないものを選んでしまうのは、昔苦労したからか。
 特にオーバースボンは、雪山では朝履いたら夕方テントに入るまで脱がないのが普通なので、サイドジッパーはなくてもいいんじゃ、と思ってしまう。春山とか標高の低い山では、暑くて脱ぎたい時もけっこうあるのだが、面倒でたいていは我慢してしまっていたような。

 

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