独断と偏見まみれのレインウエア考察

 最初に簡単に防水透湿性素材の解説をすると、原理は簡単で要するに水の分子は通さないが水蒸気分子は通るという大きさの穴がたくさんあれば防水透湿性は成立する。ゴアテックスというのはその大きさの穴を無数に持つ1枚の薄い膜である。この膜が防水性と透湿性を併せ持っている。
 ただ、このゴアの膜(メンプレン)は、油などに非常に弱い。なので普通はそのゴアのメンプレンをナイロン生地でサンドウィッチして、メンプレンが直接肌や泥などに触れるのを防いでいるわけである。表地とメンプレンと裏地で3層構造になっているので3レイヤーというわけである。
 ただ、3枚もの生地を使うので、どうしたって軽量コンパクト性では不利である。
 で、片側に無数のイボができるように加工したゴアテックスメンプレンを使い、そいつを裏面に向けて裏地の代わりにイボで肌からメンプレンを保護するようにしたのがゴアテックスパックライトだそうな。これだと2レイヤーにできるので単純計算で2/3に軽量化できる。ただ、やっぱりちょっと心配ではある。イボ程度で肌とメンプレンの接触を完全に阻止できるのか?

 一方、防水透湿性(無数の小さな穴)をコーティングによって実現する手もある。エントラント始め、ゴアテックス以外の防水透湿性素材の多くがこれである。コーティングだと極端な話1レイヤーにすることすら可能なので、ゴアのウエアと比べて大幅な軽量化が可能だそうだ。が、実際はコーティング面の保護のために2レイヤーあるいは3レイヤーにしているウエアが多かったりする。

 問題は寿命で、コーティングだと一般的にはどうしても寿命が短くなってしまう。
 ゴアの3レイヤーのウエアだと、メンテナンスさえ適切丁寧なら半永久的とまではいかないにしろ、かなり長く性能を維持するのに対し(20年前のゴアのウエアを未だに使っている人もいる)、コーティングの素材だとゴアほどは保たない場合が多いだろうな。

 よく「ゴアテックスってなに?」と聞かれて、「水は通さないけど汗は通す素材」などと答えているのを耳にするが、汗は通さないぞ〜。第一、汗は「水」と違うんかい。同じように、「ゴアテックスといっても限界がありますな〜、こんなにシャツが濡れちゃって」と山であった人と話していて言われたことがあったが、それ、どう見ても汗で濡れてるんですけど?
 また、「水は通さないが通気性を持っている素材」と勘違いしている人もいるが、現在のウエアに使われているゴアテックスは通気性は持たない。テントには第一世代の通気性を持つゴアテックスが未だに使われているが。
 同じ濡れるんだったらゴアテックスといっても限界があるのでは、といえばそりゃそのとおりなのだが、そういう人はハイパロンの恐ろしさを知らないのであろう。

 学生時代はハイパロンゴム引きのカッパを着て山に登っていた。
 こいつの蒸れ具合といったら、それは凄まじいものだった。例えば雨が降る稜線でレインウエアを着込んで動かずにじっとしていると、30分経てばウエアの内側はぐっしょり濡れている。早い話がサウナスーツを着ているのとまったく変わらない。実際、トレーニングの時はよくハイパロンの上下を着て走ったものである。10分も走るとまるでホースで水をかけられたようにびしょ濡れになった。
 それが3000mの稜線で風が吹いていたらもう危険な状態である。
 雨の中3時間も行動すると、もはや雨具を着ている人と着ていない人の濡れ方は大差なかったし。それでさえもまだ着ている方がマシなのは、防風効果が着ていないよりはマシだったからである。

 初めてゴアの雨具を着た時は感動した。とにかく蒸れない。あのウエアの内側につく水滴が皆無なのである。
 まあむろん、運動量が多くなればどうしたって蒸れてくる(水蒸気の排出量が産生量に追いつかない)のだが、ハイパロンのウエアだと全身ぐしょ濡れくらいの状況で、「ちょっと蒸れたかな」程度である。
 ただ、初期のゴアのウエアは細部の詰めは甘く、縫い目のシームテープが十分ではなく、縫い目の形に濡れてしまうウエアや、誇らしげに腕や胸に貼り付けられているゴアのロゴマークの場所から濡れてくるウエアなどがあった。

 大学の後半になってエントラントのレインウエアを買った。
 しかしその頃は山と言えば奥美濃や白山の沢、北アだと薬師沢や高天原といった樹林帯の中が多かったため、それほどレインウエアを着る機会はなかった。沢登りの最中に雨が降ってきても、どうせずぶ濡れなので雨具なんて着ないことも多々あったし。また、樹林帯の中だとレインスーツよりカサの方がよほど役に立った。稜線でも風がなければカサで通した。
 とはいうものの、何度かレインウエアを着て行動するハメになったこともあるのだが、エントラントは「やっぱり蒸れるなぁ」という印象だった。ハイパロンのウエアが6000円台の頃に、エントラントは8000円台だったのである。過大な期待をする方が無理というものだろう。

 現在の雨具は、ほぼ全てのモデルが「防水透湿性素材」を謳っている。モンベルの最も廉価なシリーズであるハイドロブリーズでもある程度の透湿性はあるらしい。私はハイドロブリーズ「ハイ」の字を見ただけでハイパロンを思い出してしまってダメだが。
 しかし素材はさることながら、そのデザイン(機能的な)は素晴らしいと思う。昔のモデルはザックを担いでウエストベルトを締めるともう使えるポケットはなかったのだが、最近のモデルはちゃんとザックのハーネスやウエストベルトと干渉しない位置にポケットが付けられている。なんでもっと早くそうしてくれなかったんだ。
 また、ありがたいのはフードのデザインで、最近のモデルはちゃんと調節しておけば振り向いたりしてもある程度フードがついてきてくれる。
 昔、剱岳で池ノ谷ガリーを三の窓に向かって下降中、後ろのパーティーが浮き石を動かして落石を起こしてしまった。ま、実際あそこはほとんど全ての石が浮いていた場所で、落石がない方がよほど不思議な場所なのだが。
 ともあれ、背後からの「ら〜く!!」という大声に慌てて振り向いたのだが、フードは前を向いたままなのでさっぱり何も見えなかった。ガラガラという恐怖の大音響と同時に身体のすぐ横を一抱えもあるような巨大な石が3つほどカッ飛んでいった。あれ、当たっていたら即死だろうな。

 まあ、その時はたまたまヘルメットも被らずに雨具のフードを被って池ノ谷ガリーを歩いていた我々が間抜けだった。当時の雨具のフードはサイズが小さかったのでヘルメットを着けたら被れなかった。なので一般登山道を外れてバリエーションルートに入ると雨具のフードは外してヘルメットを被るのが常識だった。
 だが、フードを外すと襟元から雨が背中に侵入するのが嫌だった。手元足元の確認のためなどで俯いたりすると、もう無抵抗に背中に雨が入った。
 現在のウエアは、ちゃんとヘルメットを被ってもフードを被れるよう、サイズが大きくなっている。しかも少なくとも3方向くらいからフードのフィッティングを調節できるので、きちんと調節すればヘルメットを着けた上にフードを被っていても、振り向いたり俯いたり、頭をかなり派手に動かしてもある程度はちゃんと視界が確保されるようになっている。感動ものである。

 現在はヤフオクで入手したモンベルのストームクルーザーを使っているが、普通に考えるとこれがレインウエアの決定打かな、という気がする。
 ただ、軽い分生地が30デニールとかなり薄いので、ヤブや岩場では耐久性がどうなのかな、とは思う。高いウエアだし。その点ではデザインはほとんど同じで(03年型はストームクルーザーが立体裁断を取り入れたのでかなり違ってきたが)70デニールの生地を使ったレインダンサーの方が良いかも、とも思ったりする。安いし。
 ゴアテックスパックライトを使った超軽量のウエアもモンベルだけでなく各社から出ているが、やっぱオーソドックスな普通の3レイヤーの方が扱いやすいな、と思う。


 ストームクルーザーだが、2シーズン酷使してけっこうヘタってきた。だいたいすっかり雨男化していたので傷みだって早かろう。
 ジャケットの方はまだ目に見えて傷んでいるところはないのだが、ズボンの方の傷みが激しい。破れや穴が数カ所はある。
 どうしたってズボンの方は傷みが早いので、レインスーツという売り方は無理があるんではなかろうか。上下別々に売って欲しいものである。
 ま、モンベルはストームクルーザーのズボンだけ単体売りをしているし、上下別々のモデル展開もしているが。

 で、単に「レインウエア」を買ったのでは面白くないし、ちょっと変わった買い方をしてみようとあれこれ考えていたのだが(要するにヘタッてきたから買い換えるのではなく飽きたから、というのが正直なところか)、冬山用のジャケットで使えそうなものを買ってみようと思い立ったわけである。
 ま、冬山用ジャケットの方が丈夫なのでヤブこぎとか岩場でも耐久性が高そうだし面白いか、なのだが問題は重量である。なんせストームクルーザーが上下で650g、だが上だけでこれより重い冬山用ジャケットは腐るほどある。というかほとんどである。上下で650gより重くなってしまうのは致し方ないが、せめて800gは切らないとバカバカしい。あわよくば700gを切る、という目標のもと、モンベルのカタログを調べていたわけである。(モンベル以外のメーカーはおそらく高くて買えない)

 モンベルのアルパインジャケットで最も軽いのはネージュクルーザーというモデルだが、これは実物を手に取ってみると造りはほとんどレインウエアである。去年からの新型も、特に肩などに補強が入っているわけではなく、生地もストームクルーザーより薄い。またポケットもピットジップの中に簡易なものがあるだけなので、いくらなんでもこれは使い勝手が悪そうである。
 それにしてもピットジップってそれほど必要なんかね??ピットジップを省略してポケットを付けた方が常識的な選択だと思うが・・・
 というわけでネージュクルーザーはパスである。これ買うくらいだったら素直にストームクルーザーを買った方が良さそうだ。

 次に軽いのはダイナアクションパーカというモデルである。
 これは止水ジッパーを採用することによってフラップを省略するという形で軽量化を図ったモデルである。
 これも一昨年までの旧型は、腕全体にストレッチャブルゴアテックスを採用して腕の立体裁断すらも省略していた。ピットジップもなく、フードも襟に収納する方式ではないシンプルなデザインだった。
 それが去年からの現行型は、ストレッチャブルゴアテックスをやめて肩と腕のメカニカルストレッチになり、ピットジップが追加され(例によってピットジップ内に簡易ポケット)、胸ポケットも2カ所追加されている。
 腕全面のストレッチャブルをやめた引き替えに普通に立体裁断が施されていたりして、ピットジップが追加されていたりすることと併せて、旧型より薄手の生地を使っているのにも拘わらず、旧型470gに対し現行型510gと少しではあるが重くなってしまった。

 なんとなれば、一番魅力的なのは旧型のダイナアクションパーカだったりするのであった。
 でも、旧型なので普通には売ってないし、モンベルの通販で買う手もあるが実物を見ないで買う気にもなれないし、第一旧型とはいえ高いし、まぁ実際には今のストームクルーザーをもうしばらく使うことになるのか・・・と思っていたのだが・・・

 今年(H16)の10月に北八ツに行ったときにモンベルクラブの諏訪店に寄ったのだが、ここのアウトレットに置いてあったのだ。
 実物を手に取ってみるとやはり魅力的だった。アウトレットなのでいつまでもあるとは限らないし、サイズもちょうど1着だけあったことだし、今を逃したら買う機会はないかも知れないと思って、カミさんに借金して買ってしまった。
 やはり軽いのとフードを被ったときに首周りがすっきりしているフーデッドデザインは非常に気に入った。

 ただ、軽量化の代償ではあるが、実は止水ジッパーってあまり好きではないのである。完全防水ではないというのもあるのだが、何よりジッパー操作が重いのが嫌だ。特にフロントのジッパーに関しては、普通の撥水ジッパー+ダブルフラップというのが防水性能上はベストだと思う。
 が、よく考えてみたらストームクルーザーを着るときにきちんとフラップを留めていたことなどなかったことを思えば、まあ防水性に関しては止水ジッパーにいちゃもんをつけられる立場ではなかろう。操作の重さに関しても、軽量化の代償と思えばいいか。

 で、あとはズボンを230g以下のにすれば、晴れて上下700g以下の達成である。(実際はサイズが大きいので700gは越えるのであるが)
 ストームクルーザーのズボンが255gなので少しであるが越えてしまう。まあ好日山荘のオリジナルでズボンの単体売りもしているのでそれでも良い。なんならゴアテックスでなくてもいいのなら、もっと軽いのもあったりする。


  で、結局パンツの方はバーサライトパンツを買った。ドライライトテックのレインパンツである。
 これを買った理由は安いというのもあるが(込み\7,560円)、なんといっても軽いというのが大きかった。
 ドライライトテックというのは、ゴアテックスで言うところのパックライトと同じような理屈で、裏側に微小突起を無数に起こすことによって2レイヤーでも肌とメンプレンの接触を避ける、という素材である。
 正直、「突起くらいでほんとに大丈夫なの?」という疑問は残るし、耐久性がどうかなとは思うのだが、どのみちズボンはジャケットに比べて保たないので、この値段だったら毎シーズン買ったっていいや、と思う。

 重量はカタログ値では170gだが、実測値は230gだった。カタログ値はMサイズの平均重量なので、私が買ったXLだとまあこんなものだろう。
 ダイナアクションパーカの方の重量は、カタログ値470gに対してXLの実測値が500gちょうど。つまり上下で730gというわけである。これらの数字は全てスタッフバッグ込みの重量である。
 前のストームクルーザーの重量がカタログ値660gに対して実測値730gだったので、おお!ちょうど同じではないか!
 ストームクルーザーより重くなってしまうことは覚悟していたので、これは予想外の収穫だった。

 ひとつだけ気にくわないことは、バーサライトパンツのスタッフバッグがきついことである。かなりきっちり畳まないと入らない。
 山用のウエアでは、スタッフバックのサイズはかなり重要なファクターである。ゆったりすぎると重量は変わらなくても嵩が張ってしまうし(細かいことを言えば重量だって数グラムは違ってくるのだが)、きつすぎると雨で濡れたりすると入らなくなってしまう。
 モンベルのスタッフバッグってどれもそのあたりが絶妙の設定である。きちんと畳めば比較的楽に入り、雨に濡れたりしても丁寧に畳めばきちんと入る。テントは通常の状態であればペグ袋は本体のスタッフバッグに楽に入るし、ちょっと無理すればグラウンドシートも入りそうである。
 それがこのバーサライトパンツは明らかにきつすぎと感じた。
 ま、ダイナアクションパーカの方のスタッフバッグがけっこう楽なサイズなので、上手くすればこのスタッフバッグにパンツも入りそうである。そうすればさらに数グラムの軽量化にもなるし。

 

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