山道具を買おう その2
ウエアの揃え方とレイヤリング
レイヤリングというとなにやらたいそうな響きがあるが、要するに重ね着のことである。その目的は単純明快で、「身体を濡らさないこと」に尽きる。山に限らず下界での生活でも同じことだが、身体の濡れはまず不快であるし、悪条件が重なると風邪を引いたりするし、最悪の場合は生きるか死ぬか、という話になってしまう。そして山ではその最悪の場合に簡単になりやすい。
つまり、身体を常にドライな状態に保つことができれば、保温なんぞは簡単な話で、適度な厚さの生地で身体を包めばよいのだが、身体が濡れているといくら保温しようとしても効果が薄かったりする。よって登山用のウエアはとにもかくにも「身体を濡らさない」ことを至上命題として開発されている。
が、同じ目的であってもそれを達成する手法がウエアによって違うわけである。
レイヤリングは大きく分けて「アンダーウエア(つまり下着)」、「中間着」、「アウター」の3種類になる。これは宿敵である水が発生する場所の違いによって分けられていることになる。
アンダーウエアの場合、まず排除すべき水は身体そのもので発生している。身体から立ち上る水蒸気や汗である。よって身体表面の水を素早く吸い上げ、生地の表に放出することによって身体を濡れから防いでいるわけである。
逆にアウターは外から来る水と闘っている。つまり主に雨である。こいつは完全に防がなければならない。しかし、アンダーウエアから中間着を通って放出されてきた水蒸気はウエアの外に出さないと、その水蒸気は水に戻ってウエアの中を再び身体に向かって染みていってしまう。というわけで、ゴアテックスなどの防水透湿性素材が用いられるわけである。
アンダーとアウターの2つのウエアが宿敵である水に上手く対処して初めて、中間着が「保温」の役割を果たせるわけである。もちろんアンダーウエアから昇ってきた水蒸気を遮断してはならないので、通気性あるいは透湿性は確保した上での話だが。
登山用のウエアで綿製品は基本的にNGである。綿は繊維自体が保水するので、水を外に逃がさずにそのままウエアに溜めてしまうからである。
そうすると汗や雨で濡れたシャツが身体にべったり張り付いて不快だし、身体が冷えて風邪を引きやすくなるし、最悪の場合は生きるか死ぬかの話になってしまう。
というわけで、登山用のウエアはポリエステル系が主体となっている。
夏山用のアウターというのは実はレインウエアのことで、それは山道具を買おう その1で書いたので、ここではアンダーウエアと中間着について触れる。
1.アンダーウエア
直接肌に接するウエアはポリエステル系が主流である。主たる役目は「吸汗発散性」というか「吸水拡散性」である。モンベルでいうとウィックロンとかジオラインといった素材がそう言う特性を持っている。大昔は繊維自体が保水せず、濡れても保温性があると言うことで、山のアンダーウエアはウールしかありません、という状況だった。ただ、ウールは縮むしチクチクするので私は冬山以外は着ていかなかったが。
そんな折り、デュポン社がオーロンという化学繊維を開発し、モンベルからオーロンを使ったTシャツが出た。それ以来私は冬山でもオーロンのTシャツをアンダーウエアとして着て登っていた。モンベルは今では自社開発のウィックロンやジオラインに移行してしまったが、オーロン自体は今でも開発が進められており、どこぞのメーカーがそれを使ったシャツを出している。
この手のTシャツは1枚2000〜3000円程度なので、とりあえず2枚ほど買っておけば良い。ウィックロンとジオラインであればどちらでも良いが、一応ジオラインは吸水拡散性に加えて防臭性と防菌性もあるそうである。私は持っていないので効果の程は知らないが。
夏山や低山であれば、たいていはこのTシャツ1枚で歩けてしまう。
備長炭のアンダーウエアとかも売られていて、遠赤外線がどうのと言ったことらしいが、正直私にはよく判らない。
なお、当然のことだがパンツや女性ならブラジャーといった下着もポリエステル系にすべきである。昔はチクチクするウールのブリーフしかなかったりしたが、最近はちゃんとトランクスもあるのでトランクス派には嬉しい。
2.中間着(ミドルウエア)
こいつが多種多様種種雑多で、選択が一番難しい。
要は保温を主目的としたウエアなのだが、つまりはどの程度保温したいのか?という要素と保温以外の付加機能の要素によっていろいろなウエアが開発され売られているわけだったりする。
で、具体的な中間着の種類を挙げると、a)アンダーウエアと同素材のシャツ、b)フリース、c)薄手の中綿入りジャケット、といったところだろうか。このうちbとcのジャンルのウエアは、付加機能によってまたいくつかに分類できたりする。主たる付加機能とは、ある程度の防水性(というか撥水性)、防風性、伸縮性といったところである。伸縮性についてはクライミングなどの運動を妨げないことが目的だが、撥水性と防風性については、それほど厳しくない条件の時のアウターの役割をも持たせようと言う目的だったりする。まあつまり巷で言われている「ソフトシェル」というジャンルですな。
このソフトシェルについては私は懐疑的である。単にバカ高いフリースあるいはジャージ、という気もする。
各社ゴアテックス社のウインドストッパーという素材を用いて防風性を確保したフリースを出しているが、何もそんな高い素材を使わなくても、ライニング1枚入れれば防風性は確保できるのではないか?ま、私も1枚ゴアウインドストッパーのフリースは持っているが、何がそんなに凄いんだかよく判らない。まあ暖かいし確かに風は防ぐし、着心地はとても良いのだが・・・
ただこの防風性だが、防風性を確保するためにウインドストッパーなりライニングなりをフリースの裏地に付けると、当たり前のことだが通気性は確実に落ちる。どれだけ努力して画期的な素材を用いて通気性を確保しようとしても、そもそも防風性と通気性は完全に相反する機能なので当然である。
つまりけっこう蒸れるのである。雨が降って上からレインウエアでも着れば決定的である。
フリースを着ても風が吹いて寒い時には、その上からカッパを着込めばいいだけの話なのである。昔は完全防水のカッパをウインドブレーカー代わりに着たら蒸れて蒸れてしょうがなかったので、カッパとは別にウインドブレーカーが必要だったのであるが、ゴアテックスのおかげでカッパ1枚で済むようになったのである。中間着にアウターの役割は基本的に必要ない、というのが私の意見である。
従って中間着としてフリースを選ぶ場合、ライニングの付いていないシンプルなものを選んだ方が良い。
ライニング付きとかウインドストッパーとか、いわゆるキワモノは、ひととおり揃えてから遊んでみるのが良い、と思う。
そのフリースだが、夏の北アルプス程度だと極薄のものが良いと思う。モンベルだとシャミースとかいってるものである。とにかくフリースは厚手のモノは暑すぎるしザックの中でもえらく場所を取る。Tシャツの上からシャミースのジャケットを羽織ってさらにゴアのカッパを着れば、それでも寒いなんて言う状況はちょっと考えられない。
モンベルの場合、フリースは厚手の方からクリマプラス200、クリマプラス100、シャミースという分け方をしている。昔はさらに厚いクリマプラス300というのもあったが今はカタログで見かけない。また、クリマプラス200よりさらに保温性が高いものとしてクリマウールというものもある。
クリマプラス200あたりは冬山のミドルウエアに使うフリースである。中厚手のジオラインのアンダーウエアにこのフリースを着れば、その上からゴアのアウターを着るだけで厳冬期の3000mも行けてしまう。こんなのを間違って夏山で着たら地獄である。ま、その前にザックに入らないだろうが。
夏山なら最も薄いシャミースで十分、というかこれでもお釣りが来るくらいである。
極薄フリースの代わりにダウンという手もある。モンベルやイスカなどから、極薄のダウンジャケットが出ているが、こいつがTシャツとほとんど変わらない重さのくせにやたら暖かい。1万円ちょいくらいなので手を出しても損はない、と思う。ただしダウンは行動中にはまず使えないと思った方が良い。汗をかくと濡れてしまうからである。
行動時に少し肌寒い時、Tシャツの上に重ねるにはいくら極薄といえどもフリースはちょっと、という気がする。
この時の中間着(実際はアウターになっている場合が多いが)は選択肢が広い。
まずオーソドックスなのはウィックロンなどのポリエステル系、つまりアンダーウエアと同素材の長袖シャツであろう。襟付きのワイシャツっぽいのとかポロシャツ、ラガーシャツなどいろいろ出ている。値段も5000円から1万円くらいである。
変わったのとしては、これもいわゆるソフトシェルのジャンルに入ってしまうものだが、伸縮性とある程度の防風性を持たせた高級ジャージ、といった感じのウエアである。裏地にフリースを当てて保温性も確保しているものもあり、季節や場所に応じて選べば良い。
私が愛用しているのはモンベルのマウンテントレーナーというウエアである。15,000円もするジャージである。でも、他メーカーの似たような製品だと、カタログに「ソフトシェル」と謳っているだけで値段は倍になる。まあ値段分いろいろ高い素材は使っているのだが、たぶん結果として得られる効果はたいして変わらない。
マウンテントレーナーは1枚地の薄いジャージなので保温性は最小限だが、余計なライニングなどを入れていないおかげで通気性は十分確保されており、目が詰んだ生地なのである程度の防風性もある。行動時に上に羽織るには最適である。
夏の北アの夜はさすがにTシャツとこれだけでは寒いが、さらにカッパを着込めばOKだったりする。ま、これは寒がりの人はもう1枚薄手のフリースが欲しくなると思うが。
結論として、基本的に行動中はTシャツ1枚、日が陰ったりして肌寒い時はその上からポリエステル系の長袖シャツ、夜あるいは朝方など、さらに寒い時にはその上あるいはTシャツの上から極薄フリース、それでも寒けりゃカッパ(ゴアに限る)を着る、というのが最もシンプルなパターンだろう。
ウインドブレーカーなどは、ゴアのカッパがあればOKなのでわざわざ荷物を増やしてまで持っていく必要はない。持っていきたいというなら止めはしないが、自分の体力と相談して、である。
3.ズボン
スボンも考え方は同じで、基本はポリエステル系である。
ただ、伸縮性が要求されるので、カタログの膨大なラインアップから適切なモノを選択するのは多少難しいかもしれない。
私が愛用しているのはジャージである。格好以外は他の選択肢の必要性は感じない。沢登りで腰までの徒渉をしてずぶ濡れになってしまっても、陽が当たっているのならものの1時間も歩けばカラカラに乾いてしまう。伸縮性は抜群。