平成15年7月26-27日 ブナクラ峠

7/26 8:00 馬場島 出発
  8:50 林道終点取水口 登山口
  9:20 大ブナクラ谷
  11:20-40 ニセ戸倉谷(仮) 昼食休憩
  13:40 ブナクラ峠 着 幕営
7/27 7:00 ブナクラ峠 出発 下山開始
  10:20 林道終点取水口 登山口 着
  10:50 馬場島 着
    2.5万図 「剱岳」「毛勝山」

 久々に町内の山に登った。
 我が家は8月初旬に家族で立山登山を計画しているのだが、7月末は予定が空いていた。その前の週の海の日連休は私がテニスの試合が入っていたし、立山に行った翌週は長男の学校のキャンプがある。せっかく珍しく予定がない週末だし、1人で山にでも行くか、とその1週間くらい前にカミさんに「来週、俺、山行くから」と言っていた。
 すると花火ヲタクのカミさんが、「だったら私は岐阜の花火を見に行く」と言いだし、ともかく私が山に行ってカミさんと子供達は岐阜に花火、という行動計画ができあがっていたのだ。
 ところが長男が、「自分も山に行きたい」と言い出した。カミさんはお荷物が1人減るので大喜びで賛成し、テントと適当に食糧をかき集めて行き当たりばったりに山に行くつもりだった私は、急にある程度の計画を立てて行くことを余儀なくされたのであった。
 ・・・・といっても、結局カミさんに渡しておいた「計画書」は、「馬場島〜猫又山(テント泊)の往復」という「1行だけの計画書」だったが・・・

 とはいうものの、前日まで迷っていた。
 というのは、猫又山は学生時代から行ってみたい山だったのだが、当時は毛勝三山には登山道がなく、残雪期にしか登ることができない山だった。でも、5月に富山くんだりまで来て、剱を素通りできるか?例えていうなら、清楚で気になる女の子いつか話しかけよう、と思っていても、そのすぐ隣になんでもさせてもらえる格好いいお姉ちゃんがいると、ど〜してもそっちに行ってしまう、というようなことで・・・
 まあそんなわけで、毛勝は永遠の「この次に行こう」と思う山だったわけである。
 現在は登山道ができて夏でも登れる山になったのだが、道標完備のいわゆる北アの「一般登山道」とは趣がだいぶ異なるし、公平な目で見たらただのヤブ山なんだろうな。そんな山に息子を連れて行って楽しんでもらえるか?という心配があった。また、テントは猫又山の頂上に張るつもりだったが、そこには水場はない。当然幕営中は節水モードになるし、子供連れで行く山としてはあまり適当ではないな、とも思っていた。
 それなら薬師にでも行こうか、あそこなら体力的にもそうきつくないし天気さえ良ければ息子も楽しめるし、水は豊富だから幕営も楽だし、とは思ったのだが、先月行ったばかりだしなぁ・・・
 いっそのこと蓮華温泉から白馬とか、などと1週間の間にいろいろ考えていた。

 しかし、週末が近づくにつれて天候がどうもぱっとしないことが判ってきて(梅雨明けしてない!)、わざわざ遠くまで行ってガスの中を歩くのもバカバカしいので白馬がまず落ちた。前日になっても地図すら用意してない時点で完全に消えた。
 薬師はいつのまにか消えた。やはり2回続けて同じ山に行く気はしなかった、ということか。
 必然的に目的地は猫又山ということに。

 当日の朝、わりとゆっくり起きて7時過ぎに家を出た。途中のコンビニに寄って昼食のお握りを買い、馬場島に着いたのが8時前。
 馬場島からは剱がばっちり見え、夏山気分満開である。
 とはいうものの、見る見る間にガスが湧いてきて稜線もガスだらけになるのは時間の問題。
 ブナクラ谷に向かう林道はしばらく前に来た時にゲートが閉まっていて、そのすぐ奥で工事をしていたのを憶えていたので、そのまま馬場島から歩き出してしまったのだが、見るとゲートが開いている。あ、こりゃ車で入れるかと思ったが、まぁいいやとばかりにそのまま林道を歩き出してしまった。
 林道を歩くこと50分、終点の取水口に到着。
 ガイドブックによれば、堰堤をハシゴで越えて登山道に入る、とある。
登山口の堰堤 

のっけからシャワークライム?


 しかし・・・シャワークライムになっちゃうんですけど。

 水量は多いし、堰堤の取り付き下も完全に水の中である。沢登りならともかく、これは行けないよ。
 駐車場には何台か車があるし、入山者はいるようだ。となれば他のルートがあるのだろう。
 見れば右側に取水口の建物があって、吊り橋がある。左がダメなら右からだろうと橋を渡り、建物の裏手を回って壁を乗り越え、斜面をずり落ちて堰堤の上に出た。そのまま左岸を下ると堰堤の上に出たので、写真でも見える堰堤上の橋を渡ってめでたくハシゴの上に合流。
 見ると堰堤の上に、「登山者の皆様へ。ここからは下れません。渡って建物の裏から降りてください」と書かれた板きれが転がっている。そ〜ゆ〜ことは堰堤の下に書くべきでは?
 ま、ともあれ登山道に無事出たので登り始めた。
 背丈を越すヤブの中を刈り開いた道で、刈った草がそのまま道を埋め尽くしているあたり、いかにも「いわゆる『登山道』とちゃいまっせ〜」というムードに満ち溢れている。咽せかえりそうな夏草の臭い。息子が不安そうに、「これ、道なん?」と聞いてくる。


 歩き始めてすぐ、大ブナクラ谷の徒渉点に出た。
 ブナクラ峠方面も歩き始めはばっちり見えていたのだが、すぐ雲に覆われてしまった。

大ブナクラ谷にて 

大ブナクラ谷を徒渉後、靴下を履き直す長男

 飛び石伝いに徒渉するのだが、飛ぶ石の間隔がちょっと長い。
 長男の歩幅では無理である。
 しばらく川を上下して徒渉点を捜したが、水量が結構多くてすんなり渡れそうな場所はない。道沿いの徒渉点が一番渡りやすそうである。
 ここで靴を濡らしてしまうわけにもいかず、息子に靴を脱がせて裸足で徒渉させた。
 川の徒渉はまだ、あと少なくても戸倉谷がある。戸倉谷の徒渉もこんな調子だとちょっと時間がかかりそう。

 

 


 大ブナクラ谷を過ぎてしばらくすると、非常識なくらい急傾斜の登りになった。
 いかにも「崩壊地を高巻きしてます」という雰囲気の登りである。1カ所だけ固定ロープが張ってある場所があったが、他は補助的な物は何もない。ヤブ山はこうでなくっちゃ。とはいうものの、息子のことを考えると下りがちょっと心配。
 道も、迷いようもなく踏み固められた道とは違い、迷おうと思えばけっこう迷える道である(ヘンな表現?)。高巻き途中では意表をつく曲がり方をしている場所もあったりする。とはいうものの、「?」と思ったら立ち止まって一呼吸周りを見れば道は判るのだが。
 途中、標識の布を結んだ枝が折れて落ちているのを長男が見つけ、何も教えていないのに、「標識が落ちてるよ。」と自分で手頃な木に結び治していた。こ・・・こいつ・・・何も教えていないのに・・・とちょっと感動した父であった。

 結局この高巻きは何を高巻いたのかよく判らないままに谷筋に道は戻ったのだが、戻ったところが大崩壊地だった。200-300mほどの幅で斜面が土砂に押しつぶされていた。
崩壊地にて 

崩壊地の下の雪渓


 こうなると元の道はどうあれ、ルートは大高巻きか下の辺縁しかあるまい。見ると踏み跡は下に向かって続いているし岩に赤ペンキも付いている。
 崩壊地の中程で気づいたのだが、この大量の土砂の下は雪らしい。雪崩のデブリという様子でもないような感じで、残雪期に雪渓の上に崩壊して土砂が覆った、という感じだった。
 写真では傾斜もなく、まだたいした危険はなさそうだったが(もちろん上部からの落石はひっきりなし)、この少し上流側では雪の壁の高さが5m程にもなり、しかも雪の壁がハングしていて、積もった土砂がひっきりなしに崩れているというえげつないことこの上なしという場所があった。ルートはその壁の下を50mほど歩かねばならない。けっこう、いや、凄く嫌。

 


 崩壊地を過ぎ、なおも歩くと谷に出た。ここが戸倉谷?
 実は違って戸倉谷はもう1つ上の谷だったので、息子と自分の間ではこの谷は「ニセ戸倉谷」ということで話が通じている。
 この徒渉も大ブナクラ谷と同じような飛び石徒渉なのだが、石の間隔が僅かに狭く、なんとか息子も飛び越えることができた。ストックを使わせようとしたのだが嫌だというので(使えれば徒渉にはかなり威力大なのだが)、飛び移った瞬間に差し出したストックを掴ませてバランスを取らせたのだが、うまく飛べた。
 この谷で昼食を食べ、もう峠への登りかと思いながら歩くと、すぐまた河原に出た。なんのことはない、こっちが戸倉谷だったのである。
 戸倉谷の徒渉も同じように飛び石。見ているこちらはハラハラするのだが、本人はけっこう楽しそうである。

 ここでちょっと疑問が。
 取水口から戸倉谷までは、ガイドブックのコースタイムでは1時間半なんである。これまで昼食休憩も含んでいるとはいえ、3時間もかかっている。
 取水口の取り付きでちょっとタイムロスしているし、川の徒渉も普通より時間はかかっているとはいえ、これはちとかかりすぎではないか?
 ペース自体は決して遅いとは思えない。他の山ならほぼコースタイムどおりのペース、という感じである。健脚向きのコースはコースタイムまでが健脚向きなのだろうか?
 ともあれコースタイムでは戸倉谷からブナクラ峠までが1時間。どーだろ、1時間で行けるかな?

 戸倉谷からブナクラ峠への登りの最中も、息子が「腹が痛い」とか言い出してヤブの中でキジ撃ちなぞしていたこともあり、ペース自体は悪いはずがないのだが、あまり進まない。
 最後に大きな岩が積み重なるガレ場を登り、ようやくブナクラ峠に到着。13時40分。ガスで視界は50mあるかないか、であった。
 ブナクラ峠にはおじさん達6人のパーティーが休んでいた。赤谷山を目指したが残雪のため道に迷い、時間切れで下山するとのこと。
 見ると息子が何も言ってないのに自分から行動食のラムネ菓子をおじさん達に配っている。おじさんから「じゃあお礼に」とアメ玉をいただくと、これまた何も言ってないのに「ありがとうございました」とちゃんと礼まで言っている。
 ぉぉぉ、こいつ、いつのまにこんないっちょまえに・・・と密かにじーんとしていた父であった。

 さて、感動するのはいいとして、これからのことを決めないと。
 猫又山まではコースタイムで2時間40分。しかしここまでコースタイムを大幅に越えているため、この先コースタイムどおりのペースで行けると考えるのはムシが良すぎるだろう。今現在の時刻が午後2時なので、コースタイムどおりに行けたとしても猫又山到着は午後5時。息子も峠の手前ではかなり疲れが来たようでペースが落ちたことを考えると、今から猫又山に向かうのは問題外だろうな。
 猫又山までの稜線も、地形図上ではかなり傾斜が強く、途中で幕営適地を見つけることができる可能性も少ない。赤谷山方面も同様。
 よって、稜線上を行動する案は却下。
 次の案は、いっそのこと下ってしまうという案だが、幕営装備を持っているのに下山はもったいない。それに3本の徒渉と急傾斜の高巻き道の下りがあることを思えば、疲れた息子を連れて下山するのも得策ではない。これも却下。
 となれば、残るは「ここで幕営」である。見れば登山道のど真ん中だが、なんとか1張り無理矢理張れるスペースはある。寝心地は悪そうだけど。笹ヤブの中なので風が吹いてもあまり影響もなさそうだし。
 ということで、「ここブナクラ峠にて幕営」に決定した。

 そう息子に伝えると、息子は早くテントを張りたがったが(少し寒いらしい)、なんせ道の真ん中なので誰か通ると邪魔だし、もう少し待たせる。
 6人パーティーが下山するのを見送り、しばらく待って午後3時になり、もう誰も来ないかなとテントを張り始めた矢先に赤谷山方面からおじさんが1人降りてきた。この近辺の登山道の刈り開きをしている地元ボランティアの人らしく、大きな鎌を持っている。
 話していたら、赤谷山方面はまだ残雪があるらしく(さっきの6人パーティーもそこで迷った)、けっこう傾斜もあるらしい。私1人でならともかく、息子を連れて行くのは無理かな、と思う。
 猫又山方面はスズメバチの巣があるらしい。「そこの大岩を回り込むあたりに」と指さして教えてくれたのだが、なんせガスでなんにも見えないのだ。
 ともかく、子連れでスズメバチの巣の近くを通るのはちょっと嫌だ、とかなり登行意欲減退。
 思わずおじさん相手に、「ここ、子連れ向きの山じゃないよね〜」とボヤキが入ってしまった。始めから判っていたのだが。
 おじさんによると、今年はこのあたりは先週初めて刈り開きに入ったそうで、それはそれは凄まじいヤブだったらしい。感謝感謝である。

 ということでおじさんも下山し、改めてテントを設営する。

ガスの中のテントサイト 

ブナクラ峠で幕営。無理矢理テントサイト。

 道の幅がほんの少し広くなっていて「ここしかない」というテント場である。
 出入り口の目の前が石仏さんで、出入りの度に石仏さんに「ちょっとごめんなさいね」と断って手をかけて支えにする罰当たりなサイトである。
 また、道の傾斜がちょうどテントの真ん中あたりで盛り上がっていて、中で寝るとどうやっても腰のあたりが盛り上がり、頭は下がるというかなり寝心地悪そうな今宵の宿であった。
 しかし息子は上機嫌でテントの中で昼寝を決め込んでいた。
 息子と一緒にテントの中で横になっていたら、思わずつられて私もうとうとしてしまった。

 もう誰かが来るなんて思いもしていなかった午後7時。突然テントの側で足音がした。
 誰かいるのか?と外に出てみたら既に足音はブナクラ谷方面に去ってしまっていた。
 この時間にブナクラ谷に降りるの???途中の岩室ででもビバークするのだろうか?
 動物かとも思ったが、あれは人間の足音だよな〜。上手にテントを避けて歩いていったし。
 息子と「誰だったんだろうね」と顔を見合わせていた。


 最後の水場である戸倉谷で持った水が2.5Lで、ブナクラ峠までの行動中にも少し飲んでいたので、明日下山して戸倉谷に着くまでは2L少しの水でやりくりしなければならない。息子が耐えられるか心配していたが、別に「今日は水はこれまで」と言ってもさしたる不満も口にしない。
 夕食を食べ終わってテントの中に横になって、しばらく学校の話や友達の話をしていたが、8時頃にはあっけなく寝てしまった。
 ・・・よくこんな場所で寝れるな・・・
 頭が下がるし腰は持ち上がるし、寝苦しいことこのうえない。ちょっと寝れないぞ、これは。息子がぐっすり寝ていて話し相手にもなってくれないので、仕方なくラジオで阪神戦を聞いていたが、これがまた今日に限って中日にボロ負けしているのである。ムーアがポカスカ打たれて打線は満塁のチャンスでも無得点という、まるで去年までの阪神のような試合をしている。よりによってこんな日に、と気分悪くラジオを消し、タバコを吸いに外に出た。
 相変わらずのガスで視界はゼロ。時折霧雨のような細かい雨が降る。
 ボケ〜っと暗闇の峠に佇んでいると、日中ずっとブナクラ谷方面から吹いていた風が止んでしばらく無風になり、しばらくして今度は黒部側からの風に変わるのが判った。
 1時間ほど外でボケッとしていた。この日の息子の言動を思い出しながら、「いっちょまえになったよなぁ〜」なんて濃霧の峠で1人感動を噛みしめるオヤジ。かなり不気味である。
 さすがにアクビが出だしたのでテントの中に潜り込むと息子が大の字になって寝ていた。毎度のことながらムチャな寝相である。シュラフからも出て身体に巻き付けているだけなので、とりあえず被せて(真冬でも布団を蹴飛ばして寝ているやつなので入れ直してもムダ)自分のスペースを作り、シュラフに潜り込んだのが10時前。横になると私もあっさり眠ってしまった。

 午前3時頃、一度目が醒めた。息子のシュラフをかけ直してまた寝てしまったのだが、後で思えばこれは痛かった。テントから顔を出してみるべきであった。なんせ明け方は快晴だったのである。きっとテントの外は満天の星空だったろうに・・・
 だからこれのような頭の上に出入り口があるテントは嫌いなのだ。テントから顔を出すためにはズリズリずり上がらねばならないからだ。ずり上がればどうしたってせっかく暖かくなったシュラフの中は振り出しに戻ってしまう。横に出入り口が付いたテントならば、ゴロリと寝返りを打つように頭だけ出入り口から出すこともできるのに(得意技なのである)。
 また、頭の上に出入り口があると、そこを開けると隣で寝ている息子にもモロに寒気に曝すので、気楽にちょっと外の様子を、と開けるのが気が引けてしまう。横に出入り口があると、奥に寝ている息子のことはあまり気にせず開けることができるのに。
 この夜は月も細い三日月だったので、きっと「天の川が白い帯に見える」星空が見れたはずなのに。
 もったいないったら。

 4時半に腕時計のアラームで起きた。
夜明け前のブナクラ峠 

夜明け直前のブナクラ峠


 外に出てみると快晴だった。思わず息子に声をかけたが起きる気配がないので、1人で峠近辺を歩き回った。

 すぐに赤谷山の頂上部には雲がかかり、大日岳からも雲の波が尾根を乗り越えてきて、上の方は午前中早い時間に雲がかかる昨日と同じパターンの天候だということが判ったが、シルエットの後立山や、まだ日が当たらないブルーバックの中に聳える剱岳など、「これだけのために来た甲斐があった」と思うほど素晴らしい眺めである。
 それなのに何をピーピー寝てやがる!とぐずる息子を叩き起こしたのだ。
 寝ぼけ眼でテントを出てきた息子は、夜明け前の山々を見るなり「わぁ・・・」と口を半開きにしてボケッとしている。感動しているのか寝ぼけているのかいまいちよく判らない。

 


夜明け直前の剱岳 

夜明け直前の剱岳

 

 デジカメの写真ではいまいち色が出ないのだが、日が当たり始めてうっすらと赤く光る剱も素晴らしい。
 息子は剱を見ると、「うぉ〜、かっこいい!」と目を輝かせた。剱を見て目を輝かせるとは、嬉しいような怖いような、ちょっと複雑な気持ち。


後立山からの日の出 

後立山から昇る朝日

 

 やがて後立山連峰から朝日が昇る。
 どーも立山側から見る後立山はどれがどの山かもうひとつ判らないのだが、白馬と白馬鑓の間、杓子岳あたりから昇っているのかな?
 逆行でシルエットなので余計判りづらい。
 朝日岳の茫洋とした山容と五龍岳はよく判るので、そこから推定した山座同定である。後立山までカバーする地図(地勢図)を持ってこなかったのが悔やまれる。

 


 朝食の準備をしながら今日の行動予定を考える。
 まあ前日に猫又まで届かず、ここで幕営した時点で半ば結論は出ていたのだが、猫又には登らずこのまま下山することにした。
 猫又まで3時間弱のコースタイムもあまりあてにならないし、コースタイムどおりでもブナクラ峠から猫又山往復に休憩時間を入れると5時間かかる計算である。下手するとブナクラ峠から下山を始めるのが午後になるかも。ブナクラ谷の道が息子にとってはけっこうハードだったことを考えると、猫又山往復で疲れた身体での下山はあまりさせたくない。
 天候も雨は降らないにしろ、ガスで頂上に着いても何も見えない可能性が非常に高い。
 スズメバチの巣がある、というのも嫌な点である。
 まあつまりはここで頑張らせても得るものは少ない、と思ったからである。
 天気も良くたっぷり寝て元気なうちにさっさと下山して馬場島で遊んだ方が良いな、と。
 ちょうど町のカブスカウトが馬場島でキャンプしているという話を事前に聞いていた。息子は今年の春までビーバースカウトにいたので、隊長始め大人もよく知っているし友達も多い。この話をすると息子の気がそちらに向いてしまい、山に登りたがらなくなると嫌なのでそれまで黙っていたが、下山しようと決めてからその話をすると、案の定早く下山して友達と遊びたいと言う。となれば天気の良いうちに気持ちよく下山開始である。

 撤収して下山を開始したのが午前7時。
 歩き始めは峠直下のガレ場で遊んだり、立ち止
戸倉谷の滝 

戸倉谷の滝

まって山をボケっと眺めたりしていたので、最初の1時間経ってもほとんど進んでいなかった。
 本格的に歩き始めてからは快調に下っていく。

 戸倉谷の徒渉点から少し上流に、地形図にも記載がある滝がある。
 この滝が登山道からも格好良く見えた。40mザイル1ピッチで届きそうな高さだが、上から懸垂下降で降りると1本じゃ届くか届かないか微妙だなぁ、つまり高さは30mくらいか?
 息子がこの滝を見て、「うぉ〜、格好いい!」と興奮している。
 ・・・つまり、嗜好がやはり父親とよく似ている、ということだな・・・
 「今度、戸倉谷を渡ったところから谷を歩いてあの滝の下まで行ってみようか?」と振ると目を輝かせて「おぅ!」と右手の握り拳を突き上げる。
 ・・・どうせその方面に興味を持つなら、ちゃんと教えた方が良いのだろうか・・・?

 ちなみに写真で判るとおり、上の方はもうすっかりガスっている。こうこなくっちゃ。
 これで上の方までスカっと晴れていたらちょっと悔しいもの。


 戸倉谷の徒渉は、登りの時は飛び石で行けたが、下りは石の位置関係が厳しく息子には無理っぽい。
 もう下山するだけだし、「靴のまま行っちゃえ」と言うと、靴のまま流れにざぶざぶ入って「気持ちいい〜」とか喜んでいる。やっぱり嗜好が父親そっくりである。私もつき合って靴のままザブザブと徒渉した。やっぱ気持ちいいわ。
 そこから下の谷は全て、その必要もないのにザブザブと靴のまま流れに突っ込んで徒渉する。

 高巻き道の下りはやはりちょっと嫌らしかった。
 私は荷物もあるし傾斜も強いので素直に後ろ向きになってクライムダウンのように降りていたのだが、ふと上を見ると息子が前を向いたままほいほい降りてくる。
 「バカ者!後向いて確実に降りてこい!」と叱ると、「大丈夫だよ〜」と言う舌の根も乾かないうちにズリっと尻餅をついてそのまま斜面をずり落ち始めた。「ほれ見ろ、言わんこっちゃない」と襟首を掴んで滑落を止め、「こういう何気な〜いところが一番危ないんぢゃ、バカタレ」と説教させていただいた。実際、そのまま落ちたら冗談では済まないところなんだよ。

下山、取水口にて 

無事下山、取水口にて

 無事取水口まで下山したものの、まだ林道歩きが残っていた。
 「あ〜、車でここまで来れば良かった」とボヤキながら林道を早足で歩き、馬場島で思惑どおりカブスカウトのキャンプと合流したのであった。


 そもそも今回は行程を甘く見て、朝ゆったり出発してしまったのがそもそもの間違いだった。
 初日に早立ちしていればもう少し別の選択肢もあったのだ。
 息子に、「今度はブナクラ谷の道も判っているし、朝もっと早く出てくれば猫又山まで行けると思うよ」と言うと、うんうんとやる気満々であった。
 谷筋の登下降だしヤブはきついし稜線はほぼガスの中だし、この山行のどのあたりがどう息子のツボにヒットしたのかよく判らないのだが、かなり楽しかったらしい。
 実は息子は、前日になって母親との花火隊の方に行こうかかなり迷っていた。
 下山した後、「花火の方が良かった?」と聞いたら、「ううん、こっちの方がぜんぜん良かった」と即答したのだが、まさか気を遣っているのか?次回誘ったら来るかな〜?

 帰宅してからテントやシュラフを広げて干すのもちゃんと手伝った。(ちょっと嫌そうな顔はしたが)

 この日、どうも暑さが違うし雲の様子もなんだか「夏ぅ!」という感じだな〜と思っていたら、梅雨が明けたらしい。
 明けても相変わらず山は雲雲していていまいちパッとしないのだが、とにかく来週は立山である。天気が良いといいな。

 沢登り用のシューズで、今年になってラバーソールのものが出始めたのですかさず注文して買った。フェルトソールのものはどうしても嫌だったので買う気にならなかったのである。
 さっそく試し履きに行かねば。8月中には黒部の源流か赤木沢あたりに行きたい。
 9月末はカミさん連れて高天原に行く予定だし、猫又山のリベンジを入れる余地があるかどうか、ちょっと微妙である。
 まあ、来年でもいいんだけどね。山は逃げないし、来年は息子ももっと強くなっていてスムースに行けるだろうし。こうなった以上、1人でフラッと登ってきてしまうワケにはいかんかも・・・

 

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