沢登り用シューズ

 沢登りを始めたのは20年前だったので、当然のように地下足袋とワラジという足回りだった。
 地下足袋は作業着店で購入し、ワラジは登山用具店でまとめ買いしていた。ちなみにその頃使っていた地下足袋は未だに家の物置に転がっている。なんでこういうどうでも良いものばかり残ってるかな〜?
 ワラジは確かに沢では無敵だった。ただしモノによって激しく違い、粗悪品に当たると遡行中にバラバラにほどけてしまうものすらあり、日帰りの沢でも予備は必須だった。
 この地下足袋+ワラジの組み合わせの良いところは、余分な靴を持って行かなくても済むというところだった。沢の遡行が終わって稜線に出ればワラジを脱げば地下足袋で歩ける。地下足袋のみでは濡れた岩では滑りやすくて危険だったし、ソールの剛性はほとんどゼロなので足の裏は痛くなるし歩き方にもコツが必要だったが、馴れればこれでけっこう普通の山も歩けた。
 ただ、どうしても馴染めなかったのが足の親指が分かれているということだった。これでなくちゃならん、という人も多いのだが、私はこれは苦手だった。すぐ足の指が痛くなるので。遡行終了からの行程が長いと涙目で下山してくることもしばしばで、ついに履き替え用に運動靴を1足持っていくようになったが、これは気に入らなかった。なんで靴を2足も持たねばならんのだ?
 当時はウェイディングブーツが出始めた頃で、沢でそれを履いている人と出会った時は羨望の眼差しで見つめたものだった。
 また、渓流タビ(指割れ式でアッパーがジャージのもの)もぼちぼち出回っていたような気がする。
 ワラジもポリプロピレンやフェルトのものが出始めていた。両方とも出るなりさっそく試したが、両方とも乾いた岩に弱いという弱点があり、またポリプロピレンワラジは縦方向のグリップはワラのワラジと同等だが、横方向のグリップは極端に低いという弱点があった。さらに両方とも土に帰らないので遡行終了点に捨ててくることができないという点も弱点だった。(現在ではワラのワラジと言えど捨ててこれるようなご時世ではなかろうが・・・)
 ただ、フェルトのワラジは2〜3回は使えたので、その点では持って帰る意義はあったが、ワラのワラジの10倍近く高かったような気がする。

 大学に入って究極の沢登りシューズに出会った。それは大学生協のペラペラの1000円運動靴である。
 確か本来の用途はジョギングシューズか何かだったと思うのだが、これのソールのグリップがまた別世界だった。登山靴の項目にも書いたが、とにかく乾いていようが濡れていようが絶大なグリップを発揮した。ちょっとザラザラした感触の目の粗いゴムだった記憶があるのだが、とにかくこのシューズは在庫の全てを山岳部員で買い占めていたようなものだった。剱でもアプローチの雪渓は登山靴で登り、取り付き点で1000円シューズに履き替えて登っていた。
 アッパーの布はペラペラで足の保護機能はゼロだった。なんせ左右の靴をまとめてジーパンの尻ポケットに突っ込んでおくことができるほどペラペラだった。アッパーはすぐ破れるし絶大なグリップと引き替えにソールはあっという間に減ってしまうので、3週間の夏山合宿中に3足は必要だった。

 この1000円シューズが沢にも絶大な威力を発揮することを知ったのは、合宿後仲間と別れて黒部源流の小屋で居候をしていた時だった。
 沢を歩くのに革の登山靴を履いていくわけにもいかないし、他に履く靴がなかったので仕方なく1000円シューズを履いて行ったのだが、これがすごくグリップする。水垢が付いているヌルヌルの岩でさえ、ある程度グリップすることに気づき、狂喜して下山するやいなや生協に走って在庫を全て買い占めた。
 大学時代の沢登りはほとんどこの1000円シューズで行った。

 やがてこのシューズ、製造されなくなったのか生協で扱わなくなり、最大で20足くらい持っていた我がアパート内の在庫も減る一方になった。
 代わりの沢用シューズを探し始めたのだが、ウェイディングブーツと渓流タビはどうしても気に入らなかった。
 どちらもソールがフェルトでアプローチや稜線歩きに使うわけにもいかず、靴を2足持たねばならないというのが最大の難点だった。それにフェルトソールはあまりにも「濡れた岩」に特化しすぎていて、乾いた岩や草付き、雪渓上では東京靴流通センターでワゴン売りしている380円の靴の方がなんぼかマシ、という点も嫌だった。
 渓流タビは薬師沢の小屋に何足か転がっていたので、それを履いて赤木沢などに行った時もあったが、靴を2足持つのがどうしても嫌で渓流タビのまま赤木沢を抜けてから太郎まで稜線を縦走し、また薬師沢に戻ったが、この時は太郎からの下りで何度か派手に転んでしまい、頭に来て第一徒渉点から登山道を外れて薬師沢を沢伝いに小屋まで戻った。

 ウェイディングブーツもフェルトソールなので、やはり普通の道で情けない点は渓流タビと共通の弱点だったが、それ以外に気に入らない点は、足の保護が過ぎる点だった。足首も深いしソールもけっこう固い。要するにトレッキングブーツのソールをフェルトにしたようなモノがウェイディングブーツなのでそれも当然なのだが。
 なんというか、なんだかつまらないのである。尖った石の上に乗れば足が痛いし、直射日光で焼けた石の上に乗れば足が熱くなるのが自然だと思っていたのが、ウェイディングブーツはなんか違うと思った。1回借りて赤木沢に行ってみたのだが、それ以降欲しいと思わなくなった。
 沢登りってノープロテクションで40mの滝を登ってしまったり、場合によっては岩登りより遙かにシビアなことをやってしまいがちなのだが、あまり戦闘的な気持ちにならないところが好きなのだが、ウェイディングブーツを履いて足をガチっとガードされると、「・・・なんか違う」という気になってしまうのだった。
 ま、もちろん「戦う沢」は確かに存在するし、そういう登攀的要素が高い沢ではウェイディングブーツは確かに有効なのだろうけど。地下足袋とワラジの足回りでアブミに乗るのは確かにきつかった。ウェイディングブーツなら確かに楽そうだ。

 要するに私はあの1000円シューズが欲しいのだ。裸足同然のペラペラの靴だけどグリップだけは抜群という靴が欲しいなぁと思っていた。
 今は沢用の靴のソールはフェルトしかないという雰囲気だけれども、あの1000円シューズのグリップを知っている私は、ゴムのソールでも沢用の靴は絶対作れるはずだと信じていて、いつかどこかがそういう靴を開発するだろうと思っていたのだった。

 まあこの10年ほど山から遠ざかっていたのだが、また山に登り始めた今年になってタイミングのいいことにラバーソールの沢用シューズが発売され始めた。クライミングシューズで有名なファイブテンというメーカーがウォータースポーツ用のラバーソールを開発して、そのソールを使ったシューズがキャラバンから発売された。これは買うしかないだろう、とさっそく好日山荘で注文して買ってしまった。
CA-4 

キャラバン 渓流 アクアアクティブシューズCA-4

アクアステルスラバーソール

このソールが・・・


 キャラバンの「渓流 アクアアクティブシューズ CA-4」というモデルである。
 このファイブテンのアクアステルスラバーソールというソールを使ったシューズはキャラバンから3モデル出ている。
 1つめは「渓流 水無」というモデルで、ベースはフェルトソールのごく普通のウェイディングブーツである。ただ、ソールが手で張り替えられるようになっていて、替えソールとしてフェルト、ブロックパターンのラグソール、アクアステルスラバーソールが用意されている。
 つまり、沢はフェルトソールで登り、稜線に出たらバリバリとソールをラグソールに張り替えて歩く、という使い方ができる。
 ・・・なんか姑息だ・・・
 まあ単に店で試し履きして気に入らなかっただけなのだが。やっぱりハイカットだし。おまけにシューズ(ノーマルではフェルトソールが付いている)本体が17000円とやたら高いし、替えソールも4000円近くする。予算オーバー。

 2つめのモデルが「渓流 アクアアクティブシューズ CA-6」というモデルで、これは私が買ったCA-4のハイカット版である。
 メーカーによると、ハイカット版のCA-6がフィッシングやリバートレック(要するに沢登りのことか)用で、ローカット版のCA-4はカヌーやラフティング用と言うことらしい。
 が、ソールは同じなので、だったら迷わずローカット版である。
 色が地味〜なのがちょっと嫌だったが(オレンジとかがあればいいのに)、ともかく買ってみてとりあえず履いてみたらば、さすがに1000円シューズほどのペラペラ感はないものの、例えていうならばアシックスのガントレと似た履き心地。ちょい頑丈な運動靴、という感じである。
 ソールが爪先まで来ているのはさすがだが、シューズの周囲をラバーが巻いているのは水抜けが悪そうな気がする。

 期待のソールは、なんだか普通のラバーソールという感じである。
 舗装路の上で歩くと、ねちゃっと粘り着くような感覚はクライミングシューズのラバーソール独特の感覚である。普段履きにしてしまうとあっという間にソールが減ってしまいそうなので、しばらく封印することにする。

 いろいろ調べてみると、ガルモントあたりからも面白そうな靴が出ている。
 東京靴流通センターあたりを見ても、「ウォーターシューズ」というジャンルができていて、けっこう面白そうな靴がたくさんある。

 ともあれ、せっかく買ったのだし、この夏にはさっそく赤木沢あたりで試し履きをしたいなと思っていたりする。

 


 8/30から9/1にかけて黒部源流に試し履きに出かけた。
 赤木沢を目指したのだが天候が悪く、薬師沢の小屋で宴会しただけで終わってしまい、十分な試し履きができたとは言えないかもしれないが、実際に山で履いてみた感想を書くことにする。

 普通の登山道での履き心地は、まさにアシックスのガントレを彷彿とさせる。色やデザインが似ているのでそういう先入観を持ってしまっているのだろうか。
 荷物が軽かったこともあるが、折立から薬師沢までの登山道では何の不具合も感じなかった。若い頃より足腰の筋力は落ちているし、足首に関節炎も抱えているが、10kgを少し越えたくらいの幕営装備でも履けそうな感じ。よほどの重装備でない限り、「入下山から沢までを1つのシューズで」という目標はクリアできそうである。

 ソールのグリップは素晴らしい。ぬかるみはさすがに深いブロックパターンの靴には敵わないが、それ以外の地面に対しては非常にしっかりしたグリップだった。岩に対してはさすがに無敵状態。粘り着くようなグリップ感は気持ちいい。
 大雨の行動もしたが、特筆すべきは濡れた木道木の根に対しての絶大なグリップ。傾斜のついた濡れた木道などは普通はかなり神経質に歩くことを強いられるものだが、このシューズはまったく問題なかった。それどころか例の粘るようなグリップ感すら感じたのはさすが。皮が剥げた木の根が濡れていても問題なし。さすがにグリップ感は落ちるが、それでも段差の上からその木の根の上に安心してジャンプできるほどのグリップだった。

 下山時には太郎〜薬師沢間の登山道で橋が2カ所落ちていたので雨中の徒渉も行った。
 1カ所は水中の岩への飛び石、1カ所は濁った瀬の膝上〜腿までの徒渉だった。どちらも足元には何の不安もなかった。

 薬師沢の小屋のバイトが同じソールを使ったサンダルを持っていた。彼はそのサンダルで薬師沢から赤木沢の出合いあたりまで何回か出かけたらしいが、彼もこのソールのグリップは抜群だと絶賛していた。
 ただし、「雪の上はからっきしですよ」と言っていたが、そりゃそうだろう。6月の薬師にサンダルで行く方が無茶である。でも、8月ならあのサンダルで縦走もできるかもしれない。昔は「北アルプスつっかけ縦走隊」なんておバカな連中が1シーズンに必ず何人かいたものだが・・・

 そんなわけでソールは確かに良い。減りが非常に早そうなのが唯一の難点か。バイトのサンダルは既にツルツルのスリックタイヤ状態だったし、ハードに履けば寿命は1シーズンというところだろうな。
 まあこのシューズは9800円とけっこう安いのは助かる。これなら毎年買ってもいいや、と思える値段。

 ソールは確かに良いのだが、「シューズ」としては改良して欲しい点がいくつか。
 まず、ウォーターシューズを名乗るには水抜けが悪すぎる。土踏まずの内側に水抜きの穴が3つほど空いているだけなので、水の中に足を入れるとかなり長い間靴の中がダボダボ状態だった。周囲をぐるりとラバーが巻いているのは余計なお世話である。アッパーの素材も強度はありそうだが、水抜きを優先して選ばれていないのは明らか。

 それとやはりデザインはダサ過ぎ。
 このファイブテンのソールが抜群に良いことはもう判ったので、他社からもっとデザインの良いシューズが出たら、次は迷わずそちらを買う。本家のファイブテンからもこのソールを使ったシューズが出ているが、いかにもラフティング用などのシューズでいくらなんでも山にはちょっと頼りなさげなので、とりあえず今回はこのキャラバンのを買ったのだが・・・でも、ソールは本家の方がさらに改良が進んでいるようで、丸いイボイボに細いスリットが入っている。これは見るからに排水性が良さそうで期待が膨らんでしまう。自分の靴のソールにカッターでスリット入れたらダメかしらん?
 それにしてもキャラバンって全体的にデザインがダサダサだと思うのは私だけ?超ロングセラーのキャラバンシューズみたいにダサさの美学くらいまで昇華されれば、それはそれで立派なものだが。


H17.2.14更新

 2年ほど前から出るぞ出るぞと噂があった、秀山荘からのファイブテンソールの沢靴が遂に出た。
 その名も「忍者」と言う・・・だっさー・・・
 ・・・ま、名前のダサさはともかくとして、デザインもなかなかダサい。・・・まあキャラバンよりはマシだが。そういえばネーミングも、他に「デラックス」なんていう昭和40年代のカローラのグレード名を彷彿とさせる素晴らしいセンスである。既に死語だと思っていたが・・・

 ネーミングやデザインはともかくとして、この靴、さすが沢靴を長い間手がけている秀山荘だけあって、なかなか期待できる。
 というか、ソールの性能はもう微塵も疑っていないので、後はシューズとしての出来映えだけなのである。

 秀山荘のサイトで見た限りでは、忍者デラックスVのファイブテンソール版に見える。つまり、ソールは柔らかめで軽量タイプ。同社の最上級モデルであるスーパープロVはミッドソールもやや厚めのEVAだったり、足首などにネオプレンのパッドが入っていたりして、かなり手厚い造りなのだが、それらはどうも省略されているらしい。
 私の場合、普通の登山道も沢も1足で済ますことが希望なので、足入れがゴツゴツしているのはちょっと勘弁なのだが・・・ネオプレンのソックスを履くのが前提、という「沢登りに特化した靴」はあまり希望ではない。果たしてどんなものなのか。

 実物を見たいのはやまやまなのだが、まだ発売前だし(3月発売なのだそうな)3月以降に東京まで行く機会がそうそう都合良くあるとは限らないし、値段もそれほど高くないので買ってしまうかもしれない。

 それにしてもこのファイブテンのアクアステルスというソール、沢靴用と決めつけてしまうのはあまりに惜しいと思う。
 この靴、普通のビブラムソールより遙かに汎用性が高いと思う。
 普通のトレッキングシューズに多用されているビブラムソールが苦手としている濡れた岩、苔生した岩、雨の日の木の根、雨の日の濡れた木道などでは、このアクアステルスは無敵と感じるほどグリップ性能が高い。乾いた岩ではもともとクライミング用のソールなので、当然絶大なグリップ性能である。
 例えば折立から入山して雲の平や高天原に行く一般ルートなどでは、大東新道の河原歩きや高天原や雲の平での木道、薬師沢〜雲の平の苔生した岩がゴロゴロしている急坂など、普通のトレッキングシューズでは歩きにくい区間が多い。というか、太郎小屋を越えて黒部源流地域に入ると大部分がそういう道である。現にこの界隈の山では濡れた木道でスリップする怪我が非常に多い。こういう道ではアクアステルスは無敵状態なのだが・・・
 ビブラムソールの多くは泥や砂の排出のためにソールパターンが深い。つまり車のタイヤで言うマッドタイヤに近い理屈である。クライミング用のソールは、逆にソールパターンは非常に浅く、中にはまったくないものもある。いわばレーシングタイヤやスリックタイヤである。
 アクアステルスは、タイヤに例えるとレイン用のレーシングタイヤか。砂礫の道や雪の上はさすがに苦手とするが、それ以外の道ではビブラムソールとはまったく使用感が違う。少なくとも黒部源流の山では、一般登山道であってもビブラムのトレッキングシューズよりアクアステルスのシューズの方が適している、と思う。

 トレッキングシューズの場合、ソールのゴム質やパターンだけでなく、ソールの堅さも影響していると思う。
 ソールが堅いと接地面積が少なくなり、深いソールパターンと相まってよけい接地面積が減少して滑りやすくなるかと。
 むろん、ソールパターンがあまりに浅いと排水性が悪く、ツルツルに滑ることになるのだが、アクアステルスのソールパターンは、そのあたりが非常に上手く設定されている気がする。本家ファイブテンから出ているシューズに使われているアクアステルスは、丸のパターンにさらに細いスリットが付けられていて、さらに性能が良さそう・・・

 ビブラムからも「ボルダー」という、ちょっとアクアステルスに似た感じのソールが出ている。モンベルのコルキーサンダルというサンダルに使われているのだが、確かに濡れた岩でも普通のソールよりは遙かにグリップが良い。
 例えば街でも、店の出入り口付近などにタイルが多用されているが、これが雨の日に濡れるとやたら滑りやすい。そういう状況でもコルキーサンダルは比較的普通の靴よりは滑りにくい。だが、キャラバンのCA-4は全く滑らないと言っても言いすぎではないほどの性能である。

 だからこのソールを使って、普通の登山道でも快適に歩けて沢歩きもできる、という水陸両用のシューズを誰か開発してくれないものだろうか・・・


H17.2.18更新

 東京に出張したついでに秀山荘に寄ってきて例の「忍者」を見てきた。
 ・・・う〜ん・・・微妙である。
 まずぱっと手に取った感じ、シューズとして14,000円近い質感を感じない。まあ値段の大部分はソール代だろうから、そこは仕方ないかとも思えるのだが。
 ソールは非常にソフトである。というより、シャンクが入っている気配がなく、ほんとにソールの堅さそのまんま、という感じで自由自在にグニャグニャ曲がる。
 それからアッパーの内側に特にパッドなどは入っておらず、アッパーの布がそのままインナーというシンプルな構造である。

 これらは「沢登り専用シューズ」とすれば、まあ納得できる仕様ではあるかもしれない。ソールの堅さは沢登りでもある程度あった方が良い場合も多いが、スラブ状の濡れた岩をフリクションを頼りに登る際などはソールは柔らかければ柔らかいほど良いだろうし。でも河原歩きとか細かいスタンスの上に立ったりアブミを使うような登攀的要素の強い沢登りの場合は、このフニャフニャソールはちょっと辛そうである。

 シューレースは爪先から足首まで締め上げることができるので、きちんと締めた場合のフィットは良さそうである。
 だが、パッドなどがまったくないので、足への当たりはきついと試し履きして感じた。
 でもこれも「沢登り専用シューズ」として考えれば、ネオプレンのソックスを履くのが前提なのでたいして問題ないかも。

 でもなぁ・・・せっかくラバーソール使ってるんだから、もうちょっと「水陸両用」的なシューズを期待していたんだけどなぁ。
 正直なところ、これで普通の登山道を歩くのはなかなか辛そうである。
 薄手の靴下では足への当たりが辛そうだし、かといって沢ではネオプレンのソックスを履く、ということにすれば、登山道歩きは相当厚手の靴下を履かないとサイズが合わない。
 沢登り用としてでさえ、けっこう用途を選ぶシューズのような気がするし。とりあえず登攀的要素の強い沢には辛そうである。ナメ滝スペシャル、という感じで。
 このファイブテンのラバーソールは、そもそもはっきり苦手なのは雪の上や砂礫帯くらいで、他は濡れた岩も乾いた岩も雨の木道も何でもこいの非常に適用域の広いソールだと思うのだが、靴の造りでその可能性を狭めてしまってどうする、と思えなくもない。

 聞いてみたらこの靴、ソールの貼り替えは可能だが1万円くらいかかってしまうという。普通のトレッキングシューズと同じくらいかかるということで、まあ当たり前の話ではある。
 でも、この値段の靴に1万円をかけてソールを貼り替えるくらいなら、さっさと新しい靴を買った方が良かろう。だいたいソールの貼り替え時期にはアッパーも傷んでいるだろうし、ソールの寿命が靴の寿命、ということになる。
 今の私の愛用靴であるキャラバンCA-4はソール貼り替えはできないという。まあできたところで1万円かかれば、新品買うのと同じ値段になってしまうので、仮に貼り替えが可能でも意味はなかろう。

 このソール、絶大なグリップと引き替えに減りがすこぶる早く、2シーズン履いた時点ではっきり減ってしまっている。まだ履けないこともないが、グリップも少し弱くなってきているのが実感できているので、無理して使ってももう1シーズンだろう。

 ということは必然的に「買い換え」ということになるのだが、どうせなら別の靴を試してみるかとこの「忍者」をとりあえず注文してしまった
 水陸両用靴として使うには欠点が多い靴だということは承知の上である。そういう用途ならCA-4の方がまだマシ、という気はひしひしとするが。
 生産が遅れていて、入荷は4月末になるという。

 ほんと、どこか開発してくれないものだろうか。水陸両用シューズを・・・せっかく水陸両用ソールがあるのに・・・


H17.3.19更新

 上記のようなわけで、けっこう疑問を抱きながらも秀山荘忍者を予約していた私であるが、今年のキャラバンのカタログを見ていたらキャラバンからもファイブテンのソールを使った沢靴がでることを知ってしまった。
 その名も奥利根AQUA。・・・・いや、もうネーミングについては文句を言うまい。

 キャラバンの沢靴は「渓流」というシリーズになっていて、従来は赤石奥利根の2モデルが主力だったようだ。赤石がちょっと安い入門モデル、奥利根が高級仕様という棲み分けで、去年まではその他に水無という、ソールを自分で簡単に張り替えられるモデルが存在した。
 2003年カタログによると、水無のオプションソールはフェルトとファイブテンのラバーソール、それと普通のトレッキングシューズっぽいラグソールの3種類だった。それが2004年には水無Uにモデルチェンジしたとき、ラグソールがなくなってフェルトとラバーソールだけになっていた。
 ちなみに上の方で述べている、試し履きして気に入らなかったのは2003年の水無である。
 ま、沢ではフェルト、稜線に抜けたらラグソールとソールをその都度手で張り替えるという方式が邪道だと感じてしまったのもあるが、何よりそのソール貼り替えシステムのためか、履いた感じが妙に重心が高い、そう、まるでシークレットブーツを履いたかのような違和感があったのだった。
 ・・・今だったら「話のネタに」とか言って買ってしまいそうなんだが。

 その水無であるが、今年2005年のカタログからはなくなっている。売れなかったのか。ま、そりゃそうだな。発想はいいかもしれないが、なんだか意あって力足らずみたいな靴だったし。

 その代わりに今年は奥利根AQUAが追加された形になっている。最初っから素直にこれを作ってくれよ、って感じである。
 高級バージョンの奥利根ベースなので、造りは非常にしっかりしていそうだ。個人的にはもうちょっとラフな感じの靴が好みなんだけど、ゴム草履に布一枚のアッパーを被せただけのような造りの忍者よりは、よっぽど水陸両用シューズとして使えそうである。
 でもちょっと高いんだよな・・・

 ま、そんなわけでキャラバンのカタログでこれを見つけたその日に、秀山荘の忍者をキャンセルし、この奥利根AQUAを買うことに決めた次第である。今、金はないのだが夏までに用意するのだ。


 奥利根AQUA、夏までに買えばいいやと楽に構えていたのだが、4月に計画的な衝動買いかなり非常識な値段のレンズを買ってしまったので、翌月からローンが始まってしまう。これは無理してでも今のうちに買ってしまわねばということで注文を入れてしまった。
 例によって26cmを基準に前後サイズを取り寄せてもらい、試し履きをして決めたのだが、この靴はネオプレンのソックスを履くことを前提にしているためか、サイズはかなり大きめである。

奥利根AQUA

奥利根AQUA

 奥利根AQUA
 どうでも良いが「渓流」というロゴとサイドの「奥利根」というタグは格好悪いからやめて欲しいよ。

 


 沢靴を買おうとしてからずっと悩みの種になっているのがこのサイズ問題で、すなわち
1.沢でネオプレンのソックスを履くためには大きめのサイズを選ぶべし
2.でも、それだと一般登山道を歩いているときにはかなり分厚い靴下を履かないとサイズが合わない
3.でも厚手の靴下を履いていると、そのまま沢に突入したり雨で濡れたりしたときに不快&靴擦れしやすい
4.だからといって薄手の靴下に合わせてサイズを決めるとネオプレンのソックスは放棄することになってしまう
 というジレンマに陥ってしまうのである。

 が、さすが渓流シリーズを造ってン十年のキャラバン、ちゃ〜んと判っていて、薄手(1mm厚)のネオプレンソックスを出しているのである。
 というわけでこの薄手のネオプレンソックスも一緒に注文し、それを履いた上で試し履きをして一緒に買ったのであった。

 試し履きすると普通の厚手ネオプレンを履いた状態が標準設定らしく、靴のサイズがかなり大きい。いつも履いている26cmでは完全にブカブカである。すなわち、25.5cmに決定、である。

 この靴、かなり柔らかい設定ではあるがシャンクもちゃんと入っていて、ソールは非常に柔らかいが秀山荘の忍者よりはしっかりしている。私好みではかなり絶妙っぽい設定で、硬めだったらどうしようと不安視していただけに嬉しい。屈曲ポイントは非常に柔らかいがその他の部分はけっこう硬い感じである。忍者は「どこでも自由に曲がる」ソールだったものなぁ・・・
 足首回りとベロには薄いながらも緩衝材が使用されているので、最低限の足当たりのソフトさも持っている。
 爪先と踵にはちゃんとカップ(素材は不明)が入っているし、爪先のカップが最低限の大きさというのもツボにはまっている。ここが大きすぎると爪先の微妙な感覚が著しく損なわれるので沢ではつまらないのである。
 足首の深さも良い感じである。足首にホールド感は少ないのだが、多分これ以上ホールド感がある造りだと沢では「過剰」に感じる。

 そんなわけでじっくり見てみた限りでは、「もし自分がファイブテンのソールを使って水陸両用シューズを造るなら、こんな感じに造りたい」と思っていたのと極めて近い仕様なのであった。

 対して「ここはこうして欲しかった」という部分だと、まずソールはCA-4の様に爪先まで回り込ませて欲しかった。ちょっと細かいホールドに立つときのグリップが違うし、第一その方が格好いいし。
 それからやはりこれもラバーが靴の底部をぐるりと一周しているが、水抜けはどうなのか?
 水抜きの穴は内側に5つほど開いているだけである。これで十分抜けるものなのだろうか・・・
 もうひとつシューレースであるが、一番上までホールに通して靴紐を締めるようになっている。そういや沢靴はどこのメーカーのもみんなそうだな。
 ヤブこぎなどの際に引っかかったりしないように、ということなんだろうな。
 でも、私が欲しいのはあくまで「水陸両用シューズ」なので、ホック式のシューレースで着脱が楽にできるのは捨てがたい。上の2つだけでも良いからホックにして欲しい。

 それとやっぱり、あの「渓流」というロゴは・・・

 まあ、そんなこんなでかなり私の希望にドンピシャリの靴、という感じはある。
 あとは実際使ってみてどんなか、ということである。
 今年の夏、黒部源流方面へは全てこの靴オンリーの予定である。


H17.8.10更新

 薬師見平にこの奥利根AQUAで行ってきた。入山から下山までこの1足だけである。
 靴下は上に書いた薄手のネオプレンソックスと、普通の登山用の中厚手ソックスの2足を持っていった。
 入山日には普通のソックスを履いていたのだが、薬師沢小屋で滞在中に赤木沢の出合いまで散歩に出かけたりしたので、腿くらいの徒渉もあり当然シューズはずぶ濡れである。
 濡れた靴に普通のソックスを履いても不快なだけなので、以後の行動は全てネオプレンソックスでこなし、普通のソックスは薬師沢小屋にデポして行ってしまった。
 そのため、薬師沢〜高天原の大東新道、帰りの高天原〜雲の平を経て薬師沢という一般ルートも含めて、薬師見平への行程はずっとネオプレンソックスで行動することとなった。

 結論から言うと、この靴、無敵である。
 普通の整備された登山道、濡れた木道、沢沿いのルート、徒渉、滝の登攀、全てを足元にまったく不安を抱かずに歩くことができた。急傾斜の笹ヤブではさすがに滑るのだが、ここは何を履いていても滑る。今回はパーティー全員が高天原〜薬師見平の行程は沢靴で行ったのだが、他のメンバーのフェルトの靴よりは笹ヤブの中でもまだずいぶんグリップする、と感じた。

 沢では滝の登攀は快適そのものだった。乾いた岩や滝の飛沫に打たれて濡れた程度の岩では、クライミングシューズそのもののグリップ感で、足元への不安は微塵もなかった。

 沢で水苔で滑っている岩(茶色に変色している)では、さすがにやや滑る。が、同行のフェルトシューズを履いた人も滑っていたから、グリップは同程度かもしかしたらこちらの方が上である。
 こういう岩ではゴートフェルトが最強であると聞くが、履いたことがないのでよく判らない。
 少なくとも足元に不安は感じなかった。

 特筆すべきは雲の平から薬師沢への下りである。
 この道は急傾斜なうえに苔生して非常に滑りやすい岩がゴロゴロしていて、行ったことがある人ならお判りかと思うが、体力以前に非常に神経をすり減らす道である。
 この日のパーティーは登山靴組と沢靴組に分かれていたのだが、登山靴組は非常に時間がかかっていた。沢靴組がどうしても先行してしまうので時々休憩しながら待つのであるが、たった30分ほどの行動の間に10分以上の差が付いてしまうことも。
 フェルトシューズだと登山靴よりはぜんぜんマシなのであるが、それでも苔生した岩はツルツルに滑るので尻を落として手を使ったりしながら降りてくるような道である。
 それをこの奥利根AQUAだと普通にポンポンと飛び石伝いに降りてこれるのである。これは無敵だ。

 雲の平からの下りでこのアクアステルスソールが無敵であることは、去年高天原から雲の平を経由して薬師沢に降りた時に判っていたのだが、その時の靴とは違い、今度の靴は足首にもそれなりのサポート性があるので、まさに無敵であった。

 なお、靴下だが、今回は普通のソックスを薬師沢小屋にデポしたので、再び薬師沢に帰ってくるまでの5日間の行動は、全てネオプレンソックスを履いて行動していた。
 一般登山道をネオプレンソックスを履いて行動するといかにも暑苦しそうで心配していたのだが、今回使った薄手(1mm厚)のネオプレンソックスは意外に平気だった。1日行動すると足がふやけていたが・・・
 この5日間で足を水に入れなかった日は高天原での停滞日と最後の高天原〜薬師沢の移動日だけだったのだが、靴が濡れているので結局足はふやけてしまうのだった。
 これが通常の2mm厚のネオプレンソックスだと、かなり暑苦しそうなのだが・・・

 というわけで奥利根AQUAと1mm厚のネオプレンソックス、かなり無敵のコンビである。少なくともここら界隈(黒部源流地域の山々)を歩くのなら、もうこの組み合わせ以外は必要ない、とすら思う。一般登山道ではほとんど全ての面で普通のトレッキングシューズより勝っている。

 数少ないこの靴の弱点は、ひとつ目は当たり前なのだが「防水性能はゼロ」という点である。濡らすための靴なのだから当然なのだが。
 なので沢だけでなくちょっとした水たまりを通過しても浸水する。雨の中を歩いても浸水する。
 ま、それならもう最初からネオプレンのソックスだけで行動するのもありかも。浸水して何が困るかというと、靴下が濡れて不快だし靴擦れの原因になるし、また足が冷えてしまうということなのだが、ネオプレンのソックスだと不快にはならないし(却って濡れていた方が気持ちいいくらい)靴擦れの原因にもならないし、足も冷えない。
 ぐしょぐしょに濡れても、一晩乾燥室に干しておけばカラカラに乾く。でも靴は乾かないから同じ事なのだが。

 2つ目の弱点は衝撃吸収性能である。もとより沢靴にそんなものを期待する方がおかしいのだが。
 一般のトレッキングシューズと比べると、ソールが薄く、特に踵の部分が低いので履き始めは少し違和感がある。一応ミッドソールに薄いEVAが使われているようなのだが、それでもトレッキングシューズと比べると衝撃吸収性能はゼロに近い。なのでトレッキングシューズの代わりにこの靴で山を歩くと、少々疲れやすくなるかも知れない。
 というか、最近のトレッキングシューズの衝撃吸収性能がすごすぎだということに今さらながら気づかされた。それだけ履いていると判らないものだが、よく考えると昔の登山靴なんてミッドソールなんて代物はなく、衝撃吸収性能は掛け値なしのゼロだった。
 なので、まあちょっと昔の靴と思えばぜんぜんOKである。もとより沢ではソリッド感が命なので緩衝剤なんて無用である。

 そんなわけなので、私にとってはこの靴、少なくともこの界隈の山では唯一無二の靴である。これ以外の靴を履いて黒部源流をほっつき歩く気はしないほどである。

 と・こ・ろ・が・・・

 キャラバンであるが、1mm厚のネオプレンソックスが早々と生産中止になってしまったようだ。ショックである。
 1足しか買ってないのだ。これがダメになってももう買えないかも知れないのである。厚手のネオプレンソックスだったらキャラバンよりモンベルのものがモノが良さそうなのでそれを買うしかないのか?でも暑苦しそう・・・

 さらにもう既に廃番になっている水無である。この靴、ソールを手でバリバリと剥がすことができ、自分で張り替えることができるのが売りだったものである。そしてフェルトソールの他にビブラム様のラグソール、さらにアクアステルスソールが替えソールとして販売されていた。
 7月の連休に薬師沢に入った時、イワナの会のメンバーと会ったのだが、彼らは全員この水無にアクアステルスソールという組み合わせだった。やはりこれで入下山から釣りまで1つで済ましていた。
 ところがこの売りである替えソール、ラグソールとアクアステルスソールが生産中止になってしまったらしい。彼らは慌ててアクアステルスソールをあちこちのショップで買い占めに走っているそうな。
 そんなわけでこの水無ただの高い沢靴になってしまった。替えソールがフェルトしか手に入らないのでは、こんな高い靴を買った意味がなかろう。

 水無が廃番になったのは仕方ないとしても、そのパーツまでを廃番になった翌年に生産中止にしてしまうのはあんまりである。やる気あんのか?>キャラバン

 どうも水無の替えソールと言い、薄手ネオプレンソックスと言い、キャラバンは信用できないメーカーという印象が強くなってしまった。
 こうなるとこの奥利根AQUAもいつまで生産されるのやら。それよりソールの交換はちゃんとしてくれるのか?2年後くらいにソール交換時期が来て、その時に「もうありません」なんて言われたら、私、怒り狂うよ。

 そう言う点では、買った後のアフターが安心できるモンベルあたりがこういう靴、作ってくれないかな〜と思う今日この頃である。
 作ってくれたら乗り換えます。

 

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