Osprey Variant 37

 

 日帰りや数日までの小屋泊まりの山行には、未だにオスプレーのエクリプス42の出動率が最も高い。家族でのテント泊でもサブ行動ではこのザックを使いたいのでパーティーにエクリプスを入れるくらい。
 エクリプスは重量バランスが素晴らしい、無造作なパッキングが可能、荷物が少ないときのバランスの崩れがほとんど皆無、傘やストックは言うに及ばず大型のスノーシューまで難なく飲み込む正面ポケットの存在など、美点を挙げればきりがないザックなのだが、いくつか欠点もあるのだ。

 まずザック自体の重量が重い。40Lクラスで2kgを軽く越える重さは、今の水準では重いと言わざるを得まい。
 でもこれ、生地の頑丈さに由来しているとすれば、私にとっては欠点でも何でもないのだが。スノーシューやストック、時にはアイゼンやヘルメットを無造作に放り込んで数年使い倒しても型くずれの気配も見せない丈夫さは、生地の厚さのおかげだろうさ。

 ただ、もうひとつの欠点の方はやや深刻である。

 それは、ずぶ濡れになるとやたら重くなる、ということである。
 分厚い生地中に含む水の重量もあるのだろうが、それは全体として微々たるものだろう。問題はショルダーハーネスやウエストベルト、それに背面パッドが水を含むのである。かなり分厚いパッドなのだがスポンジ状のものなのでかなり水を含む。土砂降りの中で1日歩いたとき後など、笑ってしまうくらい重くなる。

 まあ元々スキーツアー用のザックなので「水に濡れる」ことはあまり想定されていないのは仕方ない。
 が、沢登りには決定的に向かないザックである。向くはずもないのだが。

 まあ、赤木沢程度の沢でなら別にザックなど何だって良いのだが、やはり使いにくいことには変わりない。
 かといって、ドライバッグにショルダーベルトが着いたような沢登専用ザックはあまり買う気になれない。他の用途に使いにくそうだもの。

 クライミング用のザックが一番汎用性が高いので(なんせハイキングに使ってもそんなに不便でもない)、何か欲しいなと思いつつけっこう後回しになっていたのである。
 たまにヒットするのはあるのだ。マムートのやたらめったら頑丈そうな35Lの1本締めザックとか。おお、欲しいなと思っても高くて手が出なかったり(だいたいマムートは高過ぎ)、機能的には良いと思ってもデザインが気に入らなかったりして、たまたまその時に金がなく見送ったのが廃版になってしまったり、なかなか縁がなかったのであった。

 このバリアントは出たときから気になっていたのだ。
 この前モデルのセレスも好きだった。欲しいな〜買おうかな〜と思っているうちにセレスは廃版になってしまい、代わりに出たバリアントがさらに好みだった。いいな欲しいなと思いつつ2年ほど経ったわけだが。

 ところが今年の春に薬師沢小屋に入る前にうちに寄っていった景子ちゃんが「沢用になんか良いザック、ないすかね〜」なんて言っていたので、このバリアントを勧めてみた。これが良いんじゃない?って。
 んで秋に小屋から降りてきた景子ちゃんに「ザックはどうした?」って聞いたら買ったんだって。このバリアントは37と52の2モデルがあるのだが、どっちを買った?って聞いたら、何と両方買ったと。なんだと〜?

 確かに両方欲しい。37は日帰りや小屋泊まりの沢やハイキング、52はテント泊に普通に使える容量なので、そりゃ両方欲しい。しかしいきなり両方あっさり買うか??小屋のバイトあがりで金持ってるからか・・・くっそぅ・・・

 で、景子ちゃんが両方買った、というのに負けてられるか、と物欲に火が付いたのだった。

 それで37と52のどちらを買うか。これが問題である。37だと薬師沢に遊びに行くときはエクリプスを完全に置き換えることになるだろう。また52はテント泊で使っているモンベルのアルパインパック60を置き換えることになると思う。どちらも買えば稼働率が高いザックになることは予想できる。
 さらに、ウエアでもそうなのだが道具を買う、というのは「この道具を買って何ができるか」という夢も一緒に買うことである。
 夢って言えばちょっと大げさだが、バリアントの52だったらちょい難しめの沢中泊がある沢に持って行っても便利だろうなぁ・・なんて考えてしまうわけである。沢中泊、昔はさんざやってアブやヒルに悩まされたりもしたのだが、今となっては良い思い出しか覚えてないし。そんな機会があれば楽しいだろうなぁ・・などと。

 で、好日山荘で37と52を見比べながら散々迷っていたわけだが。

 しかしちょっと待て。

 52の方は、どうしてもこれがなければ手持ちの他のザックで代替えが利かない、というものではない。沢中泊がある沢だって、今持っているアルパインパック60で何が悪いんだ。バリアント52の方が使いやすそうではあるが、アルパインパックでも十分何とかなる。薬師見平だってこれで行ってきたじゃないか。
 でも、日帰りや赤木沢にエクリプスではかなり不便だ。代替えの切実度から言えば37の方が冷静に考えて圧倒的である。

 というわけで、好日で1時間くらい悩んだ挙げ句、37の方を買った次第である。金があれば両方買うんだけどね〜。

 余談だが金ならないわけではなかった。ナイフブレードを買ったじゃないか。あの金があれば両方買うことなど造作もなかった。
 が、ナイフブレードのページで購入したいきさつを詳しく書いたが、パタゴニア社の方で手配してくれたからなぁ。この場はナイフブレードを買うしかあるまいよ。
 これ、もしパタゴニア社が「申し訳ありませんがどうにもなりません」みたいな回答をよこしたら、ナイフブレードはキャンセルしてバリアントは両方買うつもりだった。
 ま、何がうちに来るかは縁だから。

 この話を好日の店員さんにしたら、「ああ、ということは結局どちらに転んでもうちの売り上げになったということですね」と喜んでいたが、そのとおりだよ。
 土壇場でチャリのビンディングシューズなんぞを買っていたかもしれないが。これも今のはかなりボロになっているので新しいのが欲しい。4万円そっくり好日には行かなかったかもしれないぞ。

 

Osprey Variant37

オスプレー バリアント37

 

 というわけで前置きが長くなってしまったが、オスプレーのバリアント37である。
 水を含まない背面パッドやショルダーベルト、大型のスノーシューはさすがに無理そうだがヘルメット程度なら無造作に突っ込んでおける正面ポケット、さらにこの正面ポケットは他の生地より丈夫な造りでアイゼンも短時間ならむき出しのままで無造作に突っ込んでおけそう。空身で上がって後でザックだけを引き上げるときのための3点のループなど、沢にも有効な仕様満載である。荷揚げなんて沢の方が使用頻度が高いのでは。

 1つだけ気になるのは、スキー用のホルダーテープがザック下部の両サイドにあるのだが、これはヤブ漕ぎでは木などに引っかけそうな気がする。何か対策が必要かも。

 あまりにクライミングに特化しすぎていて「余計なモノは全て削ぎ落としました」みたいな仕様だと、他の用途に使ったときの不便さも倍増するので汎用性がなくなるのだが、そのあたりはこのザックは行き過ぎていないところが良いんだな。
 クライミング専用、みたいなザックだとトップリッド(雨蓋)の上に何もなくてのっぺらぼうなモノが多々あるが(同じオスプレーでもミュータントがそうだし、ブラックダイアモンドは全体的にトップリッドはのっぺらぼう)、ここにストラップ付けてアイゼンをくくりつけたり、というのは昔は定番のアイゼン装着法だったはず。アイゼンはストラップじゃなくてゴム紐でなければならん!!と断言する人もいたが。その人は冬山合宿でトップリッドにストラップでアイゼン付けている人がいれば、その人は合宿には参加させずにその場で帰宅させる、とのたまっていたが・・・本当だろうか?

 ま、トップリッドのストラップはクライミングだけを考えればなくても良いし邪魔だろうから、なくしてのっぺらぼうなトップリッドにするのも良いのだが、汎用性はそれだけ落ちてしまう。
 そのあたり、このバリアントのストラップホルダーだけ付いていてストラップそのものは付いていない、という設定が絶妙で「判ってやがんな〜」と思ってしまうポイントだったりする。アイゼンはゴム紐でなければならない!!と主張する人はゴム紐を買ってくればここにアイゼンを装着できるわけだ。
 ゴム紐、やってみると意外に便利なんだけどね。ハイキングの時もウエアを挟んでおけるし。ストラップでも良いのだが、ゴム紐の方が無造作に扱えるのがポイントである。まあ買いかぶりかもしれないが。

 クライミングやバリエーションルートの経験があると、どうしてもシンプルな構成のザックを好むようになってしまうのだが、あまりにシンプルだと用途が限定されてしまう。というより昔の超シンプルなアタックザックだって、ワカンやアイゼンを着けるのにけっこう苦労していたのだが。
 そういう点では、このザックは割と絶妙な設定が気に入って欲しかったザックなのである。

 沢、行きてぇ〜。

 

 

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