靴を買い換えた

 コールマンの安物トレッキングブーツがそろそろ限界となってきたので、「トレッキングブーツ」を買おうと思った。
 だが・・・どうもこのクラスの靴って物欲が湧かない。必要かなぁ〜、仕方ないなあ〜って感じで、あまり積極的に「欲しいっ!」と思わないんである。ま、この手の靴が対応するのは「普通の登山」であり、そういう普通の登山ってあまりしないから、なんだろうけど。
 黒部源流地域に入るときは、「奥黒部スペシャル」とも言うべき奥利根AQUAがあるので、普通のトレッキングシューズって出番なしである。春先や秋の低山ハイキングだと、靴なんてなんだってOKである。
 となれば、年に一度の立山縦走くらいしかトレッキングブーツには出番がない。うーん、あまり必要じゃないな〜。

 買おうかなと思ったのは、実は10月の薬師岳がきっかけである。この時にはガルモントのマウンテンライトを履いていったのだが、なんせ辛かった。いや、上の方の岩稜帯とかでは歩きやすくて良い靴だと思ったのである。でも、太郎から下の石畳の道木道がとにかく歩きにくくて辛かった。元々アイゼン履いてなんぼの靴であるから、木道が歩きにくいと文句を言われても心外だろうけど・・・

 そんなわけで、あまり気が進まないながらも1足買うか、という気になっていたのだが、予算は2万円ほどである。物欲があまりそそられない買い物にそれほど金をかけるわけにはいかないのであった。

 

 ま、そんなわけで好日山荘でいろいろ試し履きをしていたわけである。
 予算が予算なので、あまり選べない。
 その中で狙っていたのは、スカルパゼログラビティーであった。このシリーズ、最も安い65が約18000円で、上に40と10という2モデルがあり、それぞれ5000円ずつ高くなっていくというモデル構成である。
 65と40はアッパーの素材(ナイロン・スエード)による違いが主なようだが、最上級モデルの10はソールの堅さなども違うらしい。

 ということで40は早々と候補から落ちた。靴としての機能はほぼ変わらず、単に高いだけだから。
 ま、最もデザインとかも考慮に入れれば40は価格と機能と格好良さのバランスは非常に良いモデルかとは思うが、なんせいちいち選び方が投げやりなのだ。
 履いてみた感じは、65はちょっとペナペナ感が情けない。というのは、この手の靴にしてはソールが非常に柔らかめなのである。手で曲がるくらいの設定なので、履いた感じはかなり柔らかい。その分歩きやすいとも言うが。
 でも実はその時は、サイズがなくて1サイズ大きめの靴で試し履きしていたのだ。後日入荷した適正サイズを試し履きすると印象は一変した。
 相変わらず非常に柔らかいのだが、少なくとも1サイズ大きい靴を試し履きしたときに感じた安っぽいペナペナ感はない。なのでその柔らかさもどちらかというと「歩きやすい」という好印象にシフトする感じである。
 たぶん、ソールの屈曲ポイントの位置などが、設定したサイズどおりでないと微妙にずれたりするのだろう。よって大きめのサイズを履いたときには、自分の足の屈曲ポイントとソールの屈曲ポイントが違うため、足との一体感が得られずに、「単にペナペナ曲がるだけのソール」という印象を受けてしまうのだろう。
 まあそんなわけでゼログラビティー65はまず候補落ちした。良い靴なのかもしれないが、トレッキングブーツと言うよりは高級ウォーキングブーツといった設定である。

 ゼログラビティー10は良い靴だと思った。ソールは65とは異なり、非常にしっかりしている。なんだか普通の登山靴っぽい。
 履いた感じは良いなと思ったのだが、いかんせん予算オーバーである。トレッキングブーツにそこまで出す気はさらさらないのであった。

 その他にもモンベルのタイオガブーツも履いてみた。ソールはかなり堅い。こんなローカットのハイキングシューズになんでここまで、と思うくらい堅い。その割にはローカットで足首が比較的自由に動くので、歩きにくいとは感じない。絶妙と言っていいのかどうか・・・

 ああ、やっぱりこのクラスの靴には「欲しいっ!」と思うようなものがないなぁ・・・と思っていた私の目に、とある靴が飛び込んできた。
 値札は35000円を越えているので、遙かに予算オーバーな靴である。
 そのモデルとは、ハンワグのクラックセーフティGTXである。実は前々からちょっと気になっていた靴なのであった。

 話は去年(H16年)の春に遡る。
 ハンワグとローバーと輸入しているタカダ貿易の営業が好日山荘に来ていたとき、たまたま私が居合わせたのだった。
 その時タカダ貿易が持ってきていた靴が、エクスプローラーGTXという靴であった。この冬から販売予定のニューモデルで、この頃から流行始めていた「布製の冬靴」である。
 ちょっと履かせてくれと試し履きしてみたのだが、ガチガチのソール、臑まであるハイカットな靴の割に、非常に歩きやすく何より軽いことにちょっとした衝撃を受けていたのだった。ソールの爪先の曲げ具合とか、すごく微妙なことで劇的に歩きやすくなるのである。その頃はガルモントを買って間もない頃だったので、まさか即買い換えるわけにもいかなかったのだが、内心「しまった・・」と思ったことも事実であった。

 で、そのハンワグが今年になって出したのがクラックセーフティである。見た感じ、エクスプローラーをもう少しローカットにして、ライニングをゴアテックスに替えたモデル、という感じである(エクスプローラーのライニングはゴアテックス+シンサレート)。
 なら、これはおそらく履いたら物欲で卒倒しそうなくらい、私のツボにはまる靴に違いない。
 なので気になりつつも今まで無理に無視していた靴なのであった。

 それを履いてしまった。履いたら案の定、ツボにはまってしまった。もうこれを買うしかありません。
 というわけで買ってしまった。予算が足りない分はガルモントを売ってあてた。

ハンワグ クラックセーフティGTX

ハンワグ クラックセーフティ GTX

 この靴はソールはガチガチなのだが、ソールの微妙な形状のおかげで意外なほど歩きやすい。ガルモントは平坦な場所(店内の床とか木道とか)がロボットみたいな歩き方になったのだが、この靴は極めて普通に歩ける。アッパーも布なので決してガチガチに堅くはないのだが、ホールド感はしっかりある。足首のカットもやや深めだし、幅もワイドなのだがシリオやキャラバンのトレッキングシューズよりはややタイトで、そのためホールド感というかフィット感が非常にある。
 ヒールにはコバが付いているので、セミワンタッチ式のアイゼンなら装着可能である。爪先にはコバがないので、ワンタッチ式アイゼンは装着できないのだが。
 そして靴自体が非常に軽い。片足770gということだが、持った感じ、そして履いた感じは下手な「軽量」を謳うトレッキングシューズより軽い。
 フィット感が強いこともあって履いた感じの「軽さ」はまさに抜群である。

 またソールが堅くアイゼン対応なので一般ルート外の傾斜の強い雪渓にも強く、岩稜にも強い。ちなみにこの靴のソールは爪先部分だけ「クライミングゾーン」とかでゴム質が違う。柔らかめのグリップが強いゴムを使っているようである。
 さすがに保温性から厳冬期は辛そうだし、シビアなアイスクライミングにもちょっと辛そうである。
 つまりこの靴、一言で言うと「剱岳スペシャル」という感じの靴だ、と思った。厳冬期を除いてスリーシーズンの一般ルートからバリエーションルート、クラシックルートでの岩登りまでこの靴1足あれば快適にこなせそうである。

 ちょっと調べてみたら、このクラックセーフティのようなタイプの靴は、この2〜3年の間に出てきたカテゴリーのようである。
 最近、靴の分類がますます細分化される傾向にあって複雑怪奇になっているのだが、とりあえず登山靴をトレッキングシューズとアルパインブーツに分類し、それぞれをライトとヘビーにまた分類すれば、このクラックセーフティのような靴はライトアルパインブーツに分類されることになるのだろうか。
 つまりアイゼン対応なのだが軽量で、何よりトレッキングシューズ並みに歩きやすいというジャンルの靴である。剱岳スペシャルである。

 このジャンルの靴って、他にはガルモントタワーGTX2ケイランドスーパーロックとかあるいはマルチトラクションスーパートレックもかな?
 別に決してすっきり分かれているわけではないので分類も難しい。シームレスに繋がっている感がある。
 例えば、ケイランドマルチトラクションヨーロッパアルプススペシャル靴だという定評がある靴なので、ライトアルパインに入れたものかヘビーアルパインに入れるべきものか、ちょっと判断に迷う。
 またハンワグだとマウンテンライトGTXの立場はどうなるのだとか。堅めのソールで雪渓や岩稜も歩きやすい靴は「トレッキングシューズ」に分類されているような靴にもけっこうある。ここでライトアルパインに区分した靴との違いはワンタッチアイゼンやセミワンタッチアイゼンが装着可能かどうか、という点くらいのものである。つまり、「ヘビートレッキングシューズ」と「ライトアルパインブーツ」の境界線も不明瞭なんである。

 そう言う意味では靴選びって今は難しくなってきている 、と思う。その分面白いのだが。

 ほんとは分類なんてどうだっていいと思うのだが、ちょっと気になるのは雑誌などもけっこう混乱している様子が・・・

 例えば出たばかりのヤマケイJOY2005年冬号に雪山の道具(主に足回り)選びが書かれていて、「初級編」と「中級編」に分かれている。低山と中級山岳で分けているようなのだが、そこに出てくる靴のピックアップにはちょっと疑問があったりする。

「初級編」でピックアップされているモデル一覧
メーカー モデル名 価格 アッパー素材 ライニング アイゼン HP

アルモンド

アオスタ

\30,450

カーフ

イワタニプリムス

シリオ

712-GTX

\39,735

ゴアテックス・デュラサーモ

ワンタッチ

シリオ

コロンビア

アイスドラゴン

\17,640

革+ナイロン

オムニテック+シンサレート

コロンビア

ケイランド

スーパートレック

\36,750

革+ナイロン

e-ventプルーフ

セミワンタッチ

HUMMIX

ガルモント

モンタナGTX

\39,900

ゴアテックス

キャラバン

ローバー

チベットGTX

\39,900

ゴアテックス

タカダ貿易

ボリエール

アサン

\30,240

シンパテックス

ワンタッチ

ロストアロー

ハンワグ

クラックセーフティ

\38,325

革+ナイロン

ゴアテックス

セミワンタッチ

タカダ貿易

スカルパ

サミットGTX

\51,450

ゴアテックス・デュラサーモ

ワンタッチ

ロストアロー

 

「中級編」でピックアップされているモデル一覧
メーカー モデル名 価格 アッパー素材 ライニング アイゼン HP

シリオ

P.F.770-GTX

\40,425

ゴアテックス・デュラサーモ

セミワンタッチ

シリオ

ケイランド

MXT

\36,750

革+ナイロン

プリマロフト

ワンタッチ

HUMMIX

ガルモント

トップイージーGTX

\38,850

ゴアテックス

ワンタッチ

キャラバン

ローバー

クリスタロGTX

\51,450

革+ナイロン

ゴアテックス+断熱材

ワンタッチ

タカダ貿易

ボリエール

パミール

\36,750

シンパテックス

ワンタッチ

ロストアロー

ハンワグ

エクスプローラー

\48,825

革+ナイロン

ゴアテックス+シンサレート

セミワンタッチ

タカダ貿易

スカルパ

リスカムGTX

\41,790

ゴアテックス

ワンタッチ

ロストアロー

 

 それぞれ靴のページの隣にアイゼンなどが紹介されているのだが、「初級編」では6〜8本爪、「中級編」では10〜12本爪が主体である。
 また、コース紹介もされているのだが、「初級編」では榛名山や大阪の金剛山といった1000mそこそこの山、「中級編」では北八ヶ岳上州武尊山が紹介されている。

 靴だけでなくアイゼンやピッケルなども含めた用具紹介は、とあるアウトドアショップが監修しているのだが・・・なんだかおかしいぞ。
 特に「初級編」は、コロンビアのアイスドラゴンのような防寒靴っぽいモデルからローバーのチベットGTXのような高級トレッキングシューズ、はたまたスカルパのサミットGTXのような本格的な冬山用モデルまで、これだけで「初級編」から「中級編」までクラス分けできそうなくらい幅広いモデルがピックアップされている。
 「中級編」も、シリオの770って、初級編でピックアップされた712GTXと同じクラスのモデルだと思うし、それはボリエールのアサンとパミール、スカルパのリスカムとサミットも同じである。むしろサミットGTXはライニングにデュラサーモを使っている分、リスカムより仕様は上である。というか現在はリスカムが廃番になっているようなので、サミットがリスカムの後継機種なのではないか?
 なんかカタログからよく考えずに適当にピックアップしただけ、という気もしないでもないが・・・
 それとも、このショップに行って「この冬に金剛山に登ろうと思うんですけど、どんな靴が必要ですか?」と聞いたら、5万円もするサミットGTXを売りつけられるのだろうか?

 そのサミットGTXであるが、などはカタログに「2000m級までの冬山に対応」と書かれているのだが、この構成で厳冬期の3000mに行くのに何が不足なのかよく判らない。ゴアテックスに保温材までライニングされた靴で冬の3000mに対応していないのなら、たいして保温性もない革1枚の靴で厳冬期の穂高に登っていた我々はいったいなんなんだ。まあ油断するとすぐ凍傷になったが・・・

 昔は「軽登山靴」と「重登山靴」の2種類しかなく、重登山靴1足あれば夏の六甲から厳冬期の北アルプスまで、これ1足で行ったのである。
 その感覚からすると、ゴアテックスデュラサーモで保温材まで入っている靴が、なぜ「2000m級までの冬山に対応」なのかがさっぱり判らない。保温性能は昔の重登山靴より圧倒的に上だぞ。
 買ってきたばかりのクラックセーフティを見ていても、確かにこんな薄い布1枚の靴で厳冬期の3000mに行こうとは思えないが、でも昔の重登山靴と比べて保温性能はほとんど変わらないと思う。
 現にハンワグのカタログではこの靴の対応気温は-10℃である。昔の重登山靴もそんなものじゃなかったのか。
 ま、厳冬期では冷たいし油断すると凍傷にもなったが・・・でも誰も「この靴では厳冬期の北アルプスには対応してません」と忠告してくれなかったぞ

 要するにメーカーの方でも分類が曖昧というか、メーカー毎に基準が微妙に違うのである。

 ま、選び方も難しくなっているわけである。これだけいろいろな設定でいろいろなモデルが出ているわけだから。ショップの人も生半可な知識では太刀打ちできまい。

 

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