防水性ソフトシェルって?

 ノースフェースのカタログを読むで「ゴアテックス・ソフトシェルってなんじゃい」と言う意味のことを書いたのだが、ちょっと調べてみたらノースフェイスだけじゃなく、マウンテンハードウエアマニューバージャケットとか、他からもちゃんと出ている。それになにしろゴアテックス社のサイトでゴアテックスRソフトシェルというのが出ているので、そういうものがあるのだろう。
 正確には、「ゴアテックス®ソフトシェルを名乗る契約」なるものがあるのだろう。もう騙されないが、メンプレンそのものはおそらく同一である。ソフトシェル用に防水性を保ちながら透湿性が素晴らしく向上したようなメンプレンが開発できたら、さっさとハードシェル用に使えばいいのだ。性能値でアウトドアウエアメーカーオリジナル素材に肉薄されている現状、性能値が劣るものを供給する意味などなかろう。

 さて、ジャパンゴアテックス社のサイトを注意深く読んでいるうちに気づいたことが2つある。どちらも「言葉の定義」のようなものだが。

 1つは、「メンプレン」「ファブリック」の違い。
 これはまあ改めて並べると別に指摘されなくても理解できると思うが、メンプレンとは表地も裏地も張り合わせていないゴアテックス素材そのものの状態のことで、ファブリックとはナイロンやポリエステルなどの生地(希にデニムとかのゲテものもあるけど)にラミネートした状態の「生地」である。つまり表地や裏地が付けられた3レイヤー地や2レイヤー地のことである。

 ここまではすんなり理解できる、というか別に指摘されなくてもそのくらいの区別は付いていると思うのだが、ポイントは、「ゴアテックスXCR」とか「ゴアテックス®ソフトシェル」とか言う場合、これはファブリックのことなのである。
 つまりこの時点で、ノーマルのゴアテックスもXCRもソフトシェルも、製品状態での生地のことを言っているのであって、中にラミネートされているメンプレンは同じもの、ということが自明の理なのである。

 つまり、ゴアテックスの解説記事でよく言われる「ゴアテックスにはノーマルとXCRの2種類がある」というのは、厳密には間違いである。メンプレンそのものは同じで、「生地」にしたときの性能値(透湿性能)でXCRタグが付くか付かないかが分かれているだけなのである。
 例えばモンベルのドロワットパーカのようにシンサレートの中綿が入っている生地だと、その中綿が抵抗になって透湿性能がシンプルな3レイヤーより落ちるので、XCRタグは付かない、というわけである。
 また、「素材」という表現をよく見るが、この時メンプレンかファブリックのどちらを指して言っているのか、書いている方もちゃんと区別していないことが多いように見受けられる。

 ちなみにラミネートする表地や裏地は、それぞれのウエアメーカーが独自に開発している生地なので、別にゴアテックス社が3レイヤーの「ゴアテックスXCRのファブリック」を供給しているわけではないだろう。XCRのタグを付けて良いよ、って言ってるだけである、たぶん。

 つまりつまり「ゴアテックス®ソフトシェル」もおそらく同じことなのである。
 全体にある程度高度なストレッチ性を持たせ、裏地に起毛地を貼り合わせて「保温性」あるいは「吸汗性」等の性能を付加させたファブリックに対して、「ゴアテックス®ソフトシェル」のタグを付けることを許可する、ということなのであろう。

 あんまり好きなやり方じゃね〜なぁ〜。

 

 ぱっと目にはすごく画期的なウエアに聞こえる。「防水性を備えたソフトシェル」とは、いわば理想のウエアだからだ。
 でも思い起こせば、そもそもソフトシェルというジャンルが出現した理由とは、「防水性能」「快適さ」を両立させることが不可能だったからなのではなかったか?だから防水性能をトレードオフさせる代わりにシェルとして最低限の防風性を確保したうえで伸縮性や透湿性を向上させたウエアが登場して、それがソフトシェルと呼ばれるようになったのでは?

 「快適さ」のうち、伸縮性はまだなんとかなるにしても、透湿性能だけはいかんともしがたい。なんせゴアテックスの透湿性能はあまりにタコなのである。というと語弊があるが、だからこそソフトシェルが出現したわけである。

 それがなんで今さらソフトシェルにゴアテックス?と思うのは私だけだろうか?
 少なくともソフトシェルとしての重要性能のひとつである透湿性は、幾多のソフトシェル製品群の中で最低であることは保証されてしまっている。
 あとは裏地にフリース地などを貼り合わせると保温性は向上しそうである。でも、まともなアルパインウエアとしては使い物になるまい。保温性はレイヤリングで調節するのが長年に渡って培われてきたノウハウではなかったのか。

 まあ小屋などからすぐ近くにあるアイスクライミングのゲレンデくらいでしか使い物にならないウエア、という気がひしひしとするが・・・

 他にも技術的に難しいのでは、と思うのは、単に裏地にフリースなどの起毛地を貼り合わせただけでは、ゴアテックスが持っている最低限の透湿性能すら発揮できそうにない、ということである。
 つまり、アンダーウエアは吸った汗を拡散して表面に放出して水蒸気にしているわけで、それで初めてゴアテックスがその水蒸気を表に放出してくれるのである。汗が汗のままだとゴアテックスはもちろん放出できない。
 なので起毛地が単に貼り合わせてあるだけだと、「水蒸気に拡散する」ことができないため、ただでさえ低い透湿性能はさらにガタ落ちである。
 ま、メーカーとしてはさすがにそのあたりは工夫して、少なくとも旧世代のゴアテックス並みの透湿性能は確保していると思うのだが・・・

 まあそんなわけで、ゴアテックス®ソフトシェルそのものに非常に懐疑的である。しょせんゲテものという感じがひしひしとする。

 付け加えれば「防水性ソフトシェル」という言葉自体に、怪しげなモノを感じる。そんな画期的なモノができれば、そもそもシェルをハードとソフトに分類する必要はなくなるのである。将来は何か画期的な素材が出てきてそういうものができるのかもしれないが。

 ちなみに記憶する限り、「防水性ソフトシェル」という製品が出てきたのは、2年ほど前のマウンテンハードウエアシンクロジャケットが最初だったように思う。このウエアは同社オリジナル素材のコンデュイットを使ったウエアなのだが、そのコンデュイットの性能値や詳細がよく判らないので、このシンクロジャケットがどんなウエアなのか、まだよく判らない。ま、ゴアテックス®ソフトシェルを使ったウエアなら、どの程度のものかかなりイメージできてしまうのだが・・・
 なのでシンクロジャケットはちょっと興味があったりする。デザインはいまいちよく判らないのだが・・・

 

 余談になってしまったのだがもうひとつの「言葉の定義」とは、「防水性」「耐水性」という言葉についてである。

 少なくともゴアテックス社のサイトの中で「防水性」という言葉を使う場合、それはレインウエアとして使用できる程度の性能を有していることを示す。言い換えればストームレベルとか。
 それほどの性能を有しない場合は「耐水性」という言葉を使っている。例えばゴアウインドストッパーは「耐風性とある程度の耐水性を備えた素材」ということである。

 この使い分けは、注意して読むとモンベルパタゴニアでは非常に厳密に区別されている。
 例えばパタゴニアのソフトシェルのページでは、決して「防水性」という言葉は出てこない。CSSという、生地を溶着させることによって「縫い目」をなくした製法があるのだが、その利点として「耐水性の向上」ときっちり書かれている。つまり浸水の原因となる糸や穴がないから、生地の貼り合わせ部分も生地そのものと同じ耐水性を確保している、という意味である。

 そのあたりはノースフェイスのカタログが非常にいい加減である。明らかに防水性と耐水性を区別して表記していない。というより、耐水性という言葉は使っていないので、どちらも「防水性」という言葉を使うことになっている。読む方に注意が必要である。でないとアコンカグア・オプティマスジャケットはレインウエアとしても使える、なんて大誤解をしかねない。

 ま、防水性と耐水性の言葉の使い分けなんて、ゴアテックス社を始めとするいくつかのメーカーで厳密にされているだけで、別にノースフェイスがそれに従わなければならないというわけではない、というのも一理なのだが、少なくとも登山用ウエアにおいてその性能のひとつとして防水性能は非常に重要なファクターである。その性能のレベルを示す既存の使い分け方があるのにそれを使わない、というだけならまだしも、使い分けてすらいない、というのは・・・あまり好きにはなれんな。

 だからこの「防水性ソフトシェル」という言葉にしても、この意味の防水性という言葉だから画期的なのである。耐水性と同じ意味なら別に今さら断らなくても、全てのソフトシェルは多かれ少なかれ耐水性能について考慮されている。


05.12.11更新

 とまあここまで書いたのは、何を隠そう前振りだったのである。
 つまり、1着買ってみたわけである。防水性ソフトシェルを謳うウエアを。

シンクロジャケット

マウンテンハードウエア シンクロジャケット

 買ったのはマウンテンハードウエアのシンクロジャケットである。定価は23000円だがオークションで買ったのでもっと安い。

 さて、このジャケットはコンデュイットというマウンテンハードウエア(MHW)オリジナルの防水透湿性素材を使ったソフトシェルである。このコンデュイットという素材がどういう代物でどの程度の性能を持っているのかは、メーカーが公表あるいは宣伝していないのでよく判らない。まあ同社のレインウエアや冬山用ジャケットにも使われているくらいだから、まあ並の性能はあるんだろう。

 このウエアの特徴は、外側に張り巡らされたシームテープである。防水性ウエアには必須の装備であり、またこのウエアは内側は薄手のフリース地であるからシームテープ処理を施しにくい、ということで外側にシームテープ、ということになるのだろうが・・・
 だが、よく見てみるとフロントファスナーのフラップの取り付け部、袖の外周、裾周りにも縫い目があるのだが、これらの縫い目にはシームテープは施されていない。このシームテープ、しょせんはデザイン上のアクセントの域を出ないような気がする。
 また、両側の腰ポケットと胸ポケットのファスナーは止水ジッパーなのだが、肝心の前立てのジッパーが止水ではない普通のジッパーである。そのフラップも短いのが付いているだけなので、雨の中を行動するとまず確実にここから浸水する。

 まあ防水性の素材を使いながら、それを生かす造りではないところがもったいない。内側はフリース地なのだが最小限の厚さで使いやすそうな設定だけに惜しいと思う。これを着て激しい運動をしたら蒸れそうではあるが・・・

 防水性以前にジャケットの仕様として問題があるところを。

 まず丈が短すぎる。両腕を上げれば裾が上がって腹が出るくらいの長さである。「アイスクライミング等に対応」とのことなのだが、これを着てアイスクライミングをやったら絶対に腹と腰が寒くなる。スキーなんかもダメそうである。これだけ裾が短ければ、雪がウエアの中にどんどん入って来そうである。
 襟の設定は良いんだよなぁ。長さが絶妙なので、ジッパーを上まで引き上げればちょうど首筋を良い感じで覆うことができる。襟を絞るコードロックは不要と思うほど、首周りの保温性は良好である。裾周りが辛いのがもったいない。
 ちなみに袖周りもおおらかな仕様である。ストレッチするフリース地を当てているだけなので、絞ったり開いたりの調節はできない。まあグローブをすればどのみち袖なんていじれない、という発想なのか?

 そうそう、右腕に小さなポケットが付いているのだが、このポケット位置的にもファスナーの堅さ的にも、まず着ている状態で自分で開けることができない。開発者はこのファスナー、自分で開けてみたのか?
 個体差もあるのだが、好日山荘にある4着ほどを片っ端から試してみても、なんとか自分で開けることができたのは半分ほどだった。

 まあそんなわけでメーカーがどういう用途を想定して何を考えて開発したのかがよく判らないウエアである。まああまり寒くなくて雪もない冬場のハイキングくらいになら使えるかなぁという感じであるが、そんなもんにこんな大金出すのは馬鹿馬鹿しいぞ。まあある程度予想は付いていたので、オークションで安く買ったのだが。ダメならこのサイトのネタになるし。

 今季はこのシンクロジャケットのパーカバージョン、すなわちフードが付いたモデルが販売されている。
 まあ「防水性」を謳うウエアなら最初からそうすべきだったのだ。フロントのジッパーも止水タイプになったそうだ。始めからそうすべきだったのだ。
 ならばこれは"買い"か?というと・・・まあデザインがあまりにもなんだかな、という気もするのだが、それ以前にこんなものが必要なのか?という疑問がひしひしと湧いてくるのであった。防水したいならゴアのジャケットを着込めば全て解決するのに。

 ま、このジャケット、夏に使えれば面白いのだが・・・耐摩耗性は高そうだし保温性もちょっとだけあるので、けっこう着倒せそうな感じはする。夏にならないと判らないが。でも・・・ヤブこぎするとシームテープの部分を引っかけそうな気もするが・・・


05.12.20更新

 シンクロジャケットを普段着としてだがしばらく着てみた感想を。
 普段着とはいっても、富山はこの1週間、12月としては記録的な大雪に見舞われていたので、除雪などけっこう雪の中で動き回る時に使っていたのだ。

 まず、やはりこの着丈の短さは気になる。
 両腕を上げたりかがみ込むような動作をすると、腰回りが出るか出ないかギリギリくらいの着丈である。アイスクライミングなどに使うと、確実に腰回りが出るのではないか。袖丈や胴回りなど他の部位は違和感がないだけに、この着丈の短さは不可解である。

 保温性に関しては、気温が氷点から5℃くらいの環境では、アンダーに半袖のTシャツ1枚だとさすがに寒いが、長袖の多少厚手のアンダーを着ると、動いている限りちょうど良い感じである。モンベルのジオラインEXPを着ると、少し動くとけっこう暑いと感じる。

 着丈と同様少し気になるのは、やはり蒸れる感じがある。防水生地を使っているので仕方がないのだが。
 アンダーに半袖のTシャツを着ていて、全体的にはやや寒いと感じているにも拘わらず、腋から腕周りだけに蒸れ感があって、事実腕は少し湿り気を帯びるといった状況になりやすい。ポケットがメッシュになっていてベンチレーターの役割も果たすのだが、腕周りの湿気は当然抜けない。腕周りの湿気を抜くには、よくゴアのハードシェルにあるピットジップが必要だろう。

 降りしきる雪の中ではやはり上にゴアのウエアを着なければ具合が悪い。いくら生地が防水性のものでも、フードがないので放置すれば頭から首筋が濡れ放題である。なんのための防水性生地なのだ??

 というわけでしばらく着てみてもやっぱり、メーカーが何を考えて作ったのかがよく判らないウエアである。
 防水透湿性素材を使うのであれば、やはりせめてフードは付けるべきだし前立てのジッパーも止水仕様にすべきだったろう。着丈ももう少し(2cmほど)長くないと。
 逆にこの仕様であるならば、防水性素材ではないもっと透湿性の良い素材を使うべきだったように思う。その防水性能を享受できる仕様ではないのに、タコな透湿性能だけは強制的に享受させられるわけだから・・・

 そんなわけでメーカー(と輸入業者)の主張とは裏腹に、「アイスクライミング等、動きの激しいウィンターアクティビティー」にはちょっとどうかな?というウエアだと思うぞ。着丈の短さとプアな透湿性能の二重苦である。
 むしろ冬場の低山のハイキングなど、あまり動きが激しくないアクティビティー向きだと思うんだけどな。雨や雪にはカサで対応すればちょうどという感じである。雨具のパンツまで履かねばならないような状況だと、どうせ襟元や前立てのジッパーからガンガン浸水するので、上にゴアのジャケットを着なければなるまい。

 このウエアの用途でちょっと思いついたのは、夏場のヤブ山である。
 晴天であってもある程度の標高だと、早朝は朝露でヤブはぐっしょり濡れている。そんな中をヤブこぎするとぐしょ濡れになるので、そういう用途にはこのウエア、そこそこ働いてくれそうである。早い話、薬師見平行きのような用途である。
 ただ、そこでもこの着丈の短さはネックになる。ほんと、もう2cmあればぜんぜん違うのに・・・
 あとは、夏に使うにはちょっと保温性が高すぎるかな?という気がしないでもない。

 まあもともとソフトシェルというジャンルが生まれたのは、防水性能と快適性能の両立が不可能だったからであったはずだ。
 その快適性能とはストレッチ性だったりもしたわけだが、ソフトシェルが出現した数年前とは違い、今はハードシェルでも当たり前にストレッチするご時世である。ま、本当はソフトシェルが出現した当時からストレッチするゴアテックスウエアは存在したのだが。
 なのでストレッチするのはハードでもソフトでも当たり前、ということになれば、ハードとソフトの対立点って透湿性能ということになるのでは。

 ま、この分け方はパタゴニアに洗脳されているのでは、という気がしないでもないが、まあメーカーによってソフトシェルの定義づけもバラバラなのが現状なのだろう。

 でも、
1)ソフトシェルは完全防水ではない
2)従って、雨が降ったり風雪の際には、ソフトシェルの上からハードシェルを着る必要がある
3)従って、ソフトシェルは中間着としての機能をも持っている必要がある

 という三段論法はどんな定義づけでも成立するのではなかろうか。
 この1)をひっくり返そうとすれば、完全防水素材を使うことになり、それは透湿性能を犠牲にする。そんなものをソフトシェルと呼べるのか。
 なのでゴアテックス®ソフトシェルなんて代物は、一言で言えば裏地にフリースを張ったただのゴアテックスに過ぎない。フリースの抵抗分、透湿性能はノーマルのゴアテックスより確実に落ちる。
 その程度のモノで足りる用途というのも確かに今はあるのだろうから、こういう代物が出てきたのだろうけど。小屋やアプローチから短時間で行けるアイスクライミングのゲレンデとかコンペとか。
 でも考えてみれば、そもそもゴアテックスというマテリアルでは「快適なシェル」という命題を満たせなかったために出現したのがソフトシェルというジャンルだったはずで、なのでそもそもゴアテックス®ソフトシェルという言葉自体が「郵政民営化に賛成票を投じた造反議員」のように、非常に胡散臭いわけである。ま、ゴアでなくてもコンデュイットでも同じである。

 なんだか私の中ではゴアテックス®ソフトシェルを使ったウエアをラインアップしているかいないか、というのが「見識のあるメーカーか否か」踏み絵みたいな捉え方になっていたりして。
 ま、つき合いもあるんだろうけどね。

 

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