沢登りのグレーディング

 

 今年(2012年)はちょっとマジメに沢登りを再開しようかな、と思う今日この頃なのである。
 というのも、去年、山ちゃんとソーレ谷に行って楽しかったので、山ちゃんといろいろ行くか、みたいな話で盛り上がっているわけなんだが(パートナーがいなけりゃロープが必要な沢に単独で入るほど強者ではないので)、今行こうかと思うとやはり「グレード」は多少なりとも気になるものである。
 学生時代ならグレードより自分のカンの方が遙かに信用できたし、そもそもグレードで行く沢を選んだことがなかったので気にもしていなかったのだが、中高年のど真ん中の年齢になってそんな結果オーライみたいな登り方ができるほど強者でもないし、手に負えない沢に入ってしまって泣きながら登るのも嫌なので(学生時代はそれすら気にしなかった)、無理せず登る沢を決めようとすると、ある程度グレードは気にせざるを得ないよね。

 でも、沢のグレードってどういう基準なのよ。よく考えたらそれ、知らないなぁ。

 山と渓谷社から出ている「ヤマケイテクニカルブック4:沢登り」によれば、グレードの基準はこうだ。

1級(初心者向き)
 岩場でIII級のピッチをリードできる者や、沢に慣れたパーティーはロープ不要の場合が多い。

2級(中級者向き)
 初級者のみでの入谷は控えたい。滝の直登にはロープを要する場合もある。高巻き技術も必要。

3級(中級者向き)
 滝の直登には部分的にIV・V級のピッチも含む。ゴルジュの通過にも高度な技術を要する。

4級(上級者向き)
 沢の中でビバークする長い谷で、高巻き道も不明瞭。遡行技術だけでなく雪渓の対処法など総合的な登山技術も必要。

5級(上級者向き)
 日本の渓谷としては最高ランク。泳ぎ、徒渉、高巻きなどで失敗すれば命取り。年に10パーティーほどが遡行に成功している。

6級(篤志家向き)
 昼なお暗く、井戸の底のようなゴルジュ帯が続く異様な世界。雨が降っても逃げ場はなし。完全遡行パーティーは極めて少ない。

 

 え〜っ?そうなの?

 3級が部分的にVのピッチを含む、というのが定義(とまでいかなくても目安)であるならば、私なんか3級の谷はお手上げのはずなんだが・・・
 3級のモデルルートになっている湯桧曽川本谷にV級のピッチがあるの?ガイドを読む限りではそんな感じではないけどね。

 ちなみに「関西周辺の谷(白山書房・昭和55年初版)」では、グレードはあっさりと1級が初心者向き、2〜4級が中級者向き、5〜6級が熟達者向きと書かれているだけである。モデルルートはそれぞれのグレードに2本ほど併記されているが。
 「新版 関東周辺の沢(白山書房・昭和61年初版)」では、1級が初級者向き、2級が初〜中級者向き、3級が中級者向き、4級が上級者向き、5級は熟達者向き、6級が篤志家向き、ということになっている。こっちの方が芸が細かいな。上級者と熟達者の違いって?という疑問は尽きないが。

 まあ、水量がちょっと変わっただけでも難易度が激変し、増水1回で流れが変わるのが沢だから、あまり厳密にグレーディングしても意味はないのだけど、なら取って付けたような「目安」はいらんのでは、と思うが。

 沢の中でビバークする長い谷、が4級の目安ならば、恋の岐はどうなるのだ?とか2級の沢でも高巻きの失敗は命取りになる場合が多いぞ、とかツッコミがたくさんできてしまう。

 

 ソーレ谷って1級上なんだ。「上」ってなんだ?あれが1級上なら、上のないただの1級ってどんな沢なんだ??
 ちなみに1級のモデルルートになっている比良の大谷川中谷右俣は遡行したことがある(というより"沢登り"を意識して登った初めての沢)が、あれに「上」をつけなければならない理由はちょっと思い浮かばない。強いて上げれば大滝の高巻きか。

 赤木沢には2級上が付いているが、沢自体の難易度はソーレ谷と変わらないと思う。

 というのも、沢のグレードには沢そのものだけでなく山そのものの条件も加味されているのだが、赤木沢は北アルプスの奥深くにあり、天候が悪化した際の増水も激しく逃げ場もないし、天候悪化の際は稜線に抜けてからも危険度が高い、ということらしいのだが・・・

 そりゃ混乱するわ。
 岩登りで剱岳八ツ峰VI峰Cフェースの剣稜会ルートが、「北アルプスの奥深くにあり、アプローチと下山には雪渓処理の技術も必要とされ、天候悪化の際は即座に大ピンチに陥る」からV級、なんてグレードを付けられたら、わけわかんなくなるでしょ〜?
 どこにあったってIII級はIII級だぞ。アプローチの雪渓とか荒天時のリスクなどは付帯情報として処理してもらわないと、山のリスクは多岐に渡るしそれなりの登山者は少なくともそれぞれのリスク要因を分析して自分の力量と照らし合わせるのが筋というものなので、沢のグレードは沢そのものだけで付けた方が判断しやすいと思うのだが、いかがでしょ?

 ゴルジュとか滝それぞれにグレードを付ければいいのかもね。滝は普通に岩登りと同じように最高ピッチグレードで、ゴルジュは泳ぎが入るか、難しいヘツリを強いられるかとか。徒渉はまたそれなりの基準を作って。まあ水量が変わればグレードも変わっちゃうけど、元々沢のグレードってそれは宿命だし。

 

 ちなみに私が遡行経験がある沢で「最高グレード」の沢は、北アルプスの上ノ廊下、南アルプスの赤石沢で共に4級上である。次いで南アルプスの栗代川の4級。
 この中で「難しく感じた」のは、赤石沢、栗代川、上ノ廊下の順である。まああの頃は徒渉や泳ぎはまったく苦にならなかった頃なので、上ノ廊下は単独でロープも持たずに遡行(厳密には薬師沢小屋〜中ノタル沢付近までの往復)で、当時の感覚的には比良の貫井谷(3級)の方が10倍緊張した。
 でも、普通に比良や六甲、関東だったら丹沢あたりの沢からステップアップしてくると、あの大水量はほとんど経験せずに来るわけだから、上ノ廊下が敷居が高い、というのは何となく判る。私だって今だったらちょっと渋い滝の登攀より黒部の徒渉の方がよっぽど緊張するものな。

 白山とか奥美濃の谷には、赤石沢よりもっと手強かった沢はいくらでもあるのだが、いかんせんガイドされていない沢ばかりなのでグレーディングされてないし、自分でグレーディングするほどグレーディングされた沢をたくさん遡行しているわけでもないので、よく判らない。
 あの頃は遡行する沢の見当は日本登山体系で付けていたし(同書ではグレーディングはされていない)、登山体系にも掲載されていない沢、という選び方もしていたし、たまたまクマの調査で山に入っていて目に付いた沢に入ったりというのも多かったので、遡行した沢のかなり多くが名前もよく判らない沢だったりしたから・・・(無名沢にもかなり面白いのはけっこうあったし、今では名前付いているかもしれないけど)

 例えば、薬師沢の奥の某沢(まあ知っている人も多いので今更隠す必要もないだろうから書けば、「太郎沢」と呼ばれている沢)はグレード付けたらどうなるんだろうね?
 いくつか判断材料を挙げれば、まず沢そのものは赤木沢よりは絶対に手応えはある。F1は初心者を連れて行くならロープを出すべきだろうし、それなりのパーティーでも、初見ならロープを出してみることが多いのでは。登ってみたら思ったより簡単だったね、という滝だ。他にも初心者を連れて行くならロープを出した方が良いかな?と思う滝はいくつかある。
 少なくとも赤木沢にも初心者を連れていったことはたくさんあるけど、ロープなど持って行ったこともないのだが、太郎沢に初心者を連れて行くなら、ロープは持って行くだろうな。
 赤木沢よりアプローチは短いし稜線に抜けてからの下山も容易。折立から日帰りで遡行するのも十分可能だもの。
 それらを加味すると・・・やっぱり2級?ん〜?何となくピンと来ない。赤木沢が1級なら太郎沢2級というのはすっきりするけど。

 岩苔小谷ならどうかな。
 現実にこの谷に過去3回行って3回ともロープを持たずに行っているので判断に迷うのだけど、普通ならこれはロープ必携だろうな。特に初心者がいるならF1(魚止めの滝)とゴルジュ内の滝はどれもロープが必要だな。大滝の高巻きは踏み跡が付いていればそんなに難しくはないけど、けっこうエグいのでやっぱりロープ出すかも。
 ということを考えると・・・3級か?え〜?貫井谷や川浦谷(奥美濃)と同じ〜?
 ・・・じゃあ2級か?え〜?赤木沢と同じ〜?ありえんありえん。

 ・・・いや、やっぱり私にはグレーディングはできません・・・

 ということは、ガイドのグレードもその程度に受け取っておいた方が良いということだな。
 最初から判っていたことの再確認、でした。

 

 

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