独断と偏見まみれのヘッドランプ考察

 高校の頃から夜間行動が好きである。過去の山歴の比良夜間登山が初めての夜間行動だったが、その後も高校時代には鈴鹿の仙ヶ岳〜鎌ヶ岳の縦走を夜間行動を交えてやったりもした。比良の正面谷などは1人で行く時は夜に歩くことの方が多かったくらいである。

 大学に入ってからも夜遊び好きは変わらず(街での夜遊びも好きだったが)、かなり無茶なことも含めていろいろやった。

 薬師岳〜三俣蓮華を夜間歩いた時は楽しかった。大学も後半、あの一帯の小屋でバイトをしていた頃だったので、小屋に上がって話し込んでしまっては行程が稼げないと考えついたのだが、折立を夕方出発してちょうど日が暮れた頃に太郎の小屋を通過、薬師岳を往復してそのまま黒部五郎に向かった。満月で快晴の夜で、日中の暑さもなくすこぶる快適だった。ところが北の俣岳を過ぎたあたりからガスが出始め、まったく何も見えなくなった。夜間行動でガスに巻かれると真っ暗になってしまい、何も見えなくなるのである。冬山でホワイトアウトになった時と同じである。
 気がつくと赤木沢の方向に降りてしまっており、仕方ない、北の俣岳まで戻るつもりで登り返したら中俣乗越にダイレクトに出てしまった。このあたり、どういうルートを辿ったか自分でもさっぱり判らない。
 黒部五郎を越えて三俣の登りに差し掛かったところでまたガスが濃くなってきた。おかげで巻き道を行くつもりだったのが頂上に出てしまった。あのあたりの稜線は地形がだらしなく、夜にガスに巻かれると何がなんだか判らなかった。ウロウロしているうちに頂上の道標にぶち当たったので、そこから冬山でよくやるように地図とコンパスをセットして方角を決め、ジリジリ進むことにした。が、1人だと誰かを先行させながら方向を決めることができず、けっこうズレてくる。そうこうしているうちに夜が明けてしまった。明るくなってきたら眠くなってしまったので、そのまま道にツェルトにくるまって寝てしまったのだが、登山者にそれを発見されて騒ぎを引き起こしてしまった。遭難者だと思われたらしい。

 チンネの左稜線を夜間登攀しようと企んだこともあった。だが、少しシーズンを外したのにも拘わらず、三の窓に幕営者が意外に多く、決行するとまた騒ぎを引き起こしそうなので断念した。
 御在所の一壁は夜、何度か登攀した。夜間の岩登りはグレード1つは確実に難しくなることが判った。満月だと意外にホールドは見えるのだが、ハーケンはさすがに見えないのでプロテクションを取るのが大変だった。新月で暗かったりガスったりして暗くなるとヘッドランプを出さなくてはならなくなるのだが、そうするとホールドの陰影が自然光とまったく違うので、適切なホールドを選ぶことがえらく難しい。WのルートなのにわざわざXのホールドばかり選び兼ねない。

 幾多の夜遊びの結果、判ったことがいくつかある。
 まず、月明かりがある時の稜線歩きは、ヘッドランプは点けない方が良い。空気が澄んでいる高山帯の満月の夜は、もう明るさにおいては昼間とたいして変わらない。ヘッドランプを点けると照らした場所しか見えなくなるので、却って視界が極端に狭くなる。満月でなくても半月くらいの月ならもう十分である。
 また、高山帯なら空気が澄んでいるので、まったくの新月の時でも星明かりでけっこう見える。
 だが、ガスに巻かれるとマジに真っ暗闇である。冬山でのホワイトアウトの時と同等かそれ以上の「闇」である。ホワイトアウトの時でも自分の手くらいは見えるが、夜に濃いガスに巻かれると自分の手すら見えない時がある。
 次に、夜の谷歩きは極度に難しい。絶対的な光量が少ないので、満月で快晴の時でも真っ暗闇に近くなることがある。新月だったりガスっていたり、さらに樹林帯の中だったりしたら、もう比喩や言葉の綾でなく、本当に自分の鼻をつままれても判らない。
 だいたい登山道が普通についている谷でも夜は苦労すること請け合いである。道が谷でも渡っていようものならお手上げになることもしばしば。
 また、見える範囲が極度に狭くなるので、水量比が10対1くらいある枝沢の出合いでどちらが本流か真剣に悩んだりしてしまう。昼間だったら気づきもしない程度の細い枝沢に入り込み、しかも1時間近くもそのことに気づかなかったこともあった。
 夜の沢登りだけはするもんじゃない。(まあ堅気の人はしようとも思わないだろうが)
 稜線歩きは楽しい。晴れていれば視界はあまり心配ないし、人がいないので世界を独り占めした気分になれるし、暑くないので快適である。ガスが出て視界を塞がれてこりゃヤバイと思ったら、その場でツェルト被って寝てしまえばよろしい。夜が明けたら登山道の上なので、ガスっていようが雨が降っていようが、たいていの場合はノープロブレムである。

 というほどの夜間行動マニアだったわけなので、さぞヘッドランプにはうるさいだろうと思いきや、ぜんぜん何でも良いのであった。
 現在持っているヘッドランプは下の写真にあるとおり、4つである。

最強ヘッドライト! 
ヘッドライト

 

 まず、上の写真だが、これは大学時代から使っているヘッドライト。
 単1乾電池4コという大容量が長所であり、また致命的な弱点でもある。
 なんせ重い。電池ボックスは別体になっていて、腰に着けたりザックのヘッドに入れたりするのだが、かなり重い。腰に着けていて電池ボックスを落としてしまった時など、頭が電池ボックスに引っ張られてむち打ちになるかと思った。
 ただ、その重さの代償として、明るさは強力無比である。最近のリチウム電池とLEDを使ったランプなど、どんなに「強力」と謳われていても、こいつに比べれば赤子同然である。
 また、電池の保ちも良く、1週間の冬山くらいなら予備電池は必要なかった。さらにそのまま1週間の春山に持っていけるくらい保った。
 でも・・・・重いわ、いくらなんでも。というわけで、おそらく今後は出番はないであろう。

 下の写真の左のは、高校から使っているもので、一時はヘッドランプといえばこれしか見かけなかった。この前に単3乾電池4つのタイプがあったが、これは2本である。豆球を3回くらいしか交換していないのに、もう20年近くも働いている感心なやつである。

 真ん中のは最近買った流行のLEDのもの。明るさはまあこんなもんか、という程度。「白い光」というのは車でHIDのヘッドライトが出てきた時と同じく、妙に新鮮に感じるが、絶対的な光量はたいしたことないので、夜間行動の助けにはさほどなにそうもない。これで見える程度の暗さだったらヘッドランプなどない方が良く見えるし、ほんとに真っ暗になってしまえばこんなものでは役に立たない、と思う。
 ただ、テントの中で本でも読むには白い光は良いかもしれない。

 右のものが最近見つけた掘り出し物である。単3乾電池2本を使うタイプなのだが、明るさはまず十分である。そして生意気に防滴構造だったりする。それでいて値段が680円なのである。滑川のPLANT3で見つけた。今のうちに買い占めておこうかとすら思っていたりする。


 話は変わるが、昔、牛の受精卵移植の仕事をしていた。
 牛の子宮に別の牛から採取した受精卵を入れて受胎させるのだが、牛の子宮頸管は細長いので、手でホールドしてやらないと移植器を通過させてやることができない。体内にある子宮頸管をどうやって手でホールドするのかというと、牛の肛門から腕を突っ込んで直腸越しに子宮頸管をホールドするのである。(長男が保育所時代、保母の「お父さんはどんな仕事をしていますか?」という質問に「牛のお尻に手を突っ込む仕事です」と答えたらしい)
 が、技術的な問題はその頸管通過ではなく、移植器が膣を通過する際に膣の雑菌を子宮内に持ち込んでしまうことだった。それを防ぐためにいろいろな方法が考案されたのだが、私はその中で膣を膣鏡で開き、頸管の入り口にダイレクトに入れる、という方法をよくやった。頸管の入り口に移植器が入ったら、移植器が抜けないように右手で押さえつつ、すかさず左手を肛門に入れて頸管をホールドするのである。
 この方法は移植時間も短縮できて汚染もほとんどなく、なかなか優れていたのだが、唯一の課題は膣の中にうまくライトを当てないと頸管の入り口がなかなか見えないということだった。
 移植の際はたいてい酪農家の親父が牛を抑えつつ手元の助手もしてくれるので、「懐中電灯が必要だね〜」なんて言っていたら、その親父、「判った。次までに用意しておく」と言ったもんだ。
 次回の移植の際、その親父は銀色のペンサイズのマグライトを嬉しそうに出してきた。隣で奥さんが「2万円もしたんだって・・・」と呆れ顔でぼやいていた。
 この時、ああ、この親父、いい歳こいて男の子だなぁ・・・と思ってしまった。

 こういうライト類って、妙に物欲を刺激する時があるんだよね〜。家に4つも転がっていても、どこかの店でちょっと面白そうなライトを見つけると、「お、買ってみようかな」という気になってしまう。
 ナイフに異様に拘る人もいるよね。いつもギラギラに研いだナイフを腰からぶら下げているくせに、ハムを切ってよ、と頼むと、「そ、そんなもの、俺のナイフで切れるか!!」と青筋立てて怒るやつとか。
 山小屋でアルバイトしている時も、小屋中の包丁を1日がかりで研いで、夕食準備の仕事中タクアン1本切るのに30分もかけて、綺麗に5mmで揃った切り口を眺めて1人でにま〜っと笑ってる人がいた。

 ちなみに亡くなった父もナイフには拘っていたようで、何本も持っていた。亡くなった時に何本か形見分けで持って帰ってきたが、そのナイフで石の上でサロンパスなんぞをがしがし切っていたりして。親父が見たら怒るかも。

 また話が飛ぶが、形見分けで思い出した。
 父が亡くなる半年ほど前の話だが、肝硬変が悪化していよいよ死期を悟った父が私を病室に呼んだ。
 神妙な顔をして、「今のうちにお前にやりたいもんがある」と言うので、どんなお宝が出てくるのかと思ったら、「テレビの裏にタバコが1カートンあるからお前にやる」ときたもんだ。大笑いした。


 8月末に薬師沢に行った時、LEDのヘッドランプをロストした。
 2日目の夜、薬師沢小屋で飲んでいてお開きの時だった。夜の11時頃だったと思う。
 その日は午前中にとてつもない増水があり、目指していた赤木沢を断念せざるを得なかったのだが、夕方にはかなり減水していた。で、寝る前に川の様子でも見ておくかと小屋の窓を開けてヘッドランプで川を照らそうとしたその時、手にバンドだけを残してヘッドランプ本体がするりと闇の中に落ちていった・・・
 一瞬、外に出て捜そうかと思ったが、その晩はビールから始まって焼酎、どぶろく、ブランデーとかなりの量を飲んでいたので、かなり足元が怪しかった。それで翌朝捜すことにして真っ暗な中、手探りで寝床に戻ったのだった。
 翌朝は、朝の5時半から黒部川本流が鉄砲水に襲われ、朝食時までヘッドランプのことは忘れていた。
 朝食時に思い出し、ちょっと外に出て捜してみたのだが見つからなかった。かなり激しい雨が降っていて、薬師沢も増水するのは時間の問題であり、さっさとズラからないと帰れなくなってしまうのは火を見るより明らかだった。なので涙を呑んでヘッドランプは諦めたのである。帰り道、第二徒渉点で徒渉中にストックまでロストしてしまうし、よくものを無くす山行だった・・・

 ちなみに、私より少しズラかるのが遅れた元警備隊の浦田さん達は案の定第三徒渉点で増水に捕まり、しばらくそこで待機することを余儀なくされた。
 ところが私はさっさと下山してしまって知らなかったのだが、その日に薬師岳で転落者がいたらしい。その遭難者を浦田さんがピックアップしたのである。後日、救助した遭難者から感謝状が届いたことが新聞に載っていて、その記事を読んで初めてそのことを知った次第である。
 その記事を読んでうまくしたもんだなぁ〜とちょっと感動した。もし浦田さん達が私達と一緒に薬師沢を切り抜けていれば、当然その事故の時点では下山してしまっていていたわけである。きっと神様がそのために浦田さん達を第三徒渉点で足止めしていたんだろうな。天の配剤、とでも言うのだろうか。

 さて、ヘッドランプ
拾ったヘッドランプ 

拾ったヘッドランプ

だが実は7月末にブナクラ峠に行った時、1つ拾っているんである。
 同じナショナル製なのだがLEDではなく豆球タイプのものである。
 ヤブの中にバンドがなく、本体だけがポツンと落ちていた。
 で、ロストしたヘッドランプは本体だけでバンドは手元に残っている。
 組み合わせてみたらこうなった。これも天の配剤であろう。

 


 


 あまりヘッドランプには愛情を持っていなかったので型番など調べてもいなかったのだが、後に反省して型番くらいは調べるようになったので、薬師沢小屋でロストしたヘッドランプはBF-198というモデルだったことが判った。拾いモノの方はBF-192である。

 で、このロストした方だが、その翌年になって出てきた。
 その前の年(ロストしたとき)の小屋閉めの時、バイトの山ちゃんが発見してくれたらしい。しかも1ヶ月半ほど屋外で雨ざらしになっていたにも拘わらず、そいつは生きていた。

 というわけで、我が家のヘッドランプは5台体制になったわけである。といってもさすがに単一4本のは出る幕がないだろうが・・・

 本来、家族連れでテント泊キャンプをするとき、ヘッドランプなど2つもあれば十分である。子供にヘッドランプなど持たせるのは電池のムダというものである。
 とはいうものの、子供は光り物が好きである。ヘッドランプは子供の憧れの装備なんである。だから夜の間中貸せ貸せとうるさい。で、根負けして貸してやると今度は子供同士でヘッドランプを巡って血を見るような闘いを始める。
 そんなわけで根負けしてヘッドランプは4つ持っていくようになった。テントの中で取っ組み合いのケンカをされるくらいなら、バッテリーの1つや2つは安いモノである。

 となるともう現役を引退して余生を送っていた、高校時代から使っていたのを再び引っ張り出さざるを得なくなるわけで・・・
 これ、もう既に接点が甘くてガムテープで無理矢理接触させているんである。おまけに角度調節のヒンジも甘く、こいつを装着して歩いているとだんだん下がってきて、ついには自分の鼻の頭を照らすようになってしまう。
 いくらなんでもこれはもう引退させてやらねば。

 ま、もうホームセンターで600円で買えるのでいいよね、なんてカミさんと話していたのであるが、別の用事で好日山荘に行ったとき、ふと目に留まったヘッドランプを買ってしまった。何が目に留まったかというと、問答無用のパワーである。
 CR-123Aを2個も使うモデルで、その代わりやたら明るい。おまけに光量を6段階に調節でき、最小光量時の連続使用時間はなんと400時間である。(その代わりほとんど無意味なくらい暗いが)
 さらにベゼルで光軸の広さを調節できるんである。私はこういう子供だましのギミックに弱い。

 というわけで買ったのはナショナルのBF-263Bというモデルである。かなりカミさんにアホ呼ばわりされた。
 さっそく息子2人を連れて2階の部屋に上がり、電気を消して真っ暗にしてヘッドランプを最大光量で点灯し、「へっへっへ〜、明るいだろ〜」などと自慢している父であった。まぁ息子共が欲しがること。でも、これは父のだからガキには使わせないのである。

 ちなみにペツルミオも気になっているんである。
 一番高いのは1万円もする。でも明るくて楽しそう。
 踏み止まっているのはバッテリーの系統が違うからで、最初にナショナルのCR-123Aを使うモデルを買ってしまったので、違う電池を使うモデルを買うと山に行くときに何種類もの電池を持って行かねばならないのが嫌なんである。
 でも、格好いいな・・・


 ヘッドランプを衝動買いした。好日山荘のポイント3倍セール、別名「ボーナスの金落とせセール」でそんなつもりはさらさらなかったのに、気が付いたら買っていた。

 購入したのはブラックダイアモンドベクトラIQというモデルである。7000円以上した。ここからロストアローの該当ページを閲覧できる

ブラックダイアモンド ベクトラIQ

Black Diamond  ベクトラIQ

 なんせ明るい。
 最大照射距離、実に150mである。これに引かれて買ったんである。

 

 


 実は、このサイトの読者の方からメールをいただいたのだが、その方が私のサイトの影響で夜間行動に興味を持ち、そのためにヘッドランプを買った、と書いてこられた。その人が買ったというのがヘリオンなんだそうだ。
 対抗意識を燃やして、だからもう1つ上の機種のベクトラIQを、というわけでもないのだが、今持っているヘッドランプはみなLEDのもので、いくら明るいと言っても夜間行動には少し頼りないのは事実である。
 で、ちょっとその人のメールに触発されて夜間行動に耐えうるランプを衝動買いしてしまったというわけなんである。

 ちなみにヘリオンとベクトラIQの価格差は2000円ほどである。
 それで性能的にどこが違うのかと言えば、明るさがキセノンLED共に少しベクトラの方が明るいのと、照度調節が可能という点である。
 ・・・それでバッテリーがもったいないからと最小照度でばかり使っていると、結局ヘリオンの方が明るいということになりかねないが。
 また、バッテリーは共に単三電池なのだが、ヘリオンは3本、ベクトラは4本である。3本だと中途半端である。たいてい単三乾電池は4本パックなので、3本しか使わないと余った1本がどこかに行ってしまいそうである。

 確かに明るい。照射距離150mは嘘偽りではない、と実感する。
 夜間行動したくなる装備を買ってしまった・・・

 

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