パタゴニア
ストレッチ・アセント・ジャケット

 

 3年前に購入して気に入って使っていたパタゴニアのジェットストリームジャケットだが、ひょんなことからお亡くなりになってしまった。

 事の発端は7月末に捕獲グマの調査に出動したことがきっかけであった。この調査、罠(ドラム缶のような檻でクマを捕獲する)にかかって捕獲したクマに対してDNA検体(毛)や体測等のデータを取り、電波発信機を付けて放獣して追跡するものなのだが、捕獲したクマにこのような処置をするためには、クマさんに眠っていてもらわなければならない。その麻酔処置に出動するわけである。

 この時は雨が降っていた。この時たまたま持っていたのがジェットストリームジャケットだったので、不覚にもそれを着ていたわけである。
 檻の隙間からクマを見て(少し柵を開けただけで怒り狂ったクマが突っかかってくるので、あまりじっくりとは見ることができない)体重を推定し、麻酔の量を計算して吹き矢に仕込み、麻酔銃で撃って眠らせるわけだが、眠ったクマを檻から引きずり出したら思っていたよりずっと大きなクマで、これでは麻酔が足りずにすぐ目を覚ましてしまうと慌てて追加投与したことは、まあ話の本筋ではない。
 数年前には処置が終わったクマを檻に戻そうとしたら、麻酔量が足りずにこの時点で目が覚めてしまい、下半身はまだ麻酔が効いているので腰は抜けているのだが上半身はもう復活したクマが、腕だけで這い回ってその場にいた人を追いかけ回すという悲劇だか喜劇だか判らない事例があった。

 ともかく今回の悲劇はそんなことではなく、仕事自体は円滑に終わったわけなのだが、問題は眠ったクマを移動させる際に4人でクマの足を1本ずつ持って持ち運んだわけだが、その時に私がジェットストリームジャケットを着ていたことである。

 ジャケット、ほんの少しクマに触っただけなんだけど・・・そりゃもう凄まじく獣臭くなってしまった。

 こりゃたまらんと、帰ってから洗濯することに。
 洗濯する時、ではついでにニクワックスをかけようと思いついた。洗濯はちょくちょくしているが撥水処理は1年ほどしてなかったし、直後の涸沢でも当然使う予定だったので、ちょうど良いタイミングだし。

 と・こ・ろ・が・・・

 ニクワックスをかけたジェットストリームジャケット、まるでベタベタになってしまって使うどころか手で触っただけで手がネバネバになってしまうのである。さすがにちょっと焦った。3回くらい洗濯し直してもダメ、乾けば少しはマシになるかと思って干してもダメである。
 ニクワックスの販売元に聞いたら酢で取れるというので酢を使ってみてもダメ、ならば重曹はどうだと使ってみたら、ワックスは取れるのだがウエア表面でネバネバのダマになってしまって、これを除去するのは気が遠くなるほどの根気が必要そうである。

 まあ涸沢は久しぶりにダイナアクションパーカを持っていって、ほとんど毎日雨だったので大活躍したわけだが、山から帰ってきても変わらずネバネバのままのジェットストリームジャケットを見るのは気が滅入った。

 もう自分ではどうにもならないと、パタゴニアのカスタマーサービスに修理を依頼。
 でも、結局サービスでもどうにもならなかったのだ。もはやこれまでか。

 ところが、パタゴニア製品は永久保証なので、この場合代金返却になるか同等品と交換、ということになるらしい(ジェットストリームジャケットは既に廃番になっているので)。ほんとか?もう3年も経っているモノだぞ?
 「追い金するから同等品より高いモノと交換してもらえる?」と聞いたらそれもokだと言う。

 というわけで、追い金10,500円を払ってストレッチ・アセント・ジャケットと交換してもらったのだ。

パタゴニアさん、ありがとう

 電話の向こうのお姉さんに惚れてしまいそうになりましたぜ。

 

メンズ・ストレッチ・アセント・ジャケット ウィメンズ・ストレッチ・アセント・ジャケット

 

 で、届いたのがこれである。ちゃんと色も選ばせてくれたのである。

 

patagonia Strech Accent Jaket

patagonia Strech Ascent Jacket

 

 最近のパタゴニアはオールリサイクル化を急いでいて、ハードシェルもポリエステル製の製品が増えている(一部にはリサイクルナイロン製品もある)。
 このストレッチアセントもポリエステル生地である。私はわりと好きである。ハードシェルに特有のパリパリ感がなく、着心地もしなやかだし手触りもソフトシェルっぽいのである。ジェットストリームと同じ50デニールの生地なのだが、こちらの方が遙かに生地にしっかり感がある。まあその分100gも重いわけだが。

 届いて細かく見るまで意識してなかったのだが、このモデルはパタゴニアお得意のウェルデッド・シーム(糸を使わずに溶着で生地を接合させる技術)ではない。webカタログではズームさせてみても"縫い目"は見えないのだが、ちゃんと縫い目はあった。ただ、糸がほとんど生地表面に露出しないような縫い方をしている。

 フードの調節はパタゴニアはシングルプルと言っているが、下写真のように、後頭部にあるドローコードで顔周りと頭周囲を同時に調節する方式になっている。これ、2年ほど前にモンベルが始めたやり方だよな。モンベルは"ワンハンド"と言っているが。
 これ、なかなか良い。ちょっと引いただけで凄く締まるので微妙な調節がちょっとやりにくい気がするが、操作性はとにかく抜群である。

 

patagonia Strech Accent Jacket

フードの調整コード これ1本で顔周りと頭周囲を同時に調節する

 

 ポケットがメッシュ地になっているということは、レインウエアとしての使用も考慮はされているということだろう。
 ジェットストリームジャケットほどポケット(の開口部)が大きくないので、開放した時の換気効率は少し落ちそうである。また、ピットジップもあるのだが、これもジェットストリームジャケットより小さくなっている。ジェットストリームはあれだけ大きなポケットがありながら、そのポケットとほとんど並行するような大きなピットジップが付いていたものなぁ。
 そのポケットは、ジェットストリームジャケットは接合する生地にテンションを持たせていて、ポケットを開くと開口部が大きく開くようになっていた。これで換気効率を上げていたわけだが、ストレッチアセントはそこまで大きくは開かない。
 こういう「メッシュ地のポケットを大きく開口させる工夫」ってオンヨネも前のモデルでは金はかかってないけど頭は絞ったな?的な工夫をしていたのだが、現行モデルではやめてしまった。私は非常に評価したいのだけど、こういう工夫って他のユーザーにはあまり評価されないのだろうか。

 ジェットストリームジャケットでも思ったのだが、ピットジッパーは胴体側ではなく腕側を長く取って欲しい。腕ってけっこう蒸れるのよ。
 胴体の蒸れは、せっかくポケットがメッシュ地なのだから、ポケットを大きく開口させれば済む話ではないか。

 

patagonia Strech Accent Jacket

裏地側 ポケットはメッシュ地で左側には内ポケットもある

 

 こうしてみると、レインウエアとしての使用も考慮はされているようだが、かなりしっかり感がある生地であることや補強の入れ方を見ると、アウター用途をかなり意識した造りのように思える。
 パタゴニアらしく、丁寧な造りで質感も高く、非常に良いジャケットなのは間違いない。重量的にモロにダイナアクションパーカと被ってしまったので(ほとんど同じ重量)使い分けができなくなってしまった(軽量オプションがなくなっちゃった)のは痛いけど、何故かレインシャドージャケットには食指が動かないので仕方ない。(山でけっこう頻繁に見るようになったからだからかな?)

 こうしてみると、ジェットストリームジャケットって凄く的を得た設計だったんだよな・・・開口部が大きく開くメッシュポケットと、そのすぐ横を走る大型のピットジッパーのおかげで蒸れ知らずだったし、軽かったし異様にコンパクトになったし。コンパクトだったのはウェルデッド・シーム(当時はCSSと言っていたが)のおかげだったのだろう。
 ・・・なんで廃番になったかな??

 ま、着心地はだんぜんこちらの方が良いし、しっかりした造りなのだけど。

 そうそう、ストレッチアセントは全体的にストレッチ生地を使っているので、よく伸びる。ジェットストリームはストレスがかかるほんの一部分の生地だけがストレッチ生地だったが、一部に使うのと全体に使うのでは、伸び率は同じでも伸び幅はぜんぜん違うのだ。そりゃこっちの方が着心地が良いはずである。

 

パタゴニア

 

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