アンダーウエア

前 振 り

 私が高校〜大学前半あたりまで、つまり今から25年くらい前は、現在のポリエステル系の化繊アンダーウエアが存在しなかった。
 なので夏山はたいてい綿のTシャツを着ていったのである。
 綿のTシャツは雨や汗で濡れると繊維が吸水してしまうのでべっとりと濡れる。濡れたらいつまでも乾かず肌に張り付き続ける。なので身体は非常に冷える。
 夏なら涼しくてよかろうかと思いきや、真夏の1000m級の山でも歯の根が合わないほど寒くなったりしてヤバかった。3000m級で雨の中、こんなものを着ていたらマジで死ぬ、ということが実感できたものだった。
 事実、夏の北アルプスも綿のTシャツがまだまだ主流だったのだ。当時はレインウエアもまだゴアテックスの登場以前だった(というより高価で買えなかった)ので、そんなウエアで森林限界を越えたところで雨に遭うと、マジで即生命の危機を意味した。昭和30年代には、なんでもない稜線上でバタバタ人が死んでるものね。

 化繊のシャツがないわけじゃなかったのだ。ポリエステル系のシャツは昔からあったのだが、単に吸水しないというだけのものだったので(別に山用のではなかった)、かいた汗はいつまでも肌にまとわりつき、そこにシャツが張り付き、結果的に綿とたいして変わらない結果になっていた。

 当時は濡れによる体温低下から身体を防御する素材はウールしかなかったのだ。だからTシャツの上には必ず山シャツを着るのが定石で、そのシャツは真夏でもウールのものだったのだ。私たちはそのウールの山シャツを「純毛」と呼んでいた。野球拳の出場選手に「俺の純毛、貸したるぞ」というように使う。(高校時代はよくテン場で野球拳が開催されており、下級生が犠牲となっていた)

 つまり当時のウエアリングは、綿のTシャツの上から純毛を着る、というのがスタンダードとなっていたわけである。風が吹いて寒いときはその上からヤッケ(こいつも綿製だったなぁ)、雨の時はハイパロンのカッパを重ね着するわけである。ゴアではなかったので、カッパはヤッケの代用にはならず、両方持たねばならなかった。
 で、汗なり雨でベースレイヤーのTシャツが濡れることは避けられず、これには「替えを多く用意してマメに着替える」ことで対処していたわけである。

 夏は当然汗をかくと気持ち悪い。なのでメッシュになった網シャツなる不気味な衣類が存在した。メッシュといってもその目は2cmくらいある巨大な網の目である。ここまでくるとそもそも何のためにシャツを着るのか判らなくなってくるのだが・・・
 学生の頃、同級生にその網シャツを大学に着てくるやつがいた。網シャツの下は素肌なので、上半身裸も同然である。いや、見た目裸より不気味であった。変わったやつだったが、そいつも今じゃどこぞの公務員である(辞めてなければ)。

 ひとつ断っておくが、私が高校生だった25年前には既に機能性化繊のアンダーウエアもゴアテックスも登場していた。
 貧乏学生には買えなかったので、そういう先端装備は数年遅れて我々に入ってきたのであった。

 

 さて、私が高校生の頃だったか、オーロンという素材が出た。フリースにも使われていた素材のようなのだが、なんせ「濡れても冷たくならない初めての化繊」ということで注目を集めた。1981年のモンベルのカタログを見ると、Tシャツで3800円である。25年前でこれは高いぞ。ちなみに開発はデュポン社である。当時の先端素材はダクロンやオーロン、ハイパロンなどほとんどがデュポン社だったような記憶がある。

 さてそのオーロンのTシャツ、私は1着だけ買った。まあ冬山はウールのババシャツがゴールデンスタンダードであり、オーロン登場後もそう容易くその地位を明け渡すことはなかったのだが、夏山は即オーロンオンリーになった。でね1着しか持っていないので、つまりず〜っとその1着を着ているわけである。3週間の合宿なら3週間ず〜っとである。昔の山の写真集を見ると、20枚中実に6枚が、そのたった1着のオーロンのTシャツを着ている写真である。胸にカラビナの絵がプリントされているものでモンベル製であった。ま、つまり山に着ていくベースレイヤーはこれしかない、という状態が長かったわけだな。
 年月が経ってそのTシャツは、カラビナのプリントも擦り切れてただの紺色のTシャツになっていたのだが、それでもまだ着ていた。
 カミさんと結婚して、家を建てて引っ越しする時になって、知らない間にカミさんがそのTシャツを捨てていて激怒したものであった。ま、そりゃどう見たってただのゴミなのだが。

 そうそう、「山シャツ」なんてものは綿のアンダーしかなかった頃に仕方なく着ていたウエアだったのだ。アンダーだけでは危険だから。
 その当時、山シャツといえばチェック柄しかなかったことをちょっと不思議に思っていたのだが、でも今でもあまり状況は変わっていないみたい。不思議だ。そもそも前立てがボタン留めの長袖シャツという代物がなぜ必要なのか理解できない。今の私のウエアにはそういうものは1つもないが、何も不便など感じないのだが・・・

モンベル ジオラインアンダーウエア

 さて、現在では機能性化繊のアンダーウエアは各社からそれぞれ良いものが出ている。デュポン社のダクロンを使ったものは各社から出ているし、モンベルのウィックロンやジオライン、パタゴニアのキャプリーンなどの素材もあり、どれを選んでも間違いはあるまい、と思う。
 まあ基本的に化繊素材は「保水」せず、繊維の毛細管現象を利用して内側の水を外側に吸い上げているわけである。なので性能的に劣る素材だと、特に夏場で汗を大量にかくときなど、吸い上げが追いつかずに肌にべったりと汗が溜まってしまう。登山用のウエアメーカーでないメーカーの「速乾性」と謳った化繊素材にその手のモノが多い。確かに繊維が保水するわけではないので、濡れた状態のものを絞ればあっという間に乾く。その意味で「速乾性」という謳い文句は決して嘘ではないのだが、登山用アンダーウエアとしては少々役不足な気がする。
 が、しょせん化繊ではいくら吸水拡散性があるといっても限界はあるだろうな。そういう意味では、やはりウールはいいな、という気はする。昔のウールはチクチクチクチク体中を掻きむしりたくなるほど着心地は悪く、なので夏場にはとても着る気がしなかった。冬に仕方なく着るシャツだったのだが、今のウールは肌触りも非常に良い。夏場でもウールのシャツが快適で良いかも。

 ウールが良いな、と言いつつ化繊に話が戻るのだが、今年(2005年)の秋にモンベルのジオライン製アンダーウエアが一斉にモデルチェンジした。全体的に薄手になり、パターンとか袖の仕様とかがモンベルお得意の非常にチマチマとした細かい改良が加えられている。
 モンベルのアンダーウエアは、厚さ(保温性)によりエクスペディション(EXP)、ミドルウエイト(MW)、ライトウエイト(LW)の3種類ある。
 従来のEXPなどは、「これはアンダーウエアぢゃなくセーターなのでは・・・?」と思うほど分厚かったのだが、現行になって同程度の保温性を確保しているとは俄には信じがたいほど薄くなった。

 で、ある秋口の日、好日で店員のT氏と話しているときに聞いたのだが、そのモンベルの営業の兄ちゃん(モンベルのカタログにも登場している)が、普段着にそのアンダーウエアのしかもEXPを着ているのだそうだ。「これがいいんですよぉ」とのことなんだそうだが・・・

 ま、このデザインのものを「普段着」のしかもアウターとして着る、というセンスはまあいい。ちょっとアウターとして着れるデザインではないようにも思えるのだが、私もそういう意味では人のことは言えないセンスだからしてそこは問わない。
 しかし。EXPは暑くねーか?
 でも、モンベルの兄ちゃんがそう言うのだったら、一度話のネタに買ってみても良いか、とふと思ってしまったわけである。普通ならEXPを買うなんて発想はまずあり得ないのだが。もし結果がタコでも、このサイトのネタにはなるし。(最近そういう発想の買い物が多くなっているような気が)
 と私が言うのに影響されたか、好日のT店員も買ったらしい。
 つまりこのモンベルの営業の兄ちゃん、体を張って2着売ったわけである。営業マンの鑑である。

 で、モンベルのジオラインアンダーウエアEXPのジップネックシャツを買ったわけである。

 ・・・暑いよ、やっぱこれ!

 なんつーか、脅威の保温性である。こんなに薄いのになんでこんなに暑いんだ。
 まあニット地なので伸縮性が非常に高く、肌に密着することで保温性を稼いでいるような造りである。なので私の体型でアウターとして着ると信楽焼のタヌキみたいである。そうとう格好いい体型でないと不可能。また、この保温性ではこの上にさらに何か着るとゆでだこ状態である。なので普段着としては封印せざるを得ない。
 でも行動着としては非常にイケる。この上から薄手のソフトシェル(マウンテントレーナー等)を着れば、低山なら真冬でも行動できそうである。基本的に薄手なので、行動中は過大な保温性を発揮して暑苦しくなることもなさそうだし。

 

ワコール サポートタイツ CW-X

 近頃流行のサポートタイツであるが、実はこの夏に既に購入済みであった。ワコールのCW-Xエキスパートモデルである。
 今までここに書かなかったのは、どう書いていいものやら・・・と迷っていたせいなのである。

 まあ考えてみれば私は、こんな体型&体重の割には別に足腰に問題を抱えているわけでもないのである。膝も別に痛くならないし、筋肉痛にだってならないのである。必要ないのかも。

 これを買ったときはちょうどソフトバレーをするときに膝がちょっと怪しげだったのだ。

注)ソフトバレー

 柔らかいボールを使うバレーボール。
 ソフトバレーというスポーツ自体は比較的ポピュラーなのだが、ルールはそれこそ地域の数だけあるほど。
 上市町ルールは、サーブがアンダーサーブに限定されることくらいの他は、ほとんど普通の6人制バレーボールと同じ。ローテーションは単純な右回りだしバックアタックの制限などもないが。

 さすがにこの体重で跳んだり跳ねたりする三次元のスポーツは膝に厳しいか、と思って山に登るときくらいは膝を大事にしようと買ってみたのだが、その後怪しげだった膝は快調そのものになってしまった。
 薬師見平の下山時も、三角点から折立まで30分少々という気が狂ったようなハイペースで駆け下りた時も、足腰には何の不安も抱かなかったのだ。

 このサポートタイツを山に履いていったのは8月の赤木沢が最初である。
 この時は下山時に膝が痛くなった。山を歩いていて膝が痛くなるのは久しぶり、というかほとんど初めての経験だったのでちょっとショックだった。もしかしたらこのタイツのせいでは?という軽い疑惑が胸をよぎった。
 次に10月の薬師岳にも履いていった。その前の9月の立山には、カミさんや息子達と歩くのにそんなアイテムは必要なし、と履かなかったのだ。
 薬師岳では股関節が痛くなった。でもこれはタイツのせいではなく、靴のせいだということは明白である。ソールにカーボンが入った靴で木道を歩けば、股関節や足首が痛くなるのも当然である。

 そんなわけでこのサポートタイツの効用は、まだ私には実感できていない。腰や膝などに故障を抱えている人であれば実感できるのかもしれないが・・・

 ちなみに気に入ったのはこのタイツ、涼しいのである。クールマックスという素材を使用しているからだろう、常にす〜っとした清涼感がある。こんなものを履くのは暑苦しいのでは、と思っていただけにこれは嬉しい誤算であった。

 ただ、なんというかウエアのコンビネーションが難しい気が・・・

 今まで山で履くズボンにはまったくといって良いほど無頓着で、定番はスーパーで買った安物のジャージだったのだが、夏場にジャージの下にタイツはさすがに暑苦しい。思ったほど実際は暑苦しくはないのだが、とにかく想像しただけで暑い
 かといってこの私の体型で、下半身はタイツオンリーというのは軽犯罪法に触れる気がする。
 必然的にショートパンツと組み合わせるしかなくなるのだが、ヤブこぎや岩場でタイツの耐摩耗性を気にしなくてはならなくなるのはちょっと嫌だ。そんなところに行かないハイキングならいいかもしれないが、もし薬師見平に履いていっていたら、薬師見平に辿り着く前にタイツはズタボロになっていただろう。
 ちなみにあの時は履いていったジャージが、ヤブこぎ開始1時間も経たないうちに尻が用足しができるくらいの大きさに破れてしまった。
 テレビ放映で映っていた赤牛沢のロープダウン、最後の清冽な沢を行くパーティーの後ろ姿、実は私の尻は大きく破れていたのであった。偶然にも黒のジャージの下に黒のパンツを履いていたのでほとんど目立たないのだが、赤牛沢ロープダウンの場面では、DVDでコマ送りにすると一瞬だけ確認できる。(しなくていいよ)

 まあそんなわけで、やっぱタイツに短パンというスタイルは、やはり耐摩耗性に劣るのでなんとなく気が進まないのであった。ジャージなら破れても気にならないんだけどね。

 ちなみに赤木沢では悪くなかった。むちゃくちゃ水切れが良いので徒渉してもあっという間に乾く。ただやはり岩にずりずり擦りながら登るとすぐ破れそうとか、そんなことが気になるのであった。赤木沢ならそんな場所はないから良いんだけど。
 クールマックスも8月だから良かったが、これが7月くらいの冷たい水だと涼しいを通り越して寒かっただろうと思う。

 そんなわけで買ってはみたものの、話のネタにしかならないのであった。
 近い将来、膝や腰を傷めたりすると、もっとありがたみが判るのだろうか。

 

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